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会社のために走り抜いた127,000km

ハイゼットというダイハツのロングセラーとなっている車種がある。
おそらく日本で生活していれば一度は見たことがある車種だと思う。

そのハイゼットの派生形としてデッキバンという車があり、弊社では社用車として採用している。
3列目の屋根にあたる部分をカットしてむき出しになっているのが特徴で、日本で親しまれたハイゼットといえど同じ車種はほとんど見かけることがない。

コインパーキングの仕事は基本的に集金とメンテナンスがそのほとんどを占めるが、業務中にはさまざまなものを運ぶことがある。
駐車場を一部閉鎖するためのカラーコーンや簡単な土木工事をするための電動工具を積むこともあれば、駐車場内で不法投棄された大小さまざまなもの(本当にここでは書ききれないいろんなもの)を回収することもある。

雨風や土埃にさらされたものを車内に入れるのはあまり良い心地がしない。
そのようなときにデッキバンの出番である。
軽トラより室内空間が広くありながらも、多少の物であれば積載することができる。
まさに良いとこどりの車だと思う。


昔、私が会社を退職する前に1台のデッキバンが新車として納車された。
私が乗るための社用車だった。
白く丸っこいボディ、「・・80」という覚えやすいナンバー。
特筆するほど乗り心地がいいわけではなかったが、それでも乗っているうちに愛着は湧くもので、大きな事故もなく乗り続けていた。
納車から1年ほどしたところで、個人的な都合で私は一度退職した。

2年前、私が会社に出戻り入社したときにあてがわれたデッキバンには、「・・80」のナンバープレートが付いていた。
私が乗っていた車だ。まだ残っていたのか。
今にしては古い型である、手で引くタイプのサイドブレーキを握ると、久しぶりに会った友人のような懐かしさがあふれ出す。
さて、また一緒に仕事しようか。
キーを回してエンジンをつけ、各地の駐車場へと走り出した。


ある日の夜、事務仕事が終わって車に乗って帰ろうとしたとき、エンジンが急にかからなくなった。
その日の夕方まで特に問題もなく走っており、また車内ライトやハザードランプのつけっぱなしといったバッテリーがあがるようなヒューマンエラーを起こしたわけでもなかった。
すでに外は真っ暗だったこともあり、その日はデッキバンを置いて帰宅した。

翌朝、他の社員に手伝ってもらいながらバッテリーを復活させる対策をしたが、そもそもバッテリーが上がっているわけではなかった。
いろいろやっているうちによくわからないままエンジンがつくようになったが、原因がわからないまま運転できないので馴染みの修理屋さんに持ち込んで数日見てもらうことにした。

後日、修理屋さんから電話があり検査結果を聞いてみたところ「特にエンジンがつかないということがなく、異常も見当たらない」とのこと。
寿命か……。
あの日の夜、エンジンがかからなくなった時点で私のデッキバンは走行距離が12万kmを超えていた。
一般的に車の買い替えを考える目安が10万kmであることを考えると、いつ不調がきてもおかしくはなかった。
検査結果を社内へ共有したのち、修理屋さんからデッキバンを回収したものの、引き続き乗り続けるが次回の車検には通さず買い替えることが決定した。


その後、雨の日も風の日も順調にデッキバンは走り続けた。
埼玉県飯能市から東京都府中市まで走り抜けることもあった。

新しいデッキバンの納車日。
車内に積んでいた工具や備品などを降ろして準備していると、ディーラーさんが納車される車に乗ってやってきた。
新車のデッキバンは表情がスタイリッシュになり、乗ったときの視界も今までより広く見えるようなつくりになっていた。
シートから香る”新車の匂い”に心が弾む。

「長い間、走り続けてくれてありがとう」
口には出さないが、これまでの感謝を「・・80」号に伝える。
メーターを確認すると、走行距離は127,602km。
それだけの距離を会社のために走り抜けてくれた「・・80」号。
陰ながら弊社を支え続けてくれた立役者に、最大の賛辞を贈りたいと思う。

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