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私が最近好きな百人一首

長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思へ

あなたの心は末永くまで決して変わらないかどうか、わたしの黒髪が乱れているように、わたしの心も乱れて、今朝は物思いに沈んでおります。

という歌なんですが…… 
私はこの歌のパッと情景が浮かぶような表現。
そして少し色香を感じるこの歌……いや、どうやったらこんな美しい歌が書けるのでしょうかね?

作者は待賢門院堀河さんです

平安時代後期の女房だったそうです。

この歌の黒髪の部分が私はとても好きです。黒髪が乱れるのはよくあることですから。あ、私の場合は焦げ茶色のくせ毛が絡まるのほうですけど……
その乱れ具合と自分の恋心の乱れ具合が見事にマッチしているという歌ですよね。

今朝……つまり、恋人と会っていた次の瞬間にはもう不安になっている。え、わかる。と思われた方挙手お願いします。ついでにいうと私は年齢=彼氏いない歴なので、そういうことを思ったことはありませんが、でも片思いのあの人が私に脈ありかも!!と思った次の瞬間ほかの女子と楽しそうにしゃべっていて不安になりまくるということは多々ありますね。

さて、前回と同じく私なりにこの歌イメージの物語を書いてみたのでぜひご覧ください。

「それでは、今日は失礼しますね」
そう恋人となって長い彼は言うと私のほうに微笑みかけてから、するりと寝室から出ていく。夜の暗闇の中、優美な残り香がかすかに漂う。
「葵」
隅に控えていた女房の葵がそっとこちらに寄って来る。
「髪が乱れていますよ……」
そう言って、象牙の櫛で髪をとかしはじめた。自分でも髪の絡まりをとこうとする。
「ところで、あの方、頭中将さまですが……また新しく恋人をおつくりになったとか……」
髪を整えていた手をゆっくりとおろす。
「そう……」
「しかもそれが、ただの少納言の娘だそうで……」
「頭中将さまが……お気に召されたのだったらそれで充分でしょう」
銅鏡に移った自分を見てみるとさらに髪の乱れがひどくなった気がする。
「お嬢さまは、内大臣のご息女なのですよ……そんな下の位の娘なんかに頭中将さまを取られてもよろしいのですか?」
葵が責めるように言う。
「人の心なんて、移り変わるものだから気にはしないわ」
葵の不満そうな様子を見て静かに微笑みかける。
「ほら、葵。機嫌を直して」

「お、お嬢様!! 頭中将様からお手紙が」
「そう、見せて」
 最近、来なかった頭中将様から先日久々に来るという連絡を受けていつもより念入りに髪をといていたところだった。
 パサリと手紙を開く。品の良い香を焚き染め、芙蓉の花に結び付けられていた。
「……葵。今日は頭中将様は来られないわ」
「え、何かあったのでしょうか?」
 パッと視界が曇るのを感じたが、いたって気丈に
「また、他の方と夜を過ごされるのでしょう」
 と言い放ち、丁寧に梳っていた櫛を置き、近くにあった琴に手を伸ばす。
「またしても、頭中将様は……なんと酷いことを」
 葵が言う言葉を聞いて、少しだけ自嘲的な笑みを浮かべる。そんな酷い男を待って、毎日髪を整える自分が愚かに見えてきた。
 頬が濡れている。そっと袖で涙を拭う。
 琴を一つ二つ鳴らしたかと思うと、手を止める。
「芙蓉の意味を知っている?」
 葵は首を振る。
「『しとやかな恋人』。しとやかとは物静かでたしなみがあること」
 また一つ弦を弾く。一つ、二つ、三つ……指の感覚が鈍くなるほど何度も何度も掻き鳴らす。琴の涼やかな音が重なり、執念深く響く。
「それは……どういう……」
 葵の戸惑った様子にポツリと呟くように答える。
「物静か……嫉妬に踊らされず静かに自分の行動を受け入れてほしい。たしなみ…慎ましやかに出しゃばらず、自分が他の方の元に行くのを受け入れてほしい」
 乱れる音が静かな屋敷の虚空を満たす。他の女房たちも頭中将が来るのを待って色々な支度をしていたが、それが無駄になりぼんやりと宙を見ている。

「お嬢様! 頭中将様がいらっしゃいました!」
 文が届いてからずっと琴を掻き鳴らしていたがその言葉が耳に届いた瞬間、手をとめた。
「本当?」
「はい! もうこちらに向かっているようで!」
 女房たちは一瞬で目をきらめかせて薄暗くなってきた部屋の中で蝋燭をつけ始める。
「よかったですね!」
 葵も明るい表情を浮かべる。
「そう……」
 詫びのためにほんの少しだけ挨拶にきた程度なのではないだろうか。
 手元の琴をもう一度鳴らし始める。弦が震えて空気に清艶な音を放つ。
「私の美姫は何か思い悩むことでも?」
 御簾の前からふわりと中将の優美な香が薫る。
「いいえ、何も」
 琴を弾く手を止めないまま答える。
「妬くことは何もないのですね」
 中将はそう愉快そうに言う。
「あなたが気になっている人の元に行くのではないのですか?」
 あえて冷ややかに問うと、中将は面白がるようにふふッと笑う。その様子ですら優雅で品がある。
「その人ですが、少し気になって話してみたら、あなたの知性が恋しくなりまして」
 そう言いながら御簾の中に身を滑り込ませてくる。扇で几帳の布を持ち上げこちらを覗き込む姿は妖美だ。
「知性ばかりの女が嫌になっていたのでは?」
 ツンと突き返すと、中将はまた笑いを含んだ声で
「どうでしょうか。知性は美しさを伴い、美しさを引き出すと言いますからあなたがいつまでも美しいのはあなたの知性のせいでもあるのでしょう」
 と巧みに言いくるめてくる。間がもたなくなって、また琴をかき鳴らす。
「あなたの琴の音は冷たく、静かですね」
 距離を保ちながらも微笑みかけてくる。
「どうか機嫌を直してください。またあなたと歌を詠みあいたいと思ってばかりいます。桔梗のように気品のある美しいあなたの顔を見せてください」
 思わず、頬が赤くなる。こちらの反応がわかったのだろうか、中将は几帳をのけてゆっくりと近づいてくる。
 香の香りが少しずつ濃くなっていく。私の傷ついて、色褪せた心に色を塗り直すように。
 
 すう……尊いですね…
 なんと言うのでしょうか、その人に溺れている主人公ちゃん。誰かに似てるなと思ったら私でした✨
 是非感想をコメントにお願いします!

 


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