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🟢温かな毒

「お父さん、ちょっと荷物持ってて!」

そう言った息子は、投げるように鞄を預けて駆けていく。
そんな息子の後ろ姿を眺めているとふいに彼女の顔がよぎる。

ずいぶんむかし
学生時代に付き合っていた彼女の顔


よぎった瞬間
胸に淡い暖かさがひろがるのも束の間、
次の瞬間には、懐中電灯で胸を照らされるような暗い感情を覚える。

顔を想い起こそうとすればするほど
その輪郭はおぼろげなものになっていくが
ときおり驚くほどハッキリ彼女の顔がよぎることがある。

不意に現れる彼女は私をひどく狼狽させる。
その度貫かれるような冷たさを感じさせられる。
それは、過去の私に対してか
それとも妻や子供に対する罪悪感か

今、こんなに幸せなのに
そこに疑う余地も、入り込む余地はないはずなのに
ずっと隣で過ごしてきたかのように彼女の顔はハッキリしている

彼女とは円満に終わった
距離だかなんだかに責を担ってもらい
お互いにすんなりとその関係を終わらせた
なにも後悔など無かったはずなのに

彼女との思い出は、温かくも確かな毒となって
私の平穏を蝕んでいく

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