兄弟姉妹の世話をしたくても、絶縁したくても、自分にとって幸せな選択ができることを応援~『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』感想(ライター雪代すみれさん)~
著書『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと 50 の疑問・不安に弁護士できょうだいの私が答えます』(中央法規出版)について、本書の原稿の確認や助言のサポートをお願いした、ライターできょうだいの立場でもある雪代すみれさんのコメントを掲載します。どうもありがとうございます!
すべてのきょうだいに届いてほしい本
※本記事は著者の藤木和子さんからご依頼をいただいた上で、レビューを執筆しています。
私自身、重度知的障害を伴う自閉症のある弟がいるきょうだい当事者です。本書を読み終えて最初に出てきた言葉は「もっと早くこういう本に出会いたかった」。
本書に書かれているような内容について、今までたくさん悩んで思い詰めてきました。でも「法律としてはどうなのか」を知っていたら、もっと楽に捉えられていたかもしれません。若い世代が私と同じように悩むことが繰り返されないよう、本書が届くことを願います。
本書の構成は一章自己紹介、二章きょうだいの状況の違いや共通の傾向の説明、三章50の疑問・不安に答えます
本書は三章の構成になっています。一章は藤木さんの自己紹介です。藤木さんの年表や、藤木さんがしてきた選択、葛藤が見えてきます。
二章では、「きょうだい」と言っても一括りにはできず、兄弟姉妹の病気や障害の種類や、家族との関係性、周囲から得られたサポートなど、一人ひとり状況が違うことの説明があります。そのうえで、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」が実施したアンケートを紹介しながら、きょうだいに共通した傾向が分析されています。
三章が本書の一番のボリュームゾーン。きょうだいの50の疑問・不安にQ&Aの形で答えています。「兄弟姉妹の世話をしたい」「ほどほどの距離感で関わりたい」「絶縁したい」……色々な考えのきょうだいがいますが、幅広くきょうだいが知りたいことがカバーされています。
なかなか言いづらい「きょうだいの本音」が書かれている点が印象的
対話形式で藤木さんがきょうだいの疑問・不安に答えているのですが、所々、なかなか言いづらい「きょうだいの本音」が書かれている点が印象的でした。例えばQ⑪「進学を機に実家を出た。親の希望に従って地元で就職するべき!?」の中で、相談者が親には感謝しているものの、親からの「障害なく産んで育ててあげた」「障害のある妹の分も私に学費等を払った」といった言葉を負担に感じていることを打ち明けた上で「恩着せがましい発言は逆に心が離れますよね」と言っています。
同様の言葉は私も親から言われましたし、同じような経験を語るきょうだいの話も聞いたことがあります。「きょうだいあるある」ではあるものの、きょうだいでない友人に打ち明けたことはありませんでした。どんな反応が返ってくるかわからなくて怖かったからです。
今はネットで他のきょうだいの声をキャッチしやすくなってきていますが、私が子どもの頃には周りに思いを共有できるようなきょうだいはいませんでした。複雑な感情を一人で抱えるしかなく、「こんなふうに思う自分は最低だ」と責めたこともあります。
言いづらいきょうだいの本音が書かれていることで、そういう経験をしていることも、モヤモヤした感情を抱えているのも自分だけでないことがわかります。わかるだけでも、たとえ身近に話せるきょうだいがいなくても、自分の感情を受け止めてもらえるような感覚が得られたり、孤独感が薄まったりするのではないでしょうか。
「本当は自分はどうしたいか?」に向き合うサポートをしてくれる
第一章の藤木さんの言葉を引用します。
<法律の立場から伝えられることは、たとえば、「障害のある兄弟姉妹の世話」「結婚や出産」「住む場所」「進路や職業」は、「あなたがどうしたいかを尊重します。あなたは自由です」「あなたには自分の幸せを求める権利があります」「あなたがどうするかは自分で決められます。誰の許可もいりません」というのが法律の考えだということです>
私自身、長い間悩んできたのが、色々な場面で自分がどうしたいのかわからなかったことです。きょうだいとしての経験を振り返ると、「嫌。やめて」と言っても弟がやめてくれなかったり、親から「障害があるのだから仕方ないでしょう」と一方的に我慢を強いられたりと、諦めなければいけないことや、感情を踏み潰して生活しなきゃいけない場面も多かったです。「良いお姉ちゃんでいなければ」という思いも持ち続けてきました。
今思えば「しなければならない」と「やりたい」の違いがわからないまま生きていた時期も長かったです。藤木さんのこの言葉はまさに、「しなければならない」か「したい」のどちらなのかを考える一歩を踏み出せるものだと思います。
私は5年ほど前から「しなければならない」から「したい」にしていくために、自分に向き合ってきましたが、まだ「しなければならない」に縛られている部分もあります。そんなときには、藤木さんのこの言葉を心の中で唱え、「今直面しているこのことは、『しなければならない』と『したい』どっち?」と問いかけたいと思います。
どちらかというと家族から距離を取りたい、離れたいきょうだいが知りたい項目8つ
なお、私は現在、弟とも両親ともかなり疎遠になっています。弟に障害がなくても両親との関係性はつらくなっていただろうと、どちらにしろ機能不全のある家庭だっただろうと分析しています。
程度の違いはあっても、どちらかというと家族がしんどい存在であるきょうだいが知りたい内容は、私が本書の中で関心が高い項目と重なっているであろうと思いますので、以下紹介します。
①障害のある弟がいます。きょうだいは一生、世話をしなくてはいけないのですか?
②法律に「きょうだいに扶養義務」と書かれている!?私には「義務」があるんですか?
③趣味にお金を使ってはダメ!?「余裕がある範囲で助ける」の「余裕がある」の基準は?
④扶養義務ってどこまで?同居や世話をする義務もありますか?
⑦弟中心の実家は落ち着けない 実家を出たいです!
㉓家族が世話をできない場合、障害のある兄弟姉妹を行政が支援してくれるのですか?
㉞もうかかわりたくない。親子や兄弟姉妹の縁を切る方法はあるのでしょうか?
㊴生活保護を申請しようと思っているけれど、扶養照会で家族に連絡されたくない!
きょうだいは一人ひとり違う
藤木さんの人生を「きょうだい」の面から見せていただいたとき、紆余曲折あったことは本書から窺えます。また本書に関して、私がインタビューした際にも感じたことでした。
激しい衝突をした時期がありながらも“和解”した藤木さん。モヤモヤしたものを抱えながら、家族との関係性や状況の改善を目指したものの、自分の心を守るために距離をとらざるをえなくなった私。本当にきょうだいは人それぞれだと感じます。
この記事を読んでくださったあなたが、誰かと比べたり、「こうあるべき」に囚われたりするのではなく、ご自身にとって幸せな選択ができることを応援しています。
本の詳細・試し読み
雪代すみれさん、大切なご感想をどうもありがとうございました!
複雑で難しい問題ですが・・・、できるだけシンプルに考えて、きょうだいが悩まなくてよくなるように、微力ながらできることを一つひとつしていけたらと改めて思います。
もしよかったら、こちらから本の詳細・試し読みご覧いただけますと嬉しいです。
よかったら#きょうだい本のハッシュタグでnoteやSNSでご投稿くださると嬉しいです
もしよろしければ、 #きょうだい本 のハッシュタグでnoteやX(旧ツイッタ―)、インスタ、フェイスブックなどのSNSに投稿いただければ、ぜひ取り上げさせていただきたいと思います。
『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』に限らず、きょうだいに関する本やきょうだいが登場する本の感想で、文章の長さは自由・・・!一言や短いのも、思いを込めてくださった長文も大歓迎です!
インターネット上に、「きょうだい」に関する投稿や情報が増えれば、きょうだい自身、親、祖父母などの親族、学校の先生、支援者、周囲の方々など、必要な方、届くべき方に届きやすくなるのでは?という思いです。
ここまでお読みくださり、どうもありがとうございました!
編集(太字含む):藤木和子・スタッフ
「きょうだい」がいつか辞書などにも載るコトバになりますように!!