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『刺青・タトゥー(オートエスノグラフィックな何か 9)』

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首に3つ目の眼のタトゥーを入れているところ。まだ途上で、これに眉毛と色を複数足してもらうことになっています。上から重ねるのに定着するのを待っている段階で、既に白眼に白いインクは入ってます。

私のタトゥーアーティストは、日本人とカナダ人のミックスのA。彼女は腕に「選ばれし家族」と日本語で彫っていて、私がChosen Familyのこと?と聞いたら、そうだと言っていました。彼女のことは、トランスの友だちがオススメと教えてくれたスタジオに連絡したら、眼のデザインが豊富だし、今なら空きもあるよと勧められました。彫ってもらいに行くまで、日本にルーツを持ってることも、名前も知りませんでした。

Aという名前は、私が高校の時、モルモン教徒のやってる英会話クラスみたいなのに友だちに誘われて行き、英語のニックネームつけてと言われて、自分でつけた、日本人の純文学作家の名前。『跪いて足をお舐め』は、ちょうど高校のクラスで回し読みされていた記憶です。私は彼女のデビュー作『ベッドタイムアイズ』を500回どころじゃなく読んでると思う。私の文体は、論文ですら彼女の影響を受けていて、何故そこに句読点を打つんだ、とか散々言われていた。彼女の、日本人としてアメリカの黒人男性を愛し、その経験を書くとことに始まり、トラウマと性に向き合う小説家としての人生は、2つ目の博論で、コロニアリズムとデコロナイゼーションを論じる際の素材の一つにもする予定です。

高校の時、どうしても書いて出せと言われた読書感想文は、彼女のエッセイをもとに、人種差別と女性差別の交錯について書いて出しました。担任に、ものすごい嫌な顔をされた。そもそも、ろくな学生じゃなかったので、なんのために書くのか分からない読書感想文の提出を無視しようとして、ずいぶん放ったらかした結果、卒業させないと言われて、しぶしぶやったし。

Aにタトゥーを彫られていると眠くなって、彫られている間、ほとんど寝ています。疲れてるせいもあるけれど、何らかの安心感があるんだと思う。最初に彫る前に「刺青はセックスしながら彫らないと耐えられないくらい痛いというイメージ」と同胞に言ったら、それはポルノの影響だと言われちゃったんですが、本当でした。みんな、あんまり知らない事実です。修士号を取った時に臍にボディピアスを入れて、博士号が取れたら下腹にトカゲの刺青を入れようと思っていたけれど、刺青の方は時間もお金もなかったし、太ったらトカゲがツチノコみたいな変な生き物に変わっちゃうかも、などと思って、彫らないままになっていました。

加えて、私はトラウマのため、頭を他人に触られるとゾッとしてしまうのですが、彼女に首に彫るために押さえつけられても、全く平気でした。ただ首はそれなりに怖かったし、そのせいか痛みは強めに感じたかも。Aも怖いから自分の首に彫る気にはならない、と言ってました。

首に彫ること自体に関しては、最初Aにやめておけと言われました。就職面接の時、差別に合う可能性があり、特に教育職の場合は要注意だと。かなりしつこく言われましたが、それは彼女がタトゥーアーティストとして真摯にやっているから、だと思う。刺青はこちらではものすごく一般的ですが、良識ある人は見えないところに彫る、みたいな暗黙のルールはある。私は、面接の時スカーフ巻くか、カバーマーク塗るから大丈夫と複数回言いました。

しかし、母親に連れられたティーンも彫りにスタジオに来てたりするし、いろんなやつをいろんなところに彫ったり、みんな好きなようにしている。

家に帰って、タトゥーによる就労差別の話を当時のルームメイトにしたら、彼女は私のまんまのような教員ですが、「そんなことで雇わないと言う職場なんて、こちらから願い下げ。私はレジュメ(履歴書のようなもの)の最初に、LGBTQIA+を差別する職場はお断りって明記してるし」だそうでした。ほんとよね。実は私も、Aに、日本じゃなくても、そんな職場には就職したくない、と最初に言ったんでした。日本の同胞の一人は、この話をしたら、すかさずオススメのカバーマークをアドバイスしてくれました。

私は子どもの頃、性的、感情的虐待に遭っていて、解離して、ぼやーっとしている子どもだったようです。それとは関係ないと思うし、そういうことをする子はよくいるようだけれど、繰り返し、腕や足にペンで模様を描いていました。そんな私に父は、「刺青したら勘当する。絶対するな」と繰り返し繰り返し言っていました。彼は、私の何を見抜き、何を予測していたんだろう。

私がトランスなのと、被虐待経験があることに関連があるかを、素人が予測で述べるのは、学問に対して失礼極まりないし、私や私のような人にも失礼極まりない。因果関係というのは、証明したり有意な関連があると述べるのに、複雑な手続きを必要とする、かなり難しいものです。そういうプロフェッショナルのテクニークは、尊重されて然るべしで、真似て適当なこと言うべきではない。また、非常にデリケートな問題で、慎重さが必要。

勝手に述べるのは勝手だが、私はそういう人を軽蔑する。

しかし、私自身、幼少時のトラウマに直接的に言及できるようになるのは、もう少し先になりそうです。でも、この作業はトラウマのブレイクスルーに必須なんだよね。つづく。


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