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夢という名の記憶~Ⅲ~

 冷雅は一人で帝都の関所の前でスーツを着て待っていた。彼女と待ち合わせをしているのだ。


「お待たせ」
 彼女が走ってきた。美しい青のドレスを着ている。深いスリットの入った……冷雅は紅夜のドレスのことを思いだした。
「行こうか」
 冷雅は帝都のホールに向かう。自分のポケットの中にある指輪を感じながら。
 二人で踊った。
「今日は美しいな」
 冷雅がバルコニーで言うと彼女はほほ笑んだ。深く、艶やかな笑みだった。
「ありがとう」


 また踊った後で紅夜に指輪を渡した。
 彼女の目がきらめいている。
「いつの日か俺たちが一緒に過ごせるようになったら」
 と言って自分が金の指輪を渡している。シンプルだが細い装飾が入った指輪だ。


 彼女はほほ笑んだ。そして曲が終わったと同時に去って行った。青のドレスがふわりと風になびく。髪も風をはらんで滑らかになびく。


 冷雅はパッと近づいて彼女の手を取った。そしてキュッと抱き寄せた。彼女は驚いたようだったがすっと冷雅の体に腕を回した。

 また別の日に彼女と昼までデートした。夕方に急に呼び出された。何かと思って少し不思議に思って指定されたカフェに入ると彼女は待っていた。物凄く厳しい顔で奥の席に座っているのを見て冷雅は歩いて行った。


「冷雅」
 と言って笑った彼女は美しかった。明るくほほ笑む彼女は何かを抱えていそうだったが普段通りに接してもう注文してあったコーヒーを飲む。途端に頭をこん棒で殴られた感覚がした。自分は気を失ったが冷雅の目は覚めていた。彼女が何かの瓶を握りしめている。見たことがある形の瓶だ。確か軍で問題になった。盛った人物のことを盛られた側が忘れるという強力な薬だ。確か効果が切れるのに三年かかる。


 今、カフェの席を立った彼女の顔を見た途端誰かわかった。
『紅夜』

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