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次世代へ、次世代と繋ぐ、伝統文化


織りの文化「銘仙(めいせん)」の現状を知り発信すべく、埼玉県・秩父へ訪問しました。その様子は今後開設予定のTSUNAGUのnoteで発信していきます。

今回は、個人的にこの訪問で感じた日本の文化、伝統の形について綴ろうと思います✍️

手と機械が織りなす美しい産物、「銘仙」

銘仙とは、一般的に「平織りの絹織物」を指します。大正から昭和にかけて女性の普段着・お洒落着として日本全国に普及しました。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせる織物ですが、銘仙は経糸の色と緯糸の色を故意的にずらすことで、色の境界がぼけるような柔らかい見栄えとなり、これが当時の流行となりました。この織りの技法は「絣(かすり)」と呼ばれています。

栃木県・足利や群馬県・伊勢崎、東京都・八王子といった北関東を中心に発展していった銘仙。その中で、埼玉県の「秩父銘仙(めいせん)」は、秩父という土地ならではの良さを活かして発展してきました。

秩父は山に囲まれた地形で、稲作に向かないことから養蚕業が盛んだったそう。その中で規格外の繭を使い「太織」と呼ばれる野良着を生産しており、その太織が評判を呼び、大衆の普段着として好んで使われてきました。

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その後太織は「秩父銘仙」と名前を変え、「ほぐし捺染」という技術の開発により大胆で華やかなデザインの織物に。秩父銘仙は女性の間で手軽なおしゃれ着として大正から昭和初期にかけて全国的な人気を誇るようになりました。 当時は養蚕業などを含めると市民の約七割が織物関係の仕事に関わっていたと言われ、 まさに秩父地域の基幹産業だったそうです。

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(今回訪問させていただいた、新啓織物さん)

機械で織る銘仙ですが、このボタンを押せば出来上がる、のような簡単なものではなく、糸がちゃんとかかっているか、しっかり織れているか都度目視で確認したり、手を動かして調整しながら織られていました。また、糸の状態もその日の気温や湿度によって変わってくるため、自然環境の変化の機微を捉える鋭い感覚も重要だと気付きました。銘仙という技術は、人間の手と機械の2つがあってこそ、初めて完成するものだと実感しました。

伝統文化は職人の高齢化や後継者不足で危機的状況にある。これは、学校でも習ってきたこと。しかし、実際に現地へ行くと、上記の課題のリアルな姿が浮き彫りになると同時に、このままでは本当に近い将来無くなってしまう、と感じます。

秩父銘仙に関しても、稼働している機械がゼロに近く、職人自身で調整しながら少しでも長く使えるように工夫されていたり、齢80を超える先輩職人から口承で技術のノウハウを継承されています。

若手世代と繋ぐ、新しい銘仙の形

こうした伝統技術の現状に対して、今何ができるのか。刻一刻と存亡の危機にある銘仙文化に対して、新しい方法を模索するブランドがあります。

カルチャーブランド「Ay」では、群馬県・伊勢崎の銘仙文化に注目し、ファッションアイテムを展開されています。こちらは以前私が代表の村上さんにインタビューした記事です。

実際に、伊勢崎では銘仙の機屋さんはもうおらず、銘仙という技術自体が忘れられてしまうような状況。その中で、伊勢崎出身の村上さんは伊勢崎銘仙という文化をいかに未来へ繋いでいくか、現在クラウドファンディングに挑戦されています。

また、「アップサイクル」という形でブランドを作られている「MUSKAAN」の石坂さん。ヴィンテージの銘仙を洋服へ生まれ変わらせ、銘仙が持つ魅力を発信されています。

こちらも、以前取材させていただきました。一点もののヴィンテージ銘仙の斬新なデザインから、自由でワクワクするファッションの形が見えてきます。


次世代「へ」繋ぐという過去から未来への一方向的なアプローチではなく、次世代「と」繋いでいく現在進行形の相互的なアプローチこそ、今後の伝統文化継承のヒントになり得るのではないか。今回、MUSKAANの石坂さんやAyの村上さんと秩父へ訪問する中でそう感じました。

伝統文化は見た目の美しさも勿論ですが、何より職人それぞれの魂・エネルギーの美しさを感じます。物体を超え、今を生きる職人のエネルギーをどうしたら”次世代”に共鳴できるか。そして、共鳴した人たちがどう行動を起こしていくか。そういった、人と人との「魂」の繋がりこそ、文化継承のヒントがあると感じます。

これは伝統文化だけでなく、全ての物事に言えること。単に物体を表層的に継承すれば良い、という単純な話では無い。だからこそ、本当にこの世界に共鳴する人たちがどう集まり、地道に挑戦し続けられるかを考えることが、第一歩なのではないでしょうか。

いかに多くの人にたくさん販売するかという戦略的な方法もあるけど、「美しさ」という抽象的な美意識の継承というのは、そんな機械的にできることじゃありませんよね。多くの時間やエネルギーを費やすものです。

やっぱり、シンプルなことではありますが、共鳴してくれた人との関係性を培っていくことこそ、文化伝承の大きなヒントだと思います。

社会の「自己肯定感」を上げるために

世の中の便利さが加速する中で、人の感触そのものが離れていくのもまた事実。その中で、職人でもデザイナーでも無い一人のライターとして、私は今後伝統文化の現状に対してどう貢献できるかを考えました。

私自身は「エシカルファッション」という言葉に魅力を感じて、その領域で活動する方を取材したり発信したりすることを主にしていますが、今後少しずつその角度を変えていきたいなと思います。

やはり私の根底にある関心は「人」。そして、魅力的な人々が生み出す物から醸し出される美意識。それに尽きます。


今様々な社会問題が私たちに見える形で溢れ出していますが、その「社会問題」自体が問題の本質では無いのではないか、と最近私は思っています。

私たちそれぞれの経験という「レンズ」を通して社会を見た時、社会の事象が「問題」となる。だからこそ、社会問題そのものに対して直接的にアプローチするというより、その問題を問題たらしめている私たち一人一人の内面に目を向ける必要があると思っています。

私たちが生きる世界、日本って良いところもあるんだねと思える機会って本当少ないと思います。日々「問題」だけに焦点が当たって、どんどんネガティブな気持ちになる。人も社会も「肯定感」が下がる。それでは、本当に前向きな物事は起こせない。私は、なによりもこうした社会全体に蔓延する「自己肯定感」の低さにこそ問題があると思っています。

だからこそ、少しでもこの世に美しいものはあるんだな!と思ってもらえるように、前向きな文化を創り出す方たちの声を発信していきたい。それこそが、私の喜びでもあります😊

まずは、少しでもこのnoteに共感されたなら、ぜひ村上さんの挑戦する姿や、MUSKAANのPOP UP STOREで実際の銘仙の魅力を感じ取っていただきたいな。私も、日々果敢に挑戦されている方たちからインスパイアされながら、引き続き日本の伝統文化継承に挑む方々を取材していきます✍️

*MUSKAANのPOPUP:2021年3月24-30日@新宿高島屋2階スウィングスクエア(JR新宿駅連絡口前) 10:30-19:30


<参考サイト>

・ちちぶ銘仙館「秩父銘仙とは
・足利道楽ホーム「銘仙とは