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絶世の美男(16)

「なるほどね。天井からの出現。それで、自害用の毒も準備していたとなれば明らかに何かを隠してるね」
 事件の一部始終を紅夜から聞いた羅貴が興味深げに言った。
「つまり、一言で言うと、陰謀。でしょうか」
 紅夜が言った。


「そうなる。まぁ尋問で大体わかるでしょう。軍の素晴らしい拷問屋に来てもらっているから」
 紅夜の顔が曇った。
「軍に拷問屋がいるのですか」
 羅貴の顔が嬉しそうにほころんだ。
「拷問って言っても精神的苦痛以外与えないけどね。僕たちの仲良しの一人さ。とっても美男だよ。まぁ僕には負けるけど」
 茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべながら羅貴は言った。


「ほら、朔隼(さくじゅん)。入って」
 入ってきたのは冷雅、羅貴よりも長身の男性だった。顔を見た瞬間紅夜の脳の思考能力がぶっ飛んでしまった。美しい銀色の長髪を一つに束ねている。軍服には紫色の縁取りがされている。目は羅貴よりもふわふわした優しい目はなかったが、切れ長の落ち着いて艶めいた目をしていた。人としてなりたつ美しさを軽く凌駕しているのに無理やりにもそこにある物体を自分の脳に認識するよう強制してくる。


 紅夜は思わずため息をついた。
「彼の名は火影(ひかげ) 朔隼。こいつの魅力に抗えないからキャーキャー言う女性はいないんだよ。言いだす前に言葉が出なくなるから」
 紅夜はぽかんとした顔で朔隼を見ていた。羅貴の言ったとおりだ。美しすぎて目が痛くなってしまう。自分のあこがれにするにはあまりにも高貴だ。
「あなたが評判の月影 紅夜さんですね。よろしく。私は羅貴の言う通り拷問屋ですよ。以後お見知りおきください」
 朔隼の目は黒なのになぜか紫色に見えた。低くて心地よい甘い声が頭に反響する。


 ついと見つめられると心臓がどきりとあり得ないほど大きな音がする。
「……あっ、はい。私(わたくし)こそ、よろしくお願いします」
 朔隼が少しほほ笑んだ。
「君は自分の事を私っていうのだね」
 羅貴がむすっとした目で朔隼を見ていた。
「朔隼、そろそろ尋問してきてくれない?」
 むすっとした声に朔隼はほほ笑んで、
「わかっているよ。羅貴」
 朔隼は事務所を出て行った。


「朔隼はほんと我々美男の敵だよ。その場にいる女性たちの意識ともども連れ去ってしまうんだもん。仕事人としてはあり得ないぐらい有能だけど、間違っても尋問しているところを見ない方がいいね。僕の部下でも実績で考えるとあいつの方がすごい。だって本当は尋問官長なんだけど尋問の様子がまるで精神を拷問しているみたいだから拷問屋なんて言われてる」
 羅貴は説明した。冷雅は無関心な顔で手元の資料を見ている。
「冷雅も悔しいよね?」
 羅貴が聞いた。紅夜は二人の様子を見てほっとした。あの、朔隼という人は人として成り立っているかどうかと言うところで自分たちと違っている。異次元に片足を突っ込んだような不安を感じる。


「私は別に何も思いませんが。大体あれは次元が違うんですよ。上司に対して敬語も使わない」
 紅夜は冷雅を見て思い出した。冷雅は昔から公私に対する考えはきっぱりとしていた。昔から……
 冷雅と羅貴が話をしてる。冷雅と紅夜は椅子をすすめられて、座って朔隼を待っていた。朔隼の尋問が終わるまでここで待っておくらしい。
 冷雅と羅貴は朔隼についていろいろと話していた。


「朔隼はほんと何でロン毛なんだろう」
「仕事場でロン毛とか言わないでください」
「だってさ。あの銀髪もおかしいよ」
「個人差ですよ」
 紅夜はその会話を聞きながら最近頭の中で思い出して消えることを思い出していた。

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