誰かに「頑張ったね」と言ってほしかっただけだった

ラブライブ!シリーズの外伝的立ち位置で始まった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。
ファンには知られているが、虹ヶ咲のこれまでの道のりは決して平坦ではなかったし、駆け足でもなかった。むしろ、ぬかるみを必死に歩いてきたようなものだった。

これまで

2.5次元コンテンツ(※1)において、社会現象を巻き起こしたμ'sを発端に、いつしか覇権とも呼ばれたラブライブ!シリーズ。同シリーズ内のグループについては、草分けのμ'sを除いて、アニメ化や主力ゲームへの参入は当初からの決定事項、キャストライブも約束されていた。

これらのすべてが虹ヶ咲にはなかった。
これだけでも十分な苦難で、これに加えて、当初の彼女らには売り出すものさえなかった。

アニメ化の予定はないとキャストにはデビュー前に宣告され、活動の軸となる予定だったゲームは配信延期、それに伴うコンテンツに直接関係のない内容でのキャストによる生配信。迷走と言えばまだ聞こえは良いというほど、彼女らには何もなかった。
何もないだけなら、よかった。

売り出すものがなく、作ってすらもらえないなか、望まないキャスト間対立を煽られながら、それでもラジオや生配信を通してプロモーション活動を続けた。キャスト間の対立煽りにより、ファンの対立も生まれた。ある企画では、投票下位メンバーの反省生放送なる見せしめのような配信もあった。やっとリリースしたゲームでは、配信直後10万人のユーザー離脱もあった。それでも止まらず歩き、キャラクター、コンテンツに愛情持って進んでくれた。そして、その努力の結果、やっと掴んだ。予定になかったアニメ化にこぎつけた。

しかし、その裏、その直後。
新シリーズスタート、シリーズアニメ化の発表
そして、主戦場であるゲームの世界的大炎上が勃発(※2)、後に新規加入メンバーとなるキャラクターとキャストへのネットでのヘイトクライムが発生した。
有名動画サイトでは非表示になる程低評価が殺到し、一部キャスト、担当ライターのTwitterアカウントには誹謗中傷が集中、直後の生放送ではユーザーコメントが読めないほどの誹謗中傷が書き連ねられた。

それでも、キャストはキャラクターを愛し、コンテンツのプロモーションをやめず、愚痴一つ吐かず、コンテンツを守り続けて進んでくれた。炎上の渦中に置かれた新規加入メンバーさえ、コンテンツへの愛情を語り続け、信じ、新規メンバーの登場がないアニメの宣伝も欠かさなかった。

ファンはそんな彼女らを信じてついていった。そして、その彼女らに応えるように、アニメストーリーは彼女らのこれまでを称え、キャラクターを大切にした、愛情が視聴者にまで伝わる作品となっていた。ゲーム炎上の反動がなかったとは言わない。しかし、それ以上に作品のクオリティと丁寧で緻密なストーリーで黙らせた。ラブライブらしくない、スポ根ではない、繊細な青春群像劇だった。
TVアニメ虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、外伝であること、これまでの苦労を、見事に魅力に塗り替えてみせた。

長らく見ていたファンには懐かしくも嬉しい、過去のイベントやライブ映像、楽曲の使用をはじめ、キャストのこれまでにもしっかりとスポットを当て、キャラクターの人格をストーリーへと昇華し、これからを丁寧に描ききった。

私はいちファンとして、虹ヶ咲をただ大切にしてほしかった。これまで、ただそれを祈り続けてきた。何度も挫かれた。見ているだけのファンでさえ、心苦しさに襲われたなか、活動している彼女らはどんな思いだったか、苦悩は察するに余りある。

それがやっと、報われた。そんな気がした。
アニメストーリー、演出が褒めてくれていたような気がした。そう思えるほどの作品だった。
ただ、褒めてあげてほしかった。「頑張ったね」と言葉ではなくとも、伝えてあげてほしかった。それがやっと叶った気がしたTVアニメだった。

「これからも愛してくれますか」
こんな言葉を、涙ながらに語られたいつかのライブがずっと頭にこびりついている。それくらいに、頑張ってくれた人たちだから、キャラクターを通した言葉の響きは、とてつもなく大きなものになる。

「始まったのなら、貫くのみ」
「やりたいと思ったときから、きっともう始まってるんだと思う」
「動き出したのなら、止めちゃいけない、我慢しちゃいけない」
「やりたい気持ちがあなたにあるなら、それだって十分適性」
「背中を押して距離が離れたって、押してくれた手の温もりは残るよ」

他にも、多くの言葉を心を込めて伝えてくれた。
ただ苦悩の中歩き続ける彼女らを応援していただけなのに、多くのものをもらっている。何度だって「応援していてよかった」と思わせてくれる。

やっぱり、何があったとしても「みんなに愛されてほしい」が、虹ヶ咲への思いのすべてだと実感した。

今はただ、こんなに誰かに優しくなれる時間をくれてありがとうと言いたい。



脚注

※1 アニメ等二次元媒体とキャストによるパフォーマンスを一体として売り出すコンテンツ
※2 配信当時の国際情勢に不適切な表現、一部キャラクターの取扱、ストーリーへの批判が殺到した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?