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『「モディ化」するインド』を読むべき

 最近『「モディ化」するインド』という本を読み、これが非常に面白かった。元々はX(旧Twitter)上で見かけた"インドの政界には、「金力」(資金力)と「筋力」(暴力)にものをいわせてあまたの犯罪行為に関与してきた政治家(より正確には、政界に進出した犯罪者)が多数いることが、以前からよく知られていた"というパンチラインから興味を持ったが、結果としてインドのモディ政権に対する見方が大きく改まった。特に印象に残ったのは次の三点


①インドはもはや民主主義国家ではなく権威主義国家に近い

 2014年にインド人民党ナレンドラ・モディが首相に就任して以降、イスラーム教徒への暴力や住居の破壊など人権侵害が多発している。またSNS上で政府・与党に都合の悪い発信は削除されたり、BBCへ家宅捜索が行われたりするなどメディアへの圧力も強まっている。

②インドの経済は停滞傾向にある

 モディ政権下のインドは力強く経済成長しているイメージが強いが、インドの経済成長が著しいのはそれ以前から続く傾向にすぎない。しかもコロナ前で第二次モディ政権初期の2019年ころから経済成長は減速しており、国内の格差や失業の問題も改善していない。

③インドは外交・安全保障でも選択肢を失いつつある。

 インドは従来、中国と国境紛争を抱えて対立関係にある。しかし、中国が強大化する中で、従来から関係の強いロシアは中国への従属化が進み、西側諸国とは①の権威主義化の問題のために火種を抱えつつある。


 私のこれまでのインドに対するイメージは、問題はありつつも世界最大の民主主義国、日本とは「人権や民主主義、法の支配といった基本的価値」を共有するパートナー、経済的にはGDP世界3位をうかがう成長著しい大国、外交的には欧米と中ロの間でしたたかな外交を展開するグローバルサウスの盟主、といったものであった。同じような状態の日本人は多くいると思う。しかしこの本を読むと、これが基本的な事実に関する知識に乏しい偏ったイメージにすぎないと強く思わされる。
 こうしたイメージが生まれる主な原因は、華々しい宣伝は行う一方で客観的な統計情報などの公表に後ろ向きなインド政府の姿勢だろう。一方で、中国との対抗関係上、インドの負の側面に目を向けたがらない日本政府やメディア、そしてわれわれ日本国民自身の傾向性にも原因があることは間違いない(こうした「中国ファクター」の問題はこの本のエピローグでも指摘されている)。
 2002年にモディが州首相を務めていたグジャラート州で起こったナチス紛いの宗教迫害事件や、インド人民党政権の州では当局がイスラーム教徒の家をブルドーザーで破壊することが横行しているなどという例を知るだけでも、インドに対するイメージはかなり変わると思われる。もちろん、このブログ記事を読むだけでなく、実際に『「モディ化」するインド』を手に取ってさまざまな情報を得るのが最も良いことは言うまでもない。


≪付記≫

・著者の湊一樹氏のX(旧Twitter)アカウントは削除されたらしい(私が探した時点ではすでにアカウントが存在しなかった)

・今年のインド総選挙では与党が議席を減らしたが、この一事をもって「インドはやはり民主的だ」とは言えないと考える。そもそも選挙前に野党党首が逮捕されており、この時点でかなり非民主的である。また、かつての日本の翼賛選挙でも非推薦候補がそれなりに当選していたり、野党の選挙運動が認められなかった今年のパキスタン総選挙で野党系無所属が最多議席を獲得していたりするなど、民主的でない選挙でも非政権側が健闘する例はままある。

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