おかしいのは誰か

−−−−−−−昔話をしよう。

 

 そう語り始めた「仙さん」と呼ばれる彼、いや彼女?は一言で「不思議なひと」だった。

 性別を始め、年齢、名前、どこに住んでいるのか、その他もともと謎のひとだった。ヒョロリと背が高く、色白。常に微笑むその目には長い睫毛。声は高くも低くもなく、女性特有の柔らかさも男性のゴツさもなかった。そして少年というような幼さもなかった。ただなんとなく「日本人だろう」ということだけが予想できた。

 

「昔々、この国では特別な力を操る生き物が‘大切’にされていたんだ。」

 

「まほー?」間延びした声で僕の妹が尋ねる。

「そうだね、魔法に近いものだと思っておくれ。」

 

−−−−−−−しかし、‘大切’にされていたのは表向きにのみであり、‘監視’されていたのが真実であった。

 

「か、んし?」

「自由に遊べないことさ。」

「どーしてー?」

「怖がられていたのさ。」

「たい、せつなの、に?」

「『魔法』はとても便利だが、それを持たない人にとっては恐ろしい力、脅威だったんだ。」

 

−−−−−−−力を使って攻撃、支配をされないようにそれを持った生き物は各地に飛ばされある一定の数を超えないように、力を持たぬ者の数が圧倒するような政策をとっていた。そして、『ある一定の数』を越えると、何かしらの理由を付け消されていた。

 

「こ、ろされ、ちゃ、たの?」

 

今にも泣きそうな妹の頭を千さんが困った顔をして撫でる。

 

−−−−−−−火や水などの自然の力を持つものは集中的に消され、紙や葉などを式神として操る者、能力に関わらず反逆的な性格の持ち主も消されていった。反対に‘大切’にされていたのは未来を詠む者だった。そして、気味が悪いと対応に困っていたのは

 

「不老不死の者さ。」

「ふろーふし。」

音が面白かったのか「ふろーふし」と何度も唱える。

「突然そこに現れ、全く歳をとらない。‘何か’底知れない力を持っていると考えられていたのさ。」

「ふろーふし?」

 

−−−−−−−『何もしない』というのはある意味で恐怖であった。たとえ、『何もできない』というのが事実だとしても。

 

「そんな時に大きな戦があってね。力を持つ者を前線に置くのが主流の戦い方だった。」

 

−−−−−−−「死にたくない。」と嘆く者もいれば「やっと解放される、」と安堵する者すらいた。口には出さないもののほとんどのものが『絶滅』を覚悟していた。

 

「混ざればいい。」と提案したのは不老不死の者だった。

「我々は見た目は何も変わらないのだから、共に生きればいい。」と

 

−−−−−−−何ていい提案なんだ、と賛同する者が多く、実行する者も多かった。もちろん失敗する者も少なくなかったが、それでもひっそりと人と混ざり生きていくことができた。生き残った者たちは定期的に会合を開き、教訓としてそれを伝えていった。しかし、何度集まっても不老不死の力を持つ者が現れることはなかった。誰かがつぶやいた「見た目は何も変わらない。」

 

「その後も力を持つ者の血が途切れることはなかったが、会合が開かれることは稀になり、やがてはそんなものはなかったかのように消えていった。力を隠し、力がない者と結ばれる者も少なくなかった。時が経つに連れ、力そのものが弱まっていき、力を持っているにも関わらずそれがあるということを知らない子も増えていった。」

「いまもいる?」

 

仙さんはこてりと長い首を傾け「お前もそうかもしれないね。」と綺麗に笑った。それと同時に5時を知らせるチャイムが鳴る。

 

「あ、かえらなきゃー。」

 

バイバイ、と仙さんに手を振り、背を向けた。
仙さんが見えるか見えないかの距離まで離れると「こんなところにいた。」と誰かの声がした。こっそり振り返れば仙さんは誰かに手を引かれ、僕らとは反対の方向へ消えていった。仙さんを連れて行った人はどこにでもいるような普通の人だった。

 

それを確認し、一息つく。

 

「まあ、『不老不死』というのがそもそも間違いなのだけど。」

 

一応、歳はとり、老いている。普通に死にも至る。魂と記憶を受け継ぐのだからまあ同じ生き物と考えれば間違いない訳でもないか、と一人で納得する。

 

「あなたも百はとうに過ぎているというのに。」

 

僕の『妹』に投げかける。

 

「あー、一番の間違いは我々が『人』とされていることですかね。」

 

『妹』が不思議そうな顔をしてこちらを見る。そのせいか派手に転んでしまった。

 

「気をつけてください。あなたは生まれ変わったばかりで、私の何倍もを生きることができるのですよ。」

 

 

−−−−−−−ツルハ千年、カメハ万年。

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