「アフリカの夜」⑤八重子と有香のディスカッション

大石静さん脚本ドラマ「アフリカの夜」。23年間私を励ましてくれるドラマだ。仕事を辞めて時間に余裕ができたので、文字起こしをしている。

有香「たったひとりでも、朝からきっちりご飯作って食べるんだ」
八重子「(ムッ)……外で食べるより経済的ですし、栄養的にもバランスが」
有香「(遮り)そういうことじゃないの。朝食のことだけじゃないの。あなたのこの頑なまでに形式にこだわる感じ?キチッとした誇り高いスタイル?それを男に押しつけるんだろうってこと」
八重子「そんなことあなたに分かるんですか?」
有香「分かるわよ。私はあなたと違うもの」
八重子「……」
有香「朝食なんか作んないで、男とぐだぐだ昼まで寝てる楽しさも知ってるし、喫茶店でモーニング食べる喜びも知ってる。だから、レ~タみたいに著しくマイペースな男でも愛せるの」

大石静「アフリカの夜」第3話より

八重子がメゾン・アフリカに引っ越してすぐの有香とのやりとり。
一人でも朝食をキチッと作る八重子、自分の気持ちに素直な有香。ひとり暮らしをする人がどんな朝食を食べるかでキャラクターが表れる。
最後のセリフの松雪泰子さんの言い方がとっても好き。

良吉「どうしたんだよ、一体」
八重子「ハア……」
みづほ「あんなガキにビビってどうすんだよ」
八重子「でも……」
みづほ「何があったか知らないけどさ、大の大人が情けないね。あんただって元スッチーだろ?」
八重子「?」
みづほ「命張って空飛んでた女だろ?あんなガキのひとりやふたり、どおってことないじゃないか」
八重子「空は飛んでませんけど」
みづほ「あたしはアイツの三倍。あんただって二倍は生きてんだからね」
八重子「……」
みづほ「自信持って!」
八重子「……そうですよね……いってきます」
と、店を去って行く。
みづほ「いってらっしゃい。アテンションプリーズ!」

大石静「アフリカの夜」第3話より

「アフリカの夜」のキーマン、丸山みづほ。八重子が逃げ隠れている姿を見て、言ったセリフだ。私も学校で働いていた時、みづほの言葉言葉に励まされた。人は、やりとりの中で、力をもらうんだと思う。「自信持って!」だけ言われても、言葉が空しく通り過ぎる。

この場面も、ドラマの核となる「道は開かれている」に通じている。このドラマは一点に向かって盛り上がりぶれない。

そして、ただ励ますだけではなく、そこに「元スッチー」のいじりを入れてくるのが本当のやりとりっぽいし、説得力を増している。場面の最後のオチは「アテンションプリーズ!」。スッチーの話にも通じる終り方だ。

有香「アタシがレータを初めて好きだと思った瞬間は、ガード下の焼き鳥屋だったわ。もくもくした煙の向こうで、しばしば目をさせてるレータを見た時、ああアタシこの人のこと好きだなぁって思った。だから、アタシはレータがどんなになっても平気。お風呂がないアパートに暮らすようになっても平気。アンタはさ、男を条件で選んでんのよ。ホントに愛してるなら、条件なんてどんなに変わったって愛し続けるべきだわ。ワインがレモンサワーになったって、晴れの日が雨になったって、愛し続けなければならないの」
八重子「そうでしょうか……?」
有香「そうよ」
八重子「……お言葉ですけど、そこまで言っちゃうと幸せ逃しますよ」
有香「えぇ!?」

大石静「アフリカの夜」第3話より

好きになった理由を語るときは、個人的なシチュエーションがいい。サッカーで髪なびかせて走ってるとか、いかにもな場面は何も引っかからない。ガード下の焼き鳥屋、もくもくした煙、しばしば目をさせてる、とてもいい。2022年でこそ、メジャーな感覚かもしれないけど、23年前なのが驚いてしまう。


八重子「そんな風に決めつけてしまうと、本当に何が自分にとって幸せなのか、見えなくなってしまうと思うんです。私が彼と別れたのは、自分が間違ってると思ったからです。あの時の愛してるって気持ちが間違えだったって気づいたからです。自分が幸せじゃないって思ったから、別れることを決めたんです。誰だって幸せになりたい。そのために、人は道を選ぶことができるんです」
有香「何言ってるんだか全然分かんない」
八重子「分かっていただかなくても結構ですけど、朝食だって、わたしは作らなくちゃいけないから作ってるんじゃなくて、好きだから作ってるんです。ワインも好きですけど、レモンサワーだって大好きなんです」
有香「じゃあ勝手にしなさいよ。……あ、ただ、レ~タは絶対に渡さないから」
八重子「結構です!いりません!……」

大石静「アフリカの夜」第3話より

さっきの続きの場面。礼太郎の言葉を思い出した八重子が「人間にはそうでなくてはならないことなんて、何もないんじゃないんですか?」と切り返して、「人は道を選ぶことができるんです」と主題まで一直線に畳みかける。

八重子が、朝、有香に言われた朝食のことを、夜またほじくり返しているのが、いい。何話かで、礼太郎からも、「根に持つタイプ」と指摘されているのがうなずける。

三話の冒頭の緑の妄想も好き。緑のステキさは、また別の話

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