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サトウハチロー「エンコの六」~願わくば浅草ブームに乗って再復刻して!!

ローヤル喫茶店、アンヂェラス(閉店)、天国……
私にとって浅草とは喫茶店の町。
まだ観光客もほとんどいない早朝、ローヤル喫茶店へ向かっていると、ハンチングにジャンバー姿といった小汚いおじさん達とすれ違う。馬券を買いに行っていると、かつて姉に聞いた。
それが浅草六区、「エンコの六」の舞台だ。

昭和57年に復刻された「エンコの六」は、もとは昭和7年に出版された。その時代の浅草の雰囲気がよく分かる。

なぜこの本を読みたいと思ったか?
中村明「日本語笑いの技法辞典」で何度も取り上げられていた。そんなに面白いの?と興味をもつが、絶版のため図書館で借りた。

 エンコの六とは、浅原六造の呼び名である。六さんはスリである。エンコとは公園を、逆に呼んだ名である。東京でエンコと言えば、浅草とどういうものか相場が決まっている。

サトウハチロー「エンコの六」発端より

この話は、スリの六さんが相棒の大野木刑事とともに、日常の小さな事件を解決していく12話からなるオムニバス。テレ朝の連続ドラマでありそうなドタバタした雰囲気の人情物語だ。

魅力1.六さんのキャラクター

六さんはエンコを愛していた。仕事が、しよいからではない。エンコの空気を愛し、色を愛していた。エンコの午前の陽を愛し、エンコのたそがれの細い雨を愛した。

サトウハチロー「エンコの六」発端より

六さんは、一言で言えば、鼠小僧と寅さんを足して割ったような人だ。女に弱く、貧乏な人に優しい。騙されやすく、情に厚い。それでいて、スリの腕は一流。

魅力2.六さんと大野木刑事の関係

スリと刑事、表向きは敵対しているはずなのに、お互いを信頼しあい、助け合う。刑事は六さんがスリをしないように見張っているのに、六さんが好き。六さんが悪者に仕返しするときには、見て見ない振りをすることもある。

魅力3.昭和初期の浅草の雰囲気

観音劇場、神谷バ-、白十字喫茶など実在の店や通りの名前などが出て来る。浅草ブームにのって、六さんブームが来て欲しい。

魅力4.味わい深い描写

「子供の言葉のいぢらしさに、六さんの胸のマンドリンのセンチメンタル線がチリチリとトレモロした」

「エンコの六」六さんと鯉のぼりより

「六さんと鯉のぼり」は貧乏で鯉のぼりを買ってもらえない長屋の子ども達にスリした金でプレゼントしてあげる話。マンドリンをトレモロする動きを想像するだけでも面白いのに、加えてセンチメンタル線とは!!この本で一番好きな表現。

歯磨き粉を明るい十一時の光線の縞の中にとばしながら、階段を降りて行くと……

「エンコの六」六さんと俳句

窓から差す一筋の光の美しさと歯磨き粉という日常のものの取り合わせが好き。

この話の最大の魅力は、六さんの人情とスカッする展開!
それはまた別の話。


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