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1.美しい蝶

  そして彼女たちが大人になった今も……『血濡れの蝶』は存在した。女しか受け入れないマフィアとして。
 事の発端は高校の影の権力を持つ集団だった。
 今の彼女たちに逆らえば……本当に殺される。学校の立場——ではなく、生物としての立場を失うのだ。要するに死者になるのだ。

 彼らのアジト。その名も『蝶の館』は趣のあるレンガ造りの建物だった。今ではコンクリ―トで作られた建物が多いなか、その館だけは異様なほどに静かに、重々しく都市部の離れに建っていた。
 誰もそこには近寄らない。近寄れば最後、命を落とすからだ。

 その館に十人の女が入っていく。全員漆黒のコートをまっている。軍隊のコートのように重厚でありつつも、女の体に合うようウエストが絞られ、肩幅に無理があるようには見えない。
 全員の胸元には蝶の刺繍が入っていた。大きな金色の蝶に重なって彼女たちには青の蝶の刺繍が入っている。髪型もそれぞれだったが、共通して言えることは全員の表情は悪鬼のように歪んでいたことだ。

 優雅で、厳粛な部屋だ。扉から入ってすぐに円形の場所がある。そこには椅子が四つ向かいあうように並んでいる。

 そしてその場所から一段上がった場所には天幕、そしてまるで皇帝がすわるように重々しくも、決して華美ではない椅子が一脚置いてあった。その奥にもう一つ扉があるが、その続きはとても入れるような雰囲気ではなかった。
 
「孤蝶様。幹部、聖蝶がお待ちです」
 天蓋の奥に向かって、髪をハーフアップに結った女が言う。彼女は天蓋のすぐ外の丸椅子に姿勢よく座っていた。

 黒いコートをまとい彼女の胸元には金と紫の蝶の刺繍が入っている。彼女は何故か静かでいてつつも存在感のある雰囲気を漂わせていた。かるく釣り目。まつ毛は見え方によっては白にさえ見える。腰まであるかみですら紫色に見えた。耳に光る銀の蝶のピアスがとても優美だった。

 彼女の名は蝶妃。血濡れの蝶の副首領である。その有能さ故に一番に首領に可愛がられている。
 そして彼女が話しかけた天蓋の奥の椅子に座っている女。彼女こそ、血濡れの蝶の首領。孤蝶だった。

 流れるような濡れ羽色の髪。耳の後ろ辺りに一筋だけ白い髪がある。そして耳には金でできた蝶の飾りが付いたピアスをしている。ピアスが照明に照らされてきらりきらりと魅惑的な光を放つ。
髪で右目を隠し、彼女の白い顔を引き立てる。猫のような釣り目。左目にはほくろが一つ。そのほくろが彼女の妖艶さを強調していた。唇は紅く、まるで血に濡れているようだ。組んでいた足をほどく。

「通して」
 孤蝶は天幕を開いた。優雅に黒の天幕に手を添わす。そしてゆっくりと服装を整えた。

コートを肩に羽織っている。その胸元に光るは金と銀の蝶。中はキリリとした白シャツに黒のネクタイ。床まで届くような漆黒のロングスカート——大きくスリットが斜め前に入り、見るものをドキリとさせた。スリットから覗く脚は白くしなやかである意味煽情的にすら見えた。十二センチヒールのハイヒール。

「孤蝶様」
 幹部の一人が入ってきた。


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