足を踏まれた痛みが日に日に増していく

2年前の文章が出てきたので、少し直しつつ再掲。

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セーラー服を着て、渋谷の女子中に通っていた。西武池袋線の通勤準急に乗り、池袋で乗り換えて、埼京線で渋谷というルートで通っていた。

電車から降りると、スカートに白い液がついていた。学校につくまで気がつかなかった。仲の良かった子が、「スカートになんかついてない?」と言ったので、目線を落としたら、プリーツのひだの真ん中、一番目立つところに何か白い物がついていた。

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西武池袋線の通勤準急。
目の前の男性が、週刊少年ジャンプを広げていた。こんなに混んでるところでなんで広げるんだろうと思った。ジャンプを広げるその手の甲が、私の胸に触れそうなほど近かった(というかもうほとんど触れつつあった)ので、私は、少年ジャンプをもつその男の人の手と私の胸との間に、自分の右手を捻じ入れた。私の胸の近くにその男の人の手があるのは、「たまたまかな? 勘違いかな?」と思った。でも、向こうにその気がなくても、胸を触られるのは嫌だ。私は必死だった。その男の人の手は、池袋に到着するまで、私の手の甲にぴったりとはりついたままだった。

こうして文章を書いていたら、私の右手の甲に、あの男の人の手の温度が蘇ってしまった。涙が出そうだ。そうか。私は性被害にあっていたんだ。

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また別の日。
西武池袋線はめちゃくちゃに混む。もう、自分の体と他の人の体の境界線がわからないほどに。

「もうそろそろ池袋だな」

窓際を死守できた私は、呑気に江古田のあたりの景色を眺めていた。そのとき、右足に痛みを感じた。

「誰かが私の足を踏んでいる!?」

まったくもって意味不明だった。車内が揺れたので、バランスを崩してしまい、私の足を踏んでしまったのか? いや違う。揺れがおさまっても、私の足はしっかりと踏みつけられていた。というかむしろ、ぐりぐりと力を込めてくるなどして、声が出そうなくらいに痛い!!!!

「誰が踏んでいるのだろう……?」

首を少し捻ると、近くに同じく中学生くらいの女の子が、険しい顔で立っていた。その顔はすごかった。もう15年以上前だけど、覚えている。

西洋にルーツがあるかと思われる顔立ち(※2022/11/10注追記:人のルーツを勝手に詮索すべきでない)で、髪はやや茶髪、肌が白かった。何かをこらえながら、しかし、絶対に許しはしないという表情だった。

「あれ? この女の子、私の足だとわかってて踏んでる?」

私はこの子に足を踏まれるようなことをしただろうか? なんでこんなに歯を食い張っているのだ?

困惑した。しかし、彼女が私の足を踏む理由はわからないし、そんなことされるいわれはないし、なんでそんなことするの、と話しかけることができなかった。

今思えば、その子は、痴漢をされていたと思う。自分に痴漢をしてくる者の足を踏んでいたのだと思う。
証拠はない。
でも、ここまで生きてきていろいろな苦しみを知ったから、わかる。

あの時、わたしの右足を踏んでいたあの子。私の右足に走ったあの痛み。あの痛みが、性暴力への抵抗だったと気がついたのは、つい2年前のことだ。
自社から刊行された「少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて」を、業務としてチェックのために読んだ時、そうかあれはそうだったんだ、と合点がいった。

そのゲラを読んだ時、私は思い当たることしかなかった。次々と、勝手に押し付けられた体温、物体を思い出した。気持ちが悪くなった。でも、被害にあったその頃は、しょうがないと思っていた。

なぜ私は自分が受けた被害をしょうがないことだと思っていたのだろうか。なぜ私は、私の足を間違えて踏んでしまったあの子のことを救えなかったのだろう。

苦しかった。本を読んで気づいてしまった翌日、私は電車に乗りたくなくて会社を休んでしまった。

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私は、私の右足踏んだあの子を救えなかったのだと、大人になって気がつき、そして今、苦しみ続けている。

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