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法律家業界の話⑩ 弁護士会の話

こんにちは。まったん弁と申します。

このnoteでは,私の弁護士経験から,法律家の業界について業界外の人々に向けて,お役に立てる情報を発信しております。

これまで弁護士・裁判とかかわったことがないよ,という一般の方々,個人事業の方,中小企業の担当者などを想定しておりますので,法律のややこしい部分はあまり拘らず,ざっくばらんに,かつ,短い時間で気軽に読むことができるnoteにしております。

今回は,「弁護士会の話」というテーマです。

弁護士会とは

弁護士会とは全ての日本弁護士が加入しなければならない団体です。総元締めが東京にある日本弁護士連合会(にちべんれん)であり,各都道府県にその下部組織である単位弁護士会があります。

弁護士として営業をするためにはこの弁護士会に加入しなければならず,未加入のまま業として法律事務を行うと,非弁護士活動として犯罪となります。

必ず加入しなければならない団体なので「強制加入団体」と呼ばれています。その役割は,所属する弁護士への事務連絡,指導,監督,懲戒を行うことです。これは弁護士法という法律で定められています。

そのような強制加入団体が作られた経緯は,過去の歴史にあります。

大ざっぱに言いますと,弁護士は(当初は「代言人」と言われていました。),明治期に欧米を真似して作られた新しい職業であり,その中には質が悪く悪徳な者もいました。それを指導,監督し,一般市民が悪徳な弁護士に騙されないようにするため,元締め団体を作ったというものです。

もっとも,戦前の弁護士会は単なる組合的な趣があったようです。

現在の弁護士会の在り方が実質的に始まったのは戦後の事です。

戦前の弁護士は司法省(現在の法務省)所属の幹部検察官の監督に付することになっていたのですが,終戦後GHQによる改革により,そのようなありかたでは,弁護士が国家を相手として市民の権利を守ることができないう問題があることが指摘され,弁護士は司法省の監督を外れたのです。これは戦争へ突き進んだ全体主義への反省があるように思います。

しかし誰も弁護士を監督できなくなりますと,悪い弁護士ははびこってしまいますので,弁護士の監督は弁護士会が担うことになったのです。監督官庁をもたない職業というのは非常に珍しく,弁護士以外にはあまりないではないかと思います。

このような歴史的経緯から,弁護士会の重要な役割は,会員の中の不届きものを取り締まり,処罰することにあるといえます。

そして,この弁護士会の監督権を支える重要な権限が「懲戒」です。

弁護士として弁護士会から「懲戒」を受けることは,かなりのダメージです。最も軽いものから,戒告(事実上の注意),業務停止(一定期間の業務停止),退会命令(所属弁護士会からの追放),除名(弁護士資格のはく奪)と4種類あります。

戒告はまあそれほどでもないですが,業務停止になると相当きついものがあります。なぜなら,それまで頑張って獲得した顧問先との顧問契約を全て解除しなければならないし,現在進行中の裁判の代理人も全て辞任しなければならないからです。

このようにして,弁護士の活動は弁護士自身が取り締まるという,弁護士自治の基本が出来上がったのですね。

ここで重要なことは,弁護士会は会員である弁護士を守るための団体ではなく,利用する市民を守るための団体だということです。弁護士会は,基本的に,弁護士を守ってくれないということです。

医者の世界には医師会がありますが,この団体は医師の利益にかなうよう政治活動をしたりして,医師のために活動をしています。しかし,弁護士会は弁護士を取り締まる元締めですので,例えば弁護士の収入確保のために何かしてくれるということは,その役割の根本ではないのです。

そういう意味で,弁護士会と弁護士というのは,根本的に利益対立します。

弁護士会について思うこと

平成の鬼平と呼ばれた故中坊公平氏の時代,日弁連は司法制度改革を率先して行いました。これにより,ロースクールが誕生し,弁護士数が従来の倍以上に増えました。しかし,その当然の帰結して,弁護士の収入は激減したため(とはいっても元が高すぎた感はあります。),弁護士の中には弁護士会にもっと自分たちの収入を確保できるような施策をとるべきと主張する人もいます。

しかしながら,弁護士会は根本的に弁護士を取り締まるための団体ですので,弁護士の所得確保など本来の目的にはありません。生活に困って警察に相談しても何もしてくれないのと同じことです。

まったん弁としては,弁護士会に弁護士の収入増を期待するのは,お門違いなのではないかと思っています。

このような自由主義的政策を求めたのは当時の日本国民です。司法制度改革は正当な民主主義のプロセスに基づき,実行された政策であり,その政策に基づき弁護士数が増加したのです。

そして,自由主義経済の当然の帰結である,弁護士の質悪化,拝金主義化(過払いCM),非弁護士提携の跋扈(東京ミネルヴァは典型的な非弁提携の事案です。)が生じました。

東京ミネルヴァは非常に多数の被害者がいる悪質な事案ですが,過去の日本国民が選択した自由主義経済政策がその根本的原因にあり,歴史的宿命を感じる事件です。

困ったときに人助けをするのが弁護士です。しかし,弁護士自身を助けてくれる団体はありません。ですから,弁護士には,弱肉強食の世を生き抜くため,精神的強さ,肉体的強さ,経済的強さが絶対に必要です。

それについていくことができな弁護士は,市場から退場せざるを得ません。一生懸命勉強して資格者になっても,経済的成功者になれる保証などどこにもないのです。これも,自由主義経済を希望した過去の日本国民の選択に基づく事象です。


ということで,弁護士会についてまったん弁なりの解説をしてみました。

お気に召した方がおられれれば,また次回もご覧ください。よろしくお願いいたします。

まったん弁


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