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【Rickie Lee Jones】(1979) 自由奔放な才女の若きポートレート

普段テレビをあまり観ない私なのですが、昔から好きなのが《渡辺篤史の建もの探訪》。早朝に渡辺篤史さんが工夫を凝らした建築のお宅を訪問する番組です。それぞれの家族の営みが垣間見られて、いつも温かい気持ちになれるんですよね。

いつかの放送で、夫婦共々デザイナー、外観も壮麗なお宅がありました。玄関を入ると壁に額縁が2つ。飾られていたのが本作とジョニ・ミッチェル「逃避行」のジャケット。
何と洒落たセンスなのだと思わず見入ってしまいました。ナルホド、職業と趣味は比例するかと朝から妙に納得 笑。TVに数秒映ったノーマン・シーフの写真がひときわ美しく見えました。

その1枚。煙草をふかすベレー帽の本人が大写しのリッキー・リー・ジョーンズ1stです。彼女の気怠くも奔放な雰囲気がこのジャケットからも伝わってきますね。

私は初めて "Chuck E.'s in Love"(恋するチャック)を聴いた時、ポップだけど少し洒落たスタンダードのような感じがしました。キュートな声で気怠そうに歌うリッキー。1950年代のビートニクの時代から飛び出してきたようだと評されますが、まさにそんな雰囲気があります。不良娘??、家出娘みたいな??…。

本作はJazzyな曲からキャッチーな曲まで、リッキーのセンスを知らしめる名曲集。個人的には、より感傷的な2nd【Pirates】(81年)の方が好きなのですが、このデビュー作は彼女の才能をすべて詰めこんだと言って過言でない1枚ですね。


(アナログレコード探訪)

米国ワーナー・ブラザーズの初期盤

プロデュースはレニー・ワロンカー、ラス・タイトルマン。バックも錚々たる精鋭のミュージシャンが多数。類稀な新人に録音も当時の最上級だったと思われます。本作の米国盤、素晴らしくハリのある音質です。

良音と言えば、ドイツの再発盤(80年代半ば)も良かったです。高低レンジも広く精巧に出来た音。欧州盤は平均的に高音質ですが、中でもドイツ再発盤は侮れません。安価で玉数も多く、私はどうしても困った時はドイツ盤頼みです。

【Pirates】日本盤の内周部にある
米国盤の規格番号の刻印

ちなみに日本盤はというと、中古店で試聴しただけですが日本カッティングによる日本盤らしい音……あくまで私の感想です。しかし翌作【Pirates】になると米国カッティング仕様となっているんです。これ、複数枚を確認しました。きっと1stの評判が良く、次は日本でも良い音で売ろうと考えたのでしょう。


Side-A
①"Chuck E.'s in Love"

リッキー・リー・ジョーンズと言えばやはりこの曲。代名詞のようなデビュー曲です。オールドタイムなのにポップさ加減が絶妙。チャックは私に恋しているのよ、と歌ってしまう所が小悪魔っぽい。


④"Young Blood"

リズミカルなこの曲も秀逸。キャッチーだけど時折メロディを崩して表情豊かに歌うのがこの人の個性。PV映像では夜遊びに興じる奔放な姿が。私生活もこんなイメージが思い浮かびます 笑


⑤"Easy Money"

リトル・フィートを脱退したローウェル・ジョージがいち早くカバーしたJazzyな一曲。ウッドベースのリズムにのって物憂げに歌うリッキーが艶っぽい。何を考えてるのか分からない子猫ちゃんのようです。


⑥"The Last Chance Texaco"

以前雑誌レコード・コレクターズで、DJのジョージ・カックルさんがこの曲を翻訳していました。米国のハイウェイでは時折 "The Last Chance〜"という標識があり、トラックストップ(日本のサービスエリア?)がこれ以降の道にはないですよ、の意味らしい。
トラックストップに入って来るドライバーと車を男女の人間模様に喩えた歌詞は、まるでロードムービーのようにイメージが拡がります。リッキーの歌も力強い。映像は1983年のライブですが熱唱が沁みます。


Side-B
③"Weasel and the White Boys Cool"

反復するギターコードにのせて自由に歌い上げるクールな一曲。リッキーの本領発揮といったノリで私は大好きです。映像はデビュー初期のライブでしょうか。赤いベレー帽にストラトを抱えて楽しそうに歌う姿がこれまたカッコいい〜。


④"Company"

本作の感動のピークはこの曲でしょうか。バラードも絶品の本作。ピアノを弾きながら激しく、時に囁くように情感込めて歌う姿、胸を打ちます。

リッキー・リー・ジョーンズって、二度と本作のような作品を作ろうとしませんね。90年代以降は、よりラフで自由度の高い作風になってまるでジャズシンガーの佇まい。
もはや彼女は、お金をかけた大きなプロダクションで音楽を作ることには興味がないのだと思います。華やかなデビューを切り取った本作だからこそ眩いですね。

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