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天皇の策略

 紅夜は冷雅に無視をされて深く釘を心臓に打ち込まれたような感覚がした。
 羅貴は椅子にゆったりと座って待っていた。
「紅夜。どうぞ、その椅子に座って」
 朔隼はそっと椅子を引いた。


 羅貴は紅夜の方に向き直った。紅夜は羅貴を見つめた。
「で、どうして冷雅に薬を盛ったんだい?」
 羅貴が単刀直入に聞いてきた。月影家のことは朔隼がいる前では話せないと思った。
「朔隼、席を外してもらってもいい?」
 朔隼の方を軽く見ると朔隼は
「君が望むなら」
 と言って出て行った。


「それでは話してくれるのかな?」
 羅貴が促した。
「はい。でもこれを聞いた後に行動を起こすことを控えていただきたいのですが」
 紅夜はためらいがちに言った。
「内容による」
「……わかりました。お話しします」
 紅夜はそういうと自分の事を語りだした。昔から黙っていたことだが羅貴の前ではすらすら話すことができた。


「まずは私(わたくし)は月影家の人間です。月影家はもとから天皇の護衛をしている華族です。武家が反乱を起こした時に私(わたくし)たち月影家が動くのです。この家の存在を知っているのは天皇陛下のみです。月影家は非常に高度な武術を男女ともに習います。私(わたくし)はそこに直系の長女でした」
 羅貴は真面目な顔で聞いていたが
「だから君はサーベルも上手く、短剣も上手いという事だったんだね」
 と言った。紅夜は頷いた。
「それじゃあ、冷雅と会った理由は?」


 紅夜はテキパキと語った。
「まだ十五の時に迷子になったのです。初めて家から出たものですから。それで華族街にいた冷雅に帝都の関所まで送ってもらいました。それから、私(わたくし)はまた……会いたかったので冷雅が軍の施設を出る時間を計って百貨通りにいました。また、山の訓練では丁度訓練が終わったのを見計らって出て行きました。確かに冷雅のことを監視とまでは言いませんが見ていたのは事実です。それで思わず……告白したところ。いいお返事をいただいて」
 紅夜は桜吹雪の中の冷雅の様子を思い出していた。冷たい目が恥ずかしそうに細められる様子。


「それで?なぜ冷雅の記憶をなくしたんだい?」
 紅夜は戸惑った。天皇の息子にこんなことを言ってもいいのだろうか。
「僕はただ君の上司だ。それ以外何でもないだろう」
 羅貴は優しくいった。


「……それは月影家が全滅したからです。天皇陛下の策略で」

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