「アフリカの夜」⑥同年代の八重子と有香

ドラマ「アフリカの夜」が好きで、好きで、好きだ。23年間という月日は、このドラマを心の中で発酵させた。発酵で出たガスは心のフタを開ける。
退職を機に、このドラマの何が好きなのか、文字起こしをして考えている。

ここまでは、セリフ、特に長いディスカッションについて書いている。小休憩がてら、ドラマで歌われる歌について。そう、「エースをねらえ」のテーマソングだ。

ドラマ放映が1999年。八重子は29歳なので、1970年生まれ。2022年現在なら、52歳か。有香は27歳、1972年生まれ。今なら52歳。私は1978年生まれなので、私より少しお姉さん世代。

「エースをねらえ」のアニメは1973、1974年に放送されたようだから、八重子達はリアルタイムで観たというより、再放送で観たのかもしれない。私も、1969年のアタックNo1は、子どもの頃再放送で観たものだ。

第1話。メゾンアフリカに引っ越した201号室の八重子の部屋に水漏れが起こる。301号室の有香の部屋の配管故障が原因。ふたりが関わらざるを得ない設定。水道を控えるように言う八重子に、有香が言うセリフ。

有香「ちょっとアンタ、初対面のあたしに向かっていきなり死ねって言うわけ?」
八重子「え?」
有香「あたしは一日三回お風呂に入らないと生きられないの」
八重子「生きられない……?」
有香「そうよ、大体あなたに、あたしのお風呂に入る権利を奪う権利あんの?」
八重子「あの、そういうことではなくて」
有香「どういうことよ?」
八重子「ですから、そういう集合住宅の場合」
有香「(遮って)こういう集合住宅の場合は、上に住んだ者が勝ちなのよ。騒音だって、水漏れだって、下が我慢するように出来てんの。ご愁傷様でした(八重子の目の前で、パシッとドアを閉める)」
八重子「アッ!(ドアを叩き)お風呂の水、流してください!お願いします!」

「アフリカの夜」第1話より

有香のキャラクターが表われている。「死ねって言うわけ」と言っても、「上に住んだ者が勝ちなのよ」と言っても、嫌われないあけすけキャラ。普通なら、「ああ、ごめんなさい」って言うでしょ、と思うけど、そういう俗世のやりとりは越えていて、現実っぽいファンタジー。

ちなみに、その後のオチは、八重子が部屋に帰ると、有香の部屋で知らずにお風呂に入っていた礼太郎がお湯を抜いて、水漏れがひどくなるというもの。「アフリカの夜」は、真面目なシーンも、面白いシーンも、最後にオチがあり纏まりが良い。

八重子と有香がパチンコ屋で偶然出会い、八重子の家のお風呂に有香を入れることになる。

バスルームから、有香の鼻歌(『エースをねらえ!』の主題歌)が聞こえてくる。
有香の声「きらめくぅ~風が走るぅ~、太陽が燃えるぅ~、唇ぅ~に、バラの花びら~」
なぜか一緒に口ずさんでしまう八重子。
ふたりは同世代なのだ。
八重子「わたしは跳ぼう、白いボールになって~、サーブ!スマッシュ!ボレ~!ベストをつくせ!エース、エース、エース、エースをねらえぇ~」
最後の「エースをねらえぇ~」のメロディーが、八重子は落ちるが、有香は上がる。
八重子「……?(もう一度歌ってみる)エース、エース、エース、エースをねらえぇ~、やっぱり下がるのよ(バスルームの方を見て)間違ってる……」

「アフリカの夜」第1話より

開けっぴろげに歌う有香に対して、間違えていることを有香に伝えることなく自己完結させる八重子。ふたりのキャラクターの対比が面白い。

第4話で、またこの歌のエピソードが出る。塾をクビになったと思いきや、また講師を再開してくださいと電話で言われた時…

八重子「はい、ありがとうございました」
と、受話器を置き。
八重子「よかったぁ……きらめく風が走る、太陽が燃える」
どこからか、有香の歌声が重なる。
八重子、拭き掃除をしながら。
八重子「くちびるに(声が聞こえる)、バラの花びら……」
と、ベランダに向かう。

○メゾンアフリカ・1Fエントランス~表通り(朝)
有香が「エースを狙え」を大声で歌いながら出勤。

○同・八重子の部屋・ベランダ
歌っている有香を見ている。

○同・表通り
有香「エース、エース、エース、エースをねらえ(音程が上がって行く)」

○同・八重子の部屋・ベランダ
八重子、有香を見ながら。
八重子「エースをねらえ(音程下におりる)」

「アフリカの夜」第4話より

何とはないシーンだけど、エースをねらえを歌うことは、八重子の安堵の表われだし、「また間違えてる、ふふふ」と八重子が笑っていそうなおかしみがある。

○メゾンアフリカ・八重子の部屋・風呂・中‘(夜)
湯船につかって考え事をしている八重子。
3Fから有香の『エースをねらえ』の歌が聞こえてくる。
有香の声「かがやくかぜがはしる、太陽が燃える」
八重子「……(有香の歌に合わせて)バラの花びら」

○同・有香の部屋・風呂・中(夜)
泡風呂につかり歌っている有香。
有香「私は跳ぼう、白いボールになって」
以下、適宜八重子と有香のカットバック。
八重子「サーブ、スマッシュ、ボレー」
有香「ベストを尽くせ」
八重子「エース」
有香「エース」
八重子「エース、エースをねらえ」
有香は「ねらえ」の部分を上がって歌う。
八重子「また間違ってる……」

○さっきの八重子の部屋~八重子の回想
有香「アタシがアンタの親友だったらさ、あの男、悪くないよって言ったかもしんない」

○元の風呂
八重子「……エース、エース、エース、エースをねらえ(有香と同じように上がって歌う)……あ(いいかもしれない)……」

「アフリカの夜」第5話より

有香から礼太郎と別れた話を聞いた後のシーン。
これまでは、有香の歌の間違いに対して、「自分が正しい」と思っていた八重子が、有香と関わってきて、大切な存在なんだと実感した瞬間。礼太郎と自分の関係を認めてもらったから、というよりは、八重子の頑なな生き方が少し変わったからなんだと思う。

一つの歌ネタについても、ただ繰り返すだけなくて、「起承転結」がある。

坂元裕二さんも、ドラマの中で歌を小道具としてよく使っている。カルテットの「WhiteLove」が教会で流れたときはキュンとした。「花束みたいな恋をした」の「クロノスタシス」や「NIGHT TOWN」も、「初恋の悪魔」の「CHE.R.RY」も。誰と何を歌うかで、その人が分かる。

そう考えると、「エースをねらえ」は、八重子と有香の繋がりだけでなく、少女性も感じさせる選曲だ。

結論
歌う場面を作ったら、歌の場面だけで起承転結を作る。

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