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【幻の女】冒頭/書き出しが有名なウィリアム・アイリッシュの名作をレビュー(予告後ネタバレ)

ミステリレビューに戻って第17回は幻の女/ウィリアム・アイリッシュです!映画化もされた東西ミステリ海外版第4位の本作をレビューします!

※尚、予告後にネタバレがあります。


1.基本データとあらすじ

1-1.基本データ

1-2.あらすじ

妻と喧嘩し、あてもなく街をさまよっていた男は、風変りな帽子をかぶった見ず知らずの女に出会う。

彼は気晴らしにその女を誘って食事をし、劇場でショーを観て、酒を飲んで別れた。その後、帰宅した男を待っていたのは、絞殺された妻の死体と刑事たちだった!

迫りくる死刑執行の時。彼のアリバイを証明するたった一人の目撃者“幻の女”はいったいどこにいるのか?最新訳で贈るサスペンスの不朽の名作。

文庫版裏表紙より

2.主観的評点と向き/不向き

2-1.主観的評点

主観的評点は以下の通りです。

2-2.向き/不向き

向いている人
・サスペンス展開の有る作品が好きな人
・詩的な表現の有る作品が好きな人

向いていない人
・科学捜査の無い時代のミステリが苦手な人

3.ネタバレと感想

以下、核心の部分に触れておりますので未読の方はご注意ください。











3-1.犯人と動機

スコットの妻・マーセラ殺害の犯人は友人のロンバード(捜査パート担当としてあたかも味方として登場するが、ミスディレクションを狙ったもの)。

動機は不倫関係にあったマーセラが実はロンバードと結婚する気が無く、スコットと離婚し2人で出発する間際になって本性を出した為。

スコットに罪を被せるべく、幻の女の目撃者であるバーテンダーやドラマー達を買収し口留め。口留め出来なかった何人かは捜査パートの中で殺害。

最後には幻の女本人を見つけるものの、それは変装したスコットの恋人キャロル。車にて拉致するが、策略を仕掛けた刑事・バージェスがトランクの中に忍び込み取り押さえられる。

3-2.ネタバレ感想

詩的な表現とサスペンスの仕掛け。更に読者を騙す構造と言う二重三重の作りが本当に圧巻です。

文章がミステリを読んでいるのにまるで純文学作品を読んでいる感覚になるくらい素敵です。

有名な冒頭が次のようなものです。

夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。

文庫版P.11

それ以外にもこんな表現が有ります。

西の空は紅をさしたように赤く、空もデートに出かけようとお洒落をして、星をふたつ、ダイヤのブローチがわりに夜会服に飾っているといったふうだった。

並木道でままたきはじめたネオンサインは、今夜街に出ているすべての人たちと同じように、ウインクをして通行人の気を惹こうとしているようだった。

タクシーのクラクションは陽気に歌い、みんなが一斉にどこかへ行くところだった。
空気はただの空気ではなくさわやかに泡を立てるシャンパンのようで、そこにコティーの香水をたっぷり振りまいたかのようだった。

文庫版P.12

舞台は戦前〜戦中頃のニューヨークのようですが、気怠い雰囲気が凄く伝わって来ます。

奥さんと喧嘩して、別れ一人で外出しているうちに奥さんが死亡。夫婦不仲も周知の事実。アリバイを証言してくれる筈の人が悉く事実と違う証言をするって考えただけでも遭遇したく無いシチュエーションです笑。

最後の真相解明パートはほぼ納得出来るものでしたが、いくか疑問が残りました。

・ロンバードは事件の夜〜翌日にかけて口封じに動いていたが、もっと他に証言者は出て来なかったのか(そもそも行動量多過ぎないか)?

・キャロルを「幻の女」に仕立て上げてロンバードに襲撃させると言う手段を取ったが、2人がバラバラに捜査して行く過程で遭遇した可能性が有るのでは無いか(スコットは何故、捜査係のロンバードとキャロルを引き合わせなかったのか)?

・ロンバードの内面描写が若干アンフェアになっていないか(ちょっとロンバードが演技している描写がミスリードギリギリのような気もしました。例えば物乞いの死亡シーン、キャロルとの車のシーン)。

僕はミステリは"犯罪が成立する可能性"が描かれていれば(多少運頼みの部分が有っても)良いとは思うので、僕的には有りとは思います。

これが70年以上前に描かれていた事実が驚愕です。

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