食べさせないを売る〜断食道場という逗留
観光とは地域にあるコンテンツをサービス化して顧客に満足のいくように提供するビジネスでありその満足に対しての対価が求められるものである。
このブログでは私自身が実際に体験した、旅や食を”観光学”という視点から紐解いていきたい。
その第一回目として、断食道場を取り上げたのは、よくよく考えてみると、”何も食べさせない”ことを売るというのは、まさに究極のサービスと考えられるからだ。
1.なぜ私がファスティング、断食を1週間のメニューで行おうと思ったのか?
仕事上どうしてもこの4年間、外食が多く、しかも高カロリーのものが多かったため、急激な体脂肪増加で、このままでは所謂隠れメタボになってしまうという恐怖感があった。以前からファスティングはパーソナルトレーナーの元でやったことは2回ほどあるが、失敗するのが回復食である。
パーソナルトレーナーは”回復食はこんなものを食べて”、とメニューは渡してくれるものの、作ってはくれない・・・。回復食が碌でもないと、リバウンドしてしまう。何か良い方法はないかと思っていたら、同級生のH君が断食道場行ったよ、というのを伝え聞き問い合わせてみた。
絶対にやるなら1週間、3日断食+回復食3日分、と断言され、彼の経験から伊豆高原にあるいくつかの施設を紹介された。1週間か・・・と時間が取れるか、不安になる。
スケジュールを見ると、7月しか丸々1週間を取れる時期がない!H君にはもっと涼しくてウォーキングがちゃんとできる時期でないとダメ!と怒られたが、いかんせん如何にもならない。え〜いままよ、と思いながら、伊豆高原の施設をそれぞれググり、私に最も合いそうな、アロマとか、マッサージがついている施設Aを選んたのであった。
2.めっちゃ久しぶりの伊豆高原🎶
たった一人で東京駅から生まれて初めての踊り子号に乗車、日曜日の午前中であるにも関わらず、意外と電車は空いていて、女性二人組が圧倒的に多い。女子旅できっと温泉旅行だろうなと思いつつ、私は一人で、この日から断食と言われているので朝から何も食べず、麦茶のペットボトルをちびちびと飲みながら、時々見える海の景色を眺めながら伊豆高原へ。
駅前に迎えに来たマイクロバスに乗り込むと、ここも圧倒的に女性が多い中、一人で乗っている男性もいたので少し驚きながら無言で施設に到着した。高原と名がつく割には”東京と変わらない温度です”と事前の問い合わせで言われた通り、暑い!!!ピーカン!
そう、伊豆はどちらかというと”避寒地”の別荘地帯なのだ・・・ということに今更気がつく(笑)
後でわかったのだが、冬も首都圏と変わらない気候に近年はなってしまったらしい。気候変動恐るべし!
3.どんなメニューで1日が進行するのか
初日は、ここの施設の代表の鍼灸の先生と面談。鍼灸の先生がやっている施設なので自ずと東洋医学的な処方が多いのも特徴。この辺りはきっと各自自分の合うタイプを選べば良いのだと思う。西洋医学の先生がやっているところもあるしね。
体脂肪が急激に増えた旨を説明し、かつ眠りが浅いなどの症状と仕事の内容などをじっくり聞いてくれた先生、”kozurunrunさんの場合は、多分どんどん寝たほうが体重も体脂肪も落ちるかも・・・高血圧の薬も断食中は血圧下がるから不要かもしれないよ”と言われて、ピンと来なかったけれど、後で痛いほどわかるようになる。
朝はヨガ、瞑想、そしてお散歩から始まる。お散歩は30分から40分、その後1000から朝ごはんタイム。断食中はスムージー、夕食は1800〜断食中は味噌汁(初日は具なし味噌汁だった!)その間にマッサージやアロマがインクルードされている。そして人によってはオプションのメニューがあり、針、ピラティス、マッサージが更に追加できる。伊豆は温泉が豊富だから、お散歩に行って汗をかけば、0530~1000までやっている大浴場にいつでも入れる。むしろ断食中は長湯だけは禁止!と強く言われる。近くのちょっとした見どころのあるところまで歩いて行き、登りはバスに乗って帰ってくるなど、あっという間に1日は過ぎていくし、食べてないといくらでも眠れるのだ!
回復食が始まると、逆に1000〜1800の間の空腹感を感じるようになる。胃腸が目覚め始めて、脳にお腹が空いた信号を出し始めるからだろうと思う。回復食は、水分多めの玄米(お粥)から始まりリゾット、そしておむすびと移行し、6日目の朝にはサラダうどん(お出汁が沁みる!)そしてクライマックスは自然食のコース料理(そんなもの食べたことがない!)と、モチベーションが上がるように組まれている。炭水化物も優しいものから入るのと、噛むことの重要さ、そして食べることが何と嬉しく、楽しいことなのかを改めて知ることになる。
4.どんな人が来ているのか?
たまたまの私がたった1回だけの体験からだから、一般化はできないけれど、まずは女性比率が圧倒的に高い。面白かったのはフランス人(日本在住)夫妻や、ドイツ在住の日本人ご夫婦、更に色々お話を聞いていると、海外に何らかの形で関わっている方も多い。また、自律神経失調症で、体の具合が悪かった人など、多様だけれど、7割以上がリピーターなのには驚いた。
母親と娘という組み合わせも多くこれも驚きではあったが、娘が最初に体験し、その体験が良かったからということで母親を誘ったり、両親のために子供たちがプレゼントするなど良い話をたくさん聞いた。若い世代、優しいね。日本人は本当に全国からきている。特定の県に集中することはないし、伊豆高原から遥か遠い、熊本からいらしている方もいた。
何も食べさせない、断食というサービスにハマるのだ!
但し面白いことに、断食中の反応は人それぞれ。私は敢えて食べ物に興味を持たないまま(この食いしん坊の私が信じられない!)過ごすことができたので、近くの美味しい洋菓子屋さんに行ってクール宅急便で帰宅後のデザートを買ったりとかしていたけれど、テレビで食べ物を見るたびに欲望が沸き起こってくる人や、Youtubeで大食い選手権を見まくる人や、もうそれぞれだ。
体験してわかったのは、すごく効果があるということ!体重や体脂肪減はもちろんだけれど、とにかく体の中が自然に軽くなっていくのがわかる。リフレッシュという言葉では軽過ぎて、むしろリセットという言葉が相応しいかもしれない。
5.どんな症状が出るのか?
人によって出方の時期は異なるものの、だいたいこのようなプロセスを辿る。
適度な運動と断食によって、眠気が誘われる。この眠気の継続時期は人によるが、私は三日目の断食の日が酷かった。8時間寝たにも関わらず、ぼーっとするため、気がつくと自分の部屋のベッドで寝ている。これが初日に先生に言われたことと大いに関わるのだ。
脳内ホルモンは色々あるけれど、私が常に動き回っている、のは、ドーパピンが常に出ている状態。これはやる気や意欲を促すものの、依存体質になりやすく、このような状態でウォーキングや筋トレをやったとしても、リラックスしていないから、代謝が良くなるわけがない。これが初日に先生に言われたこと、”眠ったほうが体重も減るし、体脂肪も減る”。その通り。体を休めれば休めるほどセロトニン(幸福ホルモン)が出てドーパミンを調整してくれるのだ。
日頃の高血圧が怖かったので、高血圧を下げる薬も飲み続けていたら、何と3日目に血圧は100を切り、更に低血糖と合わせて、全く起きられない状態になってしまった。その日以降、薬はやめて、正常になっている。不思議だが現実。このような話は周りで参加している人も同様に、血圧が非常に下がったという。
4日目にはとてもすっきりとした目覚めになり、何か憑き物が落ちたように心が軽くなってきた。朝に目覚めのヨガ、散歩を行い、交感神経を活発にさせ、夜は副交感神経を高める運動をすることで、スィッチのオンオフがはっきりしたことも大きいし、ヨガやピラティス、毎日の食事を通じて、自分の体とこれだけ向き合ったことがなかった。
面白いことにみなさん穏やかな人になって、争いごとも刺々しいこともない。もしかしたら縄文人も、そうだったのかもしれないな。
これは症状ではないけれど、向き合って、自分の体の得意なこと不得意なことがわかり”ごめんね、無理させて”と思わず呟いてしまった。
6.まとめ
”息”という文字をよくよく見れば自らの心。自らの心と向き合うことは、自分の息、呼吸をしっかりと見つめること。”今の人間社会、どうしても先々のことばかり考えて、自分が存在する今を疎かにする傾向にあるからこそ、ここにいる今に集中して、自分自身の状態を落ち着けて、ゆっくり観察する時間を取る重要性に気づいたでしょうか?”というのが先生の問いかけ。
結局体重や、体脂肪は人並みにしか落ちなかったけれど、体と心のデトックス、そして自分の生活、体に欠けていた負担に気づいたことは大きな”お持ち帰り”。
この”食べさせない”というサービス、自分が普段できないことを、うまくできるように促す、サポートするということは、非日常に導いてくれるということ。
このサービスに支払う対価を馬鹿馬鹿しいと思うか、ありがたいと思うかは、まさにコト消費と同じ、サービスを享受しようとする人の価値観によって決まるものであって、需給によって決まるものではない。
追記)山ほど本を持って行ったけれど、全く読書できません!頭脳を使うと眠くなる・・