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見えない痛み

2月13日、夜の11時過ぎ
そろそろ寝ようかなとこたつでウトウトしていたら家が揺れた。

「福島県沖地震」と名付けられた震度6の地震が起きて、3週間が経った。私個人の体感でしかないけれど、やっと、地震が起きる前と変わらないと感じられる日常感が心身に戻ってきたように思う。

だから今のうちに、落ち着いた気持ちで地震~その後2週間ぐらいのことを記録しておきたいと思う。

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地震直後から、幸い、私の住んでいるところはライフラインもほぼ止まることなく過ごすことができた。家族、友人知人に大きなケガや家屋の損傷などもなく、連絡をくれるみんなにも「大丈夫だよ、無事だよ」と返事をかえすことができた。

それでも。命があって、大きな事故などもなくて、生活に困ることはなくても。

とても怖い思いをして、心に大きなダメージを負っていた。そのことに、すぐには気づけなかった。「怖い」と口にするのが、怖くてできなかった。

先に、状況としては無事だったと書いたけれど

遠くに聞こえる緊急地震速報の電子音
いつまで続くかわからないゴゴゴゴゴゴという音と床の揺れ

食器が音を鳴らし、グラスが棚から飛び出し割れる
石油ストーブの上に置いた鍋からお湯が溢れそうになる

そんな状況を目の当たりにしていたのだから、無事であっても平気ではいられなくても当たり前だ。

東日本大震災当時、私は愛知県に住んでいたから初めて経験する大きさの揺れだった。

地震が起きたら、まず窓やドアを開けて逃げ道の確保。防災バッグも用意はしている。
少しは防災意識を持てている方だと思っていた。

でも、いざこの規模、今回は震度6の地震が起きてみると恐怖で動けなくなってしまった。とっさに、動けない。「やばい、ど、ど、ど、どうしよう」と、そばにいる夫にすがるしかできなかった。(そんな私に「大丈夫、大丈夫」と声をかけつつ、夫は逃げ道の確保をして、石油ストーブの火を消しに行ってくれた。)

揺れのことを、あまり覚えていない。
どのくらい揺れたのか、どんな風に揺れたのか。
「この揺れはいつ終わるんだろう、何が起きているんだろう」
そんなことを考えて、なんとか揺れが納まるのを耐えた、そんな風にしか思い出せない。

すぐにテレビをつけて、NHKでニュースを見た。
その晩はそのまま、リビングで過ごすことにした。

津波の発生がないことや原発所の様子に異常がないことには安心した。
一方で、余震が続いた。
大きくはなくても、いちいち身体がこわばってしまう。
2,3日~1週間は同規模の地震が起きる可能性があるからと注意喚起が続く。私は、今にもまた大きく、長く、揺れるかもしれないと思わざるを得なかった。
身体を横にしていても、頭は起きている様な感じで時間が過ぎた。

テレビの音量と明かりを落として、少し眠れるように身体をやすめた。

朝が来ると、夫は仕事の都合で家を出なければならなかった。
一人になるのは心細かったけれど、夜が明けるととても暖かい日になったから気持ちも幾分か晴れた。

なるべく、いつも通りに過ごそうと洗濯をした。
バレンタインデーだったから、計画していたお菓子BOXを作ったりした。

そうこうしているうちに、隣町に住むお義母さんが来てくれたり、夫も帰ってきた。

本当に天気がいい一日で、幸い大きな余震はなくて。
少しホッとできたのか、昼前~3時ごろまで、昼寝をして過ごした。
朝方は少し濁っていた水も、この頃にはすっかり綺麗になっていた。

いつもだったら湯船に湯をはり、ゆっくりつかる。
でも、不安な気持ちが消えていなくてささっとシャワーで済ませたお風呂。

夜ごはんも、普通に調理し食事をとれた。
過ごし方だけみればいつもと変わらない。
テレビを見ながら笑ったりもした。
でも、やっぱり不安や恐怖が、ずっとあった。

夜は、いつもより早く22時ごろには布団に入った。
防災バッグをベッドのわきに置いて。
そしてバッグは今も、同じ場所に置いてある。

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今回の地震で、私は目に見える被害はほとんど受けなかった。
でも、だから「大丈夫」ということではない、ということを身をもって感じた。

「大丈夫」という言葉は便利で、周りの心配や声掛けに対してもついつい放ってしまいがちになる。自分自身には、言い聞かせるように振りかざしてしまうことがある。

それは少し、危険だと感じる。

周りも同じような思いをしているだろうから自分も弱音も吐くべきでないとか、言葉にすることで気持ちを認めて負けちゃうとか。細かな理由はどうであれ「怖かった」「大丈夫ではない」と口にできない心理状態になってしまうと暗闇に一人ぼっちでいるような気分から戻ってこれなくなっちゃう気がした。

恐怖とか不安とか、目には見えない、気づくことが本人さえ難しい痛みがあることを覚えておきたい。

そしてこれはきっと、災害時に限ったことではない気がする。目には見えないからこそ、日ごろから心の機微には敏感でいたいと改めて思う。


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