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百人一首シリーズ第3弾!!

逢ふことの絶えてしなくはなかなかに
人をも身をも恨みざらまし

もしも逢うことが全く無いのなら、かえってあの人のつれなさも我が身も恨まなくて済むのに。

中納言朝忠

あるあると思われた方素直に挙手ください…(静かにパソコンの前で上がる手が1つ…)ええ、このくだり何回かありましたね。そう私も共感しまくるところです。
なんというか、もう…実は冷めていないのに冷めていることにして自分を誤魔化しているのにあの人が現れる度にキュンキュンして死期を悟るレベルまでドキドキするのは何故でしょう…

逢わなければ多分忘れてしまえるのに何故かすれ違う…神様は残酷過ぎるのかもしれません。

すれ違う度にどうして振り向いてくれないのか、何故自分は愛されないのかとそればかり考えてしまう…何故でしょうね…

ということで(`・ω・´)キリッ今日はこの歌でお話を書いてみました!どうぞ!

夕日の光が差し込む頃。
「藤の蔵人殿」
「はい」
「主上がお呼びだそうだ」
そう言って少し可哀想だと言うような表情を見せる上官に曖昧な笑みを作りながら、藤の蔵人は立ち上がった。

そして、清涼殿へ続く道を歩いているとちょうど清涼殿から弘徽殿に廊下が続く道から女御の御一行が歩いてきた。
直ぐに頭を下げる。
ピタリと女御が足を止めた。まただ。
「藤の蔵人殿でしょうか?」
平凡な自分が声を掛けられる筋合いもないはずなのに何故か女御様はことある事に声をかけてくる。
「はい」
そう普通の返事をするも何故か少しだけ嬉しそうに女御は
「先日、主上が褒めていらっしゃいました。藤の蔵人殿は良い働きをしてくれると…」
「身に余るお言葉でございます」
また、深々と礼をすると、女房に促されたのか、女御はそのまま立ち去った。
高価な香がふわりと風にのって運ばれてくる。この香りは少しあの人のものに似ている気がする。

「遅かったな」
主上の御前へ行くと、主上は何故か機嫌が良さそうに笑っていた。その今が盛りという若さの快活な容姿に誰もが見とれてしまうと噂される。
「申し訳がございません」
「構わないが、ところでだな。先日話していた者と文を交わすことが出来たのだ」
そういう主上の笑みを見て、不意に心の奥を釘で刺されたように感じた。
「…そうで…ございましたか。それはよろしゅうございました」
「ああ、そなたの言う通り薄紫の紙を使って文を送ったところ相手から心良い返事が来たぞ」

主上は前から弘徽殿の女御様に仕える女房が気になっているらしく、前々から相談を受けていた。

主上の上機嫌な様子に対して、心の中には暗雲が広がるばかりであった。
「私が言うまでもなく主上はそうされていたかと」
「謙遜をするな。そうだ、褒美をやろう。何がいい?」
主上の純粋無垢な瞳を見つめるそして、ゆっくりと首を振りながら目を閉じて
「なにも…なにも必要はございません」
とだけ言い聞かせるように言った。主上はなにも勘ぐらず
「そうか、無欲なことだ」
と快活に笑っただけだった。

清涼殿から一歩出た途端不意に視界が曇った。
「ねえ、あそこにいらっしゃるのは藤の蔵人殿では??」
そう囁く御簾の奥から女房たちの声が聞こえる。
「女御様が大変ご執心らしいの」
「あら本当? でもあの方は今主上にお声をかけていただいている桔梗の君に文を送っていたと聞いたけれども」
ポトリと優しく生ぬるい涙が頬をつたう。

何故私が主上の気になる女人がどうすれば心を開いてくれるか知っていたかは自分が何度も何度も試して知ったことだったからだ。
なぜ、的確な助言ができたかと言うと何度も何度も自分が失敗をして、少しずつだけでも距離を縮めてきたからだ。

訳が分からないほどに恋をし、苦しみ、思い悩んだからこそ得る事のできた結果を全て伝えた。

もう、私は望みがないことが分かりきっているからだ。

「今夜の月は朧月ですね」
不意に声がした。その声は聞きたいと望み、決して忘れることの出来ない。涼やかな声だった。涙が止む。
「その通りですね、桔梗の君」
そっと御簾の方を振り向く。弘徽殿の端の方に彼女はいた。御簾越しでも分かるほどの品の良い香り。女御様の品に似ていて、それでも少し弱く儚げな花の香り。
そして御簾の端から少しだけ覗かせた衣装の襲は花薄。可憐でもつれないこの人の様だった。
「ええ、とても綺麗…」
「ところで昔から私がお尋ねしている言葉へのお返事をまだ聞いていない気がするのですが」
一瞬の間の後で
「…それは一体なんのことでしょうか。私は覚えておりません」
とはっきりとした言葉が涼しい夜の空気に乗って伝わる。
開きかけた口を閉じて、そっと微笑んでみせた。
「私もすぎたことを言いました」

夜の風は一際冷たく2人の頬を撫でた。




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