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2022年版 舞台『ザ・ファイナル・セカンド~永遠の一秒1989~』観劇感想

はじめに

  • 2022年9月1日~9月4日まで、萬劇場で公演が行われていた舞台『ザ・ファイナル・セカンド~永遠の一秒1989~』の感想です。

  • 2019年5月に、彩の国さいたま芸術劇場にて公演が行われていた同作「永遠の一秒」を観劇済。2021年版は未観劇です。

  • 千秋楽、Aチームのみ観劇しました。

  • ネタバレしかありません。

  • 戦争、それも、特攻隊員に関するお話なので、苦手或いは気分を害する方はご遠慮ください。

あらすじ

1945年ー海軍宮崎赤江基地。特攻隊員である3人の若者が、怪我を負い出撃できなくなった仲間の原口に遺言を託し、陸上爆撃機「銀河」に乗り込み、敵艦へ特攻した。
しかし、目覚めた彼らがいた場所は、戦後70有余年を過ぎた平成の日本だった!
状況を理解できず、平成を「死後 の世界」と思い込む特攻隊員たち。
そして彼らは、原口の残した子や孫を通じて本人(原口)の元へと導かれていく...

https://inherittokyo0705.wixsite.com/finalseconds
上記公式サイトより引用

…………改めて読んで思ったんですけど、途中からタイムスリップ先が1989年に変わったんですかね…?作中でタイムスリップした当人たちも言ってましたけど、戦後44年なんですよね。70有余年すぎるのって2015年だからあってないなーって今書いてて思ってしまった(やぼ)

気になったところ抜粋

※全シーン全キャストに触れているわけではないので予めご了承ください🙇‍♀

銀河に乗り込むときに、水盃を交わさない

  • 水盃を飲んで、銀河に乗り込む。というシーンがかなり印象的だったことを2019年版では覚えているのですが、それが無くなっててびっくりしました。

  • 代わりになのか、飛び立つ時の背景映像や、特攻までの台詞。体が恐怖で震えることを吐露する描写、それでも、日本万歳と口にして彼らは敵船にぶつかっていく。それがすごく印象的でした。

銀河に乗り込む前夜のやりとり

  • 自分以外の人のために、覚悟も決意も決めた人間を止めることはできない。と、思いつつ、原口の叫びは悲痛だったし、邦子の想いもつらい。

  • 邦子との恋愛時の大宮はただただ年頃のかわいい男子なんですよね。…好きが故に、自分が死ぬ定めとはいえず、嘘をついてしまう、そして、自分の好きな人を、自分たちを繋いでくれた原口に託す。しんどすぎやしませんか。前作見てても思ったけど、どうすることもできない。どうしようもできない。けれどもその想いは本物でしかない。という状況がただただつらすぎる。……だから日本って、そういう状況を打壊するようなフィクションの世界が広く作られるようになったんですかね…。どうしようもできなかった現実があるからこそ、それを変えたい。みたいな。

MHKの取材を受けるくだり

  • 原口の娘夫婦(えんま様一家)が大宮、石井、細野を迎え入れるくだりが、MHKの取材を受ける流れにすっかり入れ替わるあの流れは本当にすごいなと思うと同時にエグいな…って思いました。タイムパラドックスはそんなに簡単に起こせない。何かが起きたとしてもすぐに時間は修復される。って話をするとSF(サイエンスフィクション)っぽいですけど。

  • 細野に綾香が惚れていて、めかしこんでいるという部分が、きれいに「テレビ番組の取材がくるから気合が入っている」という流れに収まっているところとか、ほんとうにエグい。

  • 原口の入院している病室で、取材の部分を「お父さんが頑張って3人のことを言ってたのよ」「途中議論みたいになってしまいました」と言ってたんですけど、その議論みたいになってしまった。という部分は、まさにあの3人とやりとりした内容そのままだったんじゃないかなと思いました。あのときは、えんま様のほうが「現代に生きる一般家庭の人間」としての返答をしていたけれど、この取材のときは、大宮、石井、細野が言っていたようなことを、えんま様が頑張ってテレビに対して伝えていた。という想像をしたいところですね。でなければ、あまりにも、彼ら3人は救われない…。

  • 3人とのやりとりを聞いて、えんま様の返答を聞いて、私が思ったのは「確かに、一国民にそんなことを言われましてもって感じよな」でした。同時に「それくらい今と当時の価値観は異なる」し「当事者か否かでここまで考え方は違う」とも思いました。

  • だからこそ、それを嘆き、訴える彼らの言葉がただただ重くのしかかるんですよね……。

戦後まもなく、特攻隊遺族に原口が挨拶に行く

  • 大宮の父親、細野の父親、石井の母親と原口が会話をするやりとりがなかなか…なかなかかなりしんどかったです……

  • 多分2019年版から一番大きく変わってるところだと思うんですが、遺族に話をしにいくって言うのほんとだめだって……しかも特攻隊に所属していながら生き残ってしまったという扱いの原口がだよ???そんなんしんどくなるに決まってるじゃないですか……。

  • それぞれの親が、それぞれ異なる対応を原口にしたのが印象的でした。

    • 寺社に勤めているからか、冷静に、でも人目を気にして原口との話を拒みつつも、それでも、その最期が気になって最終的に声をかける細野の父親。

      • 他の人よりも親としての年齢が上なのか、お寺勤めだからこその考え方があるのか。落ち着きつつも、最後に"親"としての感情が出た。ように見えました。この段階で、生き残ってしまった特攻隊と話をしていること自体が、周囲から非難を浴びる要因なのかなとか。そういう時代背景みたいなものも勝手に感じとりました。

    • 激昂して「どうしてお前が生きているのか」(なぜ息子は生きていないのか)と罵倒を浴びせる大宮の父親。

      • 何を思ってこの父親が自分の息子を戦場に送り出したのか、とか。招集されたときにどう思ったのか、とか。それが特攻って知ったときにどう思ったのか、とか。考えれば考えるほどしんどい…ってなりました。床屋を開いていたってあたり、軍属の家系ではないだろう。ある意味一般人だった。戦争自体が起こらなければ、軍に招集されることも無かっただろう。空が、空を自由に飛ぶことが好きな息子が教官として勤めることを許容できても、それ以上の惨憺たる結末になってしまったわけで。戦時中であれば、お国のため。亜細亜のため。で耐えられただろう感情が、戦争が終わってしまったことと、息子と同じ隊にいながら死んでない人物を目の前に、煮え滾っていたそれをぶつけざるを得ない状態になってしまっていたのかな、とか。

    • 海軍一家の家系にあって、覚悟はしていたと伝えるも原口に生きることを求める石井の母親。

      • まだまだ地位は高くない女性という立場。男性の三歩後ろをついていく。家を支える。というイメージがこの時代の女性にはあります。そして海軍一家であるということも踏まえて、どうしようもないことを理解しつつも、"母"としては、どうしてもやりきれない部分がある。原口は、そんな彼女に石井の最期の言葉を伝えることができたわけなのですが、彼女は原口に対して、礼を伝えつつ「生きてくださいね。絶対に死なないでください。」と伝えます。私、これ、どうしてかポジティブな意味に取れなかったんですよね…呪いみたいに聞こえてしまった。生き残ったあなたは生き続けてください。簡単に死なないでください。みたいな。海軍でのあれこれを知っているだろう彼女なら、特攻隊に所属していて生き残ってしまった原口がその後どのような苦労をするのかというのを知っていたんじゃないか。とか。だからこそ、その苦しみで自死を選ばず、苦しみに耐えて生き続けてほしい。というように聞こえてしまった、と思いました。

原口が生存する

  • 大宮、石井、細野が原口の最期を看取らない形になっていたなーと漠然と思っていたのですが…

    • ①原口は彼ら3人から残りの寿命をもらっていた(冗談まじりに)

    • ②彼らがタイムスリップしてきた

    • ③一時的に原口の寿命がつきかけた

    • ④彼らがタイムスリップした現実や現在の自分たちや戦争に対する認識を受けて元の時代・顛末に戻った

    • ⑤寿命が戻ったことで原口は目を覚ました

  • ……みたいな理由だったりするのかなぁとか思いました。

  • ファンタジーだったり、ちょっとご都合主義だったりするかもしれないけれど、↑みたいな解釈は私は好きです( ˘ω˘)

結論

テーマが重たい……。ただただ、重たい。
途中コメディというか、現代にタイムスリップして、そこを天国だと思って、とんちきな返答をする彼らはかわいいし楽しいし愛おしいんですけど、一方で情緒が下がって上がって下がってジェットコースターになるからついていけない節があったりします。
この話で訴えたいところの趣旨としては「戦争は繰り返してはならない。」あるいは「戦争によって直接的・間接的に犠牲になった人たちのことを忘れてはならない。」だとは思います。
ただ、この言葉で、このたった2行の文章で終わらせるには、彼ら彼女ら、彼らの親族の思いや言葉はあまりにも重たい。
実体験があるわけでも当事者だったわけでもないのに、それを表現する演者の皆様方は、総じて素晴らしかったです。
素晴らしい物語を、本当にありがとうございました。



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