4.挑発

「銀蛇は許されない罪を犯したわ。さて……幹部もみなが殺ってくれるでしょう」

 しかし、五時間後。
「失礼します」
 幹部の四人が戻ってきた。返り血も何もついていない。それどころかいら立っているような顔つきだった。
「どうしたの?」
 孤蝶が聞いた。

 すると全員が跪いた。
「銀蛇は門を固め、厳重にアジトを守り、乗り込むことすら不可能でした。それどころか、このような手紙まで」
 黒蝶がそう言って手紙を蝶妃に渡した。孤蝶はそれを受け取った。そして読むと鼻で笑った。
「なるほど。首領どうしの話し合い」
 孤蝶はその手紙を握りつぶした。

「それで、襲蝶」
 孤蝶はそう言って襲蝶の顎を持った。
「あなたは遠距離用の銃をなぜもっていかなかったの? 万全の態勢で戦うようにといつも言っているわよね?」

 そして襲蝶の唇をついと触る。襲蝶の白髪がふわりと揺れる。襲蝶の目が初めて怯えた表情を見せた。そして孤蝶は口づけするように襲蝶の唇に唇を近づけた。紅い唇と淡いピンクの唇が近づく。
「それができなかったの?」吐息のようにささやかな声。
「も、申し訳ありません。し、しかし……」
「しかし、ではないだろう」
 秘蝶が珍しく口を開いた。低く落ち着いた声だった。
「お前のミスだ」
 孤蝶は秘蝶の方を見た。
「秘蝶。襲蝶を責めないの」
「御意」
 そして孤蝶は襲蝶の顎から手を放した。襲蝶は先ほどよりも深く顔を下げた。

「いずれにしても私が行かなくてはいけないようね。蝶妃。私がいない間の血濡れの蝶は任せたわ。これからはこのような事件がないように細心の注意を」
 幹部たちはまるで止めるかのように首を振った。

「お、お待ちください! あまりにも……その、危険です」
 聖蝶はビクビクと体を震わせながら言った。臆病な達ではないはずだが今はひどく緊張しているようだ。
「我が蝶の君様。おやめください」
 黒蝶もそう言って頭を下げた。黒髪がしなやかに地面に触れた。
「孤蝶様。私どもが必ずや襲撃を成功させます」
「……」
 襲蝶も必死に止め、秘蝶は沈黙を守った。
「黙れ」
 孤蝶は冷たく、今まで以上に低い声で言った。

「聖蝶、黒蝶、襲蝶。貴方たちが心配してくれているのはわかる。しかし、私はそんなに弱いのか? 私が敵の策にはまるとでも?」
 孤蝶は脅すように言った。
「そのようなことはありませんが、相手は卑劣な男。万が一の事があれば……我々の暴走を止められるものはおりますまい」
 蝶妃はそういって幹部たちと同じように跪いた。

「心配はいらないわ。相手も名の知れている暴力的な組織。私に男として勝っても彼らの面子が失われるだけだ。銀蛇とて軽蔑はされたくないはず」
 孤蝶はそう言うと蝶妃を立たせた。彼女の目が今まで見たことがないほど心配し、怯えた表情を見せていた。
「蝶妃。あなたに血濡れの蝶は託す」

 孤蝶は銀蛇のアジトの前まで来た。蝶の館とは打って変わってまるでコンクリートの要塞のようだった。前には鉄でできた戸が閉まっている。
「血濡れの蝶。首領。孤蝶だ」
 孤蝶はそう声を張り上げた。
 すると戸が重々しい音を立てて開いた。

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