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KOZAROCKS 2024実行委員長 豊里健一郎によるオープニングスピーチ「万国津梁2.0ー沖縄はアジアのスタートアップハブとなるか?」全文公開!

2024年7月6日に沖縄県沖縄市コザにて開催されたカンファレンスイベントKOZAROCKS 2024で行われたオープニングスピーチ「万国津梁2.0ー沖縄はアジアのスタートアップハブとなるか?」の全文となります。

KOZAROCKS 2024実行委員長であるフォーシーズ株式会社 代表取締役 豊里健一郎さんによるスピーチです。

KOZAROCKSがスタートした経緯や、コザスタートアップ商店街の成り立ち、沖縄スタートアップエコシステムの現状、そして新たな挑戦である津梁ファンド立ち上げについて語られています。

KOZAROCKS 2024の開幕として、実行委員長 豊里健一郎さんによって今回のKOZAROCKSのコンセプトが語られました。

実行委員長 自己紹介

豊里健一郎さんのプロフィール

KOZAROCKS実行委員長の豊里健一郎と申します。コザの街で生まれ育った人間です。

2019年から沖縄市創業支援施設「Startup Lab Lagoon」の運営として、コミュニティ作りやスタートアップの創業支援を行ってきました。今は沖縄市にとどまらず、沖縄県全体のスタートアップエコシステム作りをしているのですが、「沖縄がどうやったらもっと成長できるか?」という思いのもと、その環境作りを行うお仕事をさせていただいております。

また、このコザスタートアップ商店街(Koza Startup Arcade:以下KSA)というプロジェクトを立ち上げている人間なので、今回はそのようなお話しもさせていただければと思っています。

KOZAROCKSの成り立ちについて

KOZAROCKSの開催は、今回で第4回目になります。
元々始まりとしては、2019年に沖縄市と一緒に立ち上げた「Startup Lab Lagoon」という創業支援施設でした。2022年に「行政に依存させずどんどん街に広げていきたい」という思いから立ち上げたプロジェクトが「KSA」のスタートとなっています。

立ち上げる時は財源もほとんどなく「これからどうやってプロモーションをかけていこうか?」と考えた時に、クラウドファンディングを行いました。クラウドファンディングでは600万円ほどのお金が集まり、そのリターンとして開催したのが、2022年7月に行った初めてのKOZAROCKSです。

コザにご縁のあった起業家や、街で活躍するエンターテイメントの方々にご協力をいただいての開催となりました。

そこから2回目、3回目と開催する中で、KOZAROCKSは2つの役割を持つイベントへと成長してきました。

一つは、日々お世話になっているコザの街の皆様への恩返しの場。
そして二つめは、ピッチなどを行うことによって起業家にとって大切な打席となるような場です。

4回目となる今回のKOZAROCKSのテーマは「万国津梁」

第4回目となる今回は「万国津梁〜アジアと日本の架け橋としての沖縄〜」をテーマに掲げ、より「コザらしさ」を表現できる回にしています。

ちなみに「万国津梁」という言葉を聞いたことがあることはどれぐらいいるでしょうか?
沖縄の人にとってはゆかりのある言葉なのですが、県外の方だとおそらく初めて聞いた方も多いのではないかと思っています。

万国津梁とは「万の国の架け橋になる」という意味なのですが、琉球王国がとってきた理念の一つで、私はこの言葉が大好きです。

実は私、生まれはコザなのですが、15歳の時に両親から「お前は中国に行って来い。琉球王国と中国は貿易もやっていたし、関係も深いから」という軽いノリで留学に飛ばされています。
沖縄と中国、沖縄とアジアってすごく近い感覚があって、「これからはアジアの時代だ」と2001年ごろから言われていたので、私は中国で進学・就職を行なって、15年間中国に住むことになりました。

外から沖縄を見た時に感じたのは、アジアとの地理的な近さや、日本とアジアの中で沖縄が発展するにおいて改めて「万国津梁」という言葉が非常に大切なのではないかということです。

そして昨今スタートアップの世界が盛り上がってきた中で、「新しい万国津梁が皆さんと一緒に描けるのではないか」ということで、このテーマを掲げさせていただきました。

おきなわスタートアップ・エコシステムの立ち上がり

沖縄でのスタートアップの盛り上がりを象徴するものとして、2022年12月に「おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が立ち上がりました。沖縄県知事が代表となり、事業会社、金融機関、行政、大学といった様々な機関が入ったコンソーシアムとなっています。

この「おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」では、「こういった方向を目指そうよ」といったグランドデザインを描いています。

1. チャレンジ文化が根付いた地域の形成
2. 沖縄の持続的発展に寄与するエコシステムの形成
3. 世界のエコシステムと繋がり相互に発展する地域

おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム グランドデザイン

沖縄スタートアップエコシステムにおけるコザスタートアップ商店街の立ち位置

私たちのこの場所も、沖縄のスタートアップ支援拠点としては一番早いタイミングである2016年ごろから、創業支援拠点「Startup Cafe Koza」という名前で立ち上がりました。実はこの「Startup Cafe」というのは、スタートアップが盛り上がっている福岡が始まりで、その横展開としてコザで立ち上がっています。

私はStartup Cafe Kozaが立ち上がったタイミングで中国から地元であるコザに帰ってきました。それまでずっと海外にいたので「地元でこんなに面白いことをやっているんだ」と驚きました。

本当は海外で起業しようと考えていたのですが、世界地図を眺めたときに、台湾に1時間で行けて、香港に2時間以内で行ける。そして上海も2時間かからないぐらいで行けて、かつLCCもたくさん飛んでいる。
そんな沖縄に、シンプルに地理的な便利さがあると感じ、地元である沖縄・コザでの起業を決意しました。

そして2019年にStartup Cafe Kozaからリブランディングを行い「Startup Lab Lagoon(※現在のLagoon KOZA)」として、琉球ミライ代表の野中光と一緒に始めました。
彼は現在、HelloWorldというスタートアップの共同代表を務めながら、同時にスタートアップ支援機関の琉球ミライという会社の代表も務め、両方の会社を伸ばしています。
そんな野中と二人三脚で支援拠点を立ち上げて、今は沖縄県全体のエコシステムとなることができました。

そして2022年7月に、自走化できる拠点作りに向けてKSAを立ち上げ、その口火を切るタイミングでKOZAROCKSの第1回目を行いました。

そして2022年12月には、先ほどお話ししたおきなわスタートアップ・エコシステムコンソーシアムが立ち上がり、「こういった方向性を目指すぞ」というのを宣言していただいた年になります。

2023年にはさくらインターネット様の拠点としてLagoon NAHAがスタート。那覇での創業支援拠点が沖縄の超一等地にでき、コザからスタートした「Lagoon」は沖縄県全体のスタートアップ支援の中核的な拠点として根付いてきています。
こうして那覇など他の地域も盛り上がってきているのですが、「沖縄市・コザ」という私たちの街をもっともっと元気にしていきたいという思いでKOZAROCKSやKSAの活動を行なっています。

最初に描いたKSAの姿が左側の図(※上記に記載)です。一階部分は街の目線も入るため、街のコミュニティが集まり起業家たちが外の人と交われる場所を目指しました。現在ではアートギャラリーがあったり、コーヒー屋さんがあったり、シーシャカフェがあったり、お母さんたちの挑戦を支える場所があったり、オルタナティブスクール※があったり、いろんな場所を作ってきました。

一階はコミュニティの場所、そして2階部分には私たちのようなパソコンを持った人間が集まれるようなコワーキングスペース・オフィスなどの場所を描いています。

元々はシャッター街だったこの商店街が、今では飲食店などが広がってきて「もう空き店舗がないよ」というのが課題になっているぐらい発展してきました。
そんなコザの街をもっともっと元気にしていきたいという思いで、商店街の中でカンファレンスイベントをやるKOZAROCKSといった挑戦もしています。

※オルタナティブスクールとは?
ヨーロッパやアメリカの哲学的思想をベースに発展した「オルタナティブ教育」を取り入れている学校の総称。 「オルタナティブ(alternative)」とは「主流の方法に変わる新しいもの」という意味で、オルタナティブスクールは、公立でも私立でもない「新しい選択肢の学校」とされている。

活躍する沖縄生まれのスタートアップ

そしてこの商店街から生まれたスタートアップ企業であるHelloWorldも、昨年は本当に大きく成長し、ICCというスタートアップカンファレンスで優勝を遂げることができました。

去年のKOZAROCKSピッチにご登壇いただいたEF Polymerも、KOZAROCKS優勝後に九州を代表するスタートアップカンファレンス「ASCENSION2023」でも優勝、その後ICCでも優勝と、昨年は沖縄スタートアップの活躍が著しかったと感じています。

他の沖縄スタートアップも高い時価総額になってきているところがあったり、5.9億円や2.5億円といった大きな資金調達ができるスタートアップも増えてきたかなと思います。

充実した沖縄のスタートアップ支援環境

スタートアップを支える拠点も増えていて、琉球大学のスタートアップラボ琉大(琉ラボ)があったり、OIST(沖縄科学技術大学院大学)Innovationという海外のディープテック・バイオのスタートアップを支える拠点があったりします。

今回のKOZAROCKSでご登壇いただく麻生要一さんも、AlphaDriveの沖縄拠点として琉球Alpha Driveを立ち上げて、「coconova」という拠点の運営を行なっていく予定です。また、石垣島にも面白法人カヤックという、最近FC琉球に資本参画されたIT企業が運営に入っている「チャレンジ」という創業支援拠点もあります。

外からもたくさん沖縄を応援してくれる企業さんたちも増えていますし、どんどん沖縄にスタートアップを支えるような場所が増えてきたかなと思っております。

そして沖縄全体のスタートアップ環境を支える「おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」も立ち上がり、事業会社、金融機関、メディア、大学、コミュニティとスタートアップを支える仲間たちも集まってきています。

私がこの中で特に大事だなと思っているのが、事業会社・金融機関との「オープンイノベーション」です。オープンイノベーションとは、スタートアップと一緒に新しい事業を作っていったり、外の知見を借りながら新しいイノベーションを起こすといった取り組みのことです。

私が現在、経済資本部会の部会長を担っていまして、金融機関の融資や出資といったリスクマネーの供給に関する勉強会を日々開催しています。

なぜ沖縄でスタートアップなのか?

沖縄の起業・創業における大きな特徴として、開業率が全国1位となっています。「これ何年連続1位なの?」というと、10年連続です。本当に高い開業率にいなっています。

沖縄ではポジティブに捉えられることも多いですが、その裏にあるのが高い廃業率で、多くの事業が多産多死している島です。

「多産多死」と聞くとネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、もともと中国にいた私にとっては非常にポジティブに捉えています。中国では基本的に「いっぱい挑戦していっぱい失敗してくれ」と失敗に対して非常にポジティブなのですが、その意図としては、たくさんの挑戦・失敗があるからこそ成功があると考えられているからです。

なので早めに失敗すること、早めに挑戦すること、すぐやること、できるまでやること、そういった風土が沖縄で根付いているのは非常にポジティブだなと捉えています。

とはいえ、どんどん強い起業家が生まれてくるようにしなければいけないので、もう少し質を上げていく必要があると感じています。

沖縄スタートアップの資金調達現況と課題

沖縄スタートアップの資金調達額もどんどん増えてきています。2019年は8億円、2020年に10億円、2021年に13億円、2022年に12億円と推移していたのですが、2023年には39億円もの資金調達ができるようになりました。

スタートアップの成長において資金調達が全てではないんですが、きちんと資金調達ができる環境が整ってきたからこそ、次の成長に繋げられるようになってきたと思っています。

昨年「おきなわスタートアップ・エコシステム」の発展戦略として、このような目標を掲げています。

資金調達額は100億円、評価額100億のスタートアップを10社、そしてスタートアップの会社数を97社から200社に増やしていこうといった野心的な目標を掲げることができるようになってきたのも、徐々にスタートアップが成長する環境が整ってきた証拠かなと感じています。

また、他の地域に比べて創業・シード期からの脱却に苦戦しているのが沖縄の特徴でもあります。図にある通り、シリーズAへの移行率が14%と他の地域に比べて低いことが課題として挙げられます。理由としては、投資家が足りない、マーケットサイズが小さく成長のしようがないなどが考えられます。

資金調達の環境も、先ほど2023年は39億円とお伝えしましたが、これを「39億円も」と見るか、「まだ39億円しか」と見るか二つの視点がありますが、私としては「まだ39億円しか」と感じています。

例えば福岡県では、2022年に353億円の資金調達額※を発表していて、福岡と沖縄でGDPの差はあれど、それを考慮してもこの差は大きすぎるのではないかと思っています。

沖縄にもたくさんいい起業家やいいサービス・プロダクトが生まれてきている中で、もしかしていいマーケットに出れていないんじゃないか?というのが私の感じている課題です。

※ユーザーベースが発表したStartup Finance 2022によるデータ

スタートアップの成長に必要な3つの要素として、市場、人、資本があると思っています。

この3つの要素ごとに沖縄の課題と挙げるとするなら、
市場でいうと、スタートアップが目指す市場が県内にとどまっている。
人でいうと、スタートアップの成長を牽引できる人材が不足している。
資本でいうと、沖縄県内における投資家の絶対数がまだまだ足りない、また外の投資家も含めて足りていない。

こういった「島ならでは」といえる課題があります。
そこで、こういった課題を解決するために、かつての琉球から学べることがあるのではないかと考えています。

沖縄スタートアップ発展における新たな戦略「万国津梁 2.0」

沖縄のかつての姿である琉球王国は、アジアと日本の間に位置する地の利を生かして中間貿易によって栄えました。重要文化財である「万国津梁の鐘」には、こんな銘文が刻まれています。

琉球国は南の海のとても良い土地で
朝鮮半島のすぐれたものを集め
中国とは車輪とその添え木のような深い関係になり
日本とは唇と歯のような深い関係になり
この二つの国の間にあってわき出した楽園です。
船をもって多く国々のかけ橋となり
外国の産物や貴重な宝物が国中に満ちあふれ
土地や人びとにも、遠い日本(和)や中国(夏)のすぐれた教えが伝わっています。

意訳(沖縄県立博物館・美術館ウェブサイトより)

この鐘は、500年以上前から首里城に掲げられているのですが(※現在は首里城が復興中のため、県立図書館にある)、この琉球王国がとった戦略に学び、今の沖縄の戦略に活かすことができるのではないかと考えています。

琉球がとった「万国津梁」という戦略から、より大きな市場で成長を目指スタートアップのハブを目指せるのではないか?というのが「万国津梁2.0」の考え方です。

沖縄から日本・アジアの大きな市場へ出て行くこと、そして日本からアジアへ進出するときのテストベッドとしての沖縄、そしてアジアから日本市場へのソフトランディングとなるのが私のビジョンです。

実際に今、HelloWorldがベトナム・台湾といったアジアマーケットに出ていますし、EF Polymerはインド・米国・フランスと最初から海外を目指しています。また、IoTスタートアップであるLiLzも、沖縄から世界・アジアを目指しています。

日本からアジアといったところでも、コザの近くに「イオンモールライカム」という大きなショッピングモールがありますが、そこに日本最大級の「ワークマン女子」があります。

なぜ沖縄にワークマンを作ったか?というと、インバウンドを見据えているそうで、台湾などのアジアからの観光客に買い物してもらって、将来のアジア進出のテストベッドとして出店しているそうです。

最近話題のテーマパーク「JUNGLIA」でいうと、アジア20億人の市場を狙うんだと株式会社刀の森岡氏が言ってますよね。

そして今回のKOZAROCKSでは、台湾の支援機関・スタートアップの皆さんにもたくさんお越しいただいています。台湾のスタートアップ支援ブランド「Startup Island TAIWAN」もスポンサーとしてお力添えいただいています。

台湾から日本を目指すスタートアップもどんどん増えていて、上場先を台湾ではなく日本・東京に目指す企業も増えています。

台湾から日本市場を目指す時に、そのお手伝いを沖縄の我々ができないかと考えています。

フォーシーズが「津梁1号ファンド」を組成

これまでお話しした「万国津梁」をコンセプトとして、私が経営するフォーシーズ株式会社にて10億円規模の「津梁1号ファンド」を年内に組成します。地域に資本と成長を循環させる、地域に根差したファンドを作っていきたいと考えています。

沖縄県内から資本を集め、県内スタートアップへの投資を行う。その中でファンドの運営ノウハウもためていきます。また、地域での人材育成として、起業家だけでなく、起業家を支えるファンドマネージャーやキャピタリストも育てていきたいと考えています。そして強いスタートアップを輩出・誘致できることによって、また次のファンドに繋がっていく。

支援者が支え、そしてまた支えられるといった環境を作っていかなければ、地域のスタートアップエコシステムは育たないのかなというのが、ここ数年スタートアップ支援に関わらせていただいている中で感じている課題です。

このエコシステムを作ってこそ、スタートアップ支援と沖縄経済の発展が結びつくのではないかと思っています。

アジア市場にいるスタートアップが、沖縄を経由して日本のマーケットに出て行けるようにする。
沖縄のスタートアップが、アジアや日本にあるより大きなマーケットに出て行けるようにする。
そして日本のスタートアップが、我々沖縄を通じて大きなアジアのマーケットに出て行けるようにする。

そんなハブとなる島になっていくべきではないかというのが、私の万国津梁2.0の考えです。

こういった人と資本が行き交う島「沖縄」にしていきたいですし、沖縄スタートアップの成長エンジンに変えていきたいと思っています。

沖縄スタートアップの成長に加えて、県外・海外のスタートアップ成長を取り込めるような沖縄を一緒に作り、これからの沖縄の未来を描いていければと思っています。

ぜひ多くの方のお力添えと応援をよろしくお願いします。


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