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ろーりえ・こんけすとっ!


[登場人物]
近堂翔太‥‥‥主人公。2年C組のボランティア部員。
天宮愛子‥‥‥同じく2年C組のボランティア部員。ほがらかポジティブ。
渡会まゆり‥‥ボランティア部部長の3年生。ゆったりおっとり。
武美晴‥‥‥‥2年A組のボランティア部副部長。冷静沈着なツッコミ係。
綾小路絵麗奈‥2年C組のブルジョア風紀委員ですわ!

//BG:駅前(昼)

駅から学園まで続く、いつもの通学路。
往路が上り坂というのが、何かと急ぎたい朝には恨めしい。

【愛子】
//表記【???】
「はぁっ、はぁっ、おはよう翔ちゃん!」

【翔太】
「おはよう、今日も元気でなによりだ」

【愛子】
//表記【???】
「えっへへ~。翔ちゃんの背中が見つかったから、
急いで来たんだ」

【翔太】
「あいちゃんを見ると、僕まで明るくなるよ」

【愛子】
「そのあだ名はだめっ! め・ぐ・み・こ!
まゆり先輩が真似したらどうするの?」

彼女は天宮愛子(あまみや めぐみこ)。
2年C組のクラスメートであり、部活に関しては昨年から一緒だ。

ちなみに翔ちゃんというのは、僕こと近堂翔太
(こんどう しょうた)のクラスでのあだ名だ。

【愛子】
「でも……そっか……。
あたしと会えて嬉しかったんだ……」

【翔太】
「ああ、自由に生きるっていいなと思って」

【愛子】
「なにそれ!? あたしだって色々悩んでるんだからぁ。
その……例えば……」

愛子がチラチラとこちらを見やる。
ふたりの仲なのだから、今更遠慮せずに言えばいいのに。

【愛子】
「もう! 何でもない!」

【翔太】
「やっぱり自由だ」

いつものように愛子とおしゃべりをしながら行く通学路。
そんな変わらない日常がずっと続けばいい――

そう思った矢先、
いつもの通学路に似つかわしくない光景が視界に入ってくる。

【女性スタッフ】
「AK製薬から新製品でーす」

【女性スタッフ】
「『プリンセス・ティニィ』よろしくお願いしまーす」

【愛子】
「あ、ドリンクのサンプル配ってるみたい!」

プリンセスという可愛い響きに惹かれるように、
女子学生が次々と手に取っていく。

【翔太】
「製薬会社のドリンクか。
どんな新製品なんだろう」

こちらをスルーし、隣の愛子に缶飲料が差し出された。

……まあ、よくあることだ。

【愛子】
「見て見て翔ちゃん! 一本もらっちゃった」

【愛子】
「いいでしょ〜。ちょっとだけわけてあげよっか?
先に口、つけていいよ……」

【翔太】
「愛子がもらったものだし、
僕に気を遣わなくて大丈夫だよ」

【愛子】
「……い、いいもん!
あたしだけ綺麗になっちゃうもんねー!」

【翔太】
「綺麗に? どういうことだ」

【愛子】
「なんか、ローレウスA−07っていう善玉菌が入っててね、
体重減ったりお肌がツルツルになったりするんだって」

そう言って、缶のラベルを見せてくれる。
デザインは、月桂樹の冠をつけた女の子が微笑んでいるというものだ。

【翔太】
「妙にうさんくさいな……」

【愛子】
「そんなこと、これはきっと天の恵みだよ。
神様から“今日の身体測定のために”ってね」

そういや今日の6限は身体測定だったな。
体重が減るとあっては、乙女としてワラにもすがりたいのだろう。

【愛子】
「この戦い、負けるわけにはいかないっ!
いざ尋常に……ってまずーい!!」

一口飲んでから、そう言って顔をしかめる愛子。

【愛子】
「すっっごい甘ったるいの! 気持ち悪くて飲めないよー」

【翔太】
「早速負けてるし……これじゃ落ち武者だ」

でも確かに、先ほどからそんな匂いが漂う。
エナジードリンクのような、あの異様に甘みの強い匂いだ。

【先生】
//表記【???】
「それなら先生がもらうわ」

と、愛子の手から缶を取り、一気に飲み干す。

その人こそ、先生。
うちのクラスの担任だ。

【先生】
「んっ、んっ…………ぶはぁ。まっず」

【愛子】
「もうっ、先生ったら」

手には何本もの空き缶がある。
その必死さ、同情せずにはいられない……。

他にも学校までの道のり、このドリンクを飲み干す女子学生を
何人も見受けることとなった。

//BG:教室(昼)

そしてその日の午後、事件は起きた。

【愛子】
「翔ちゃん……どうしよう……」

【愛子】
「測ったらね、減ってた……」

【翔太】
「おめでとう」

【愛子】
「ばかー! 全然よくないよ……」

体重が減ったというのに、この落ち込みよう。
何か健康状態に関わるほどの変化なのだろうか。

【翔太】
「ちなみに……どれくらい?」

【愛子】
「えっ、訊くの!」

【翔太】
「愛子の身体が心配なんだよ」

やはり失礼だろうか。

【愛子】
「心配って……翔ちゃんのエッチ」

【愛子】
「……0.5センチ」

0.5くらいなら、全く心配ない……って、センチ?

【愛子】
「翔ちゃんだから、言ったんだよ」

そう言って愛子が頬を赤らめている。

【翔太】
「ごめん、そっちとは知らずに……
悪いことをした」

【愛子】
「え、それって……ええええ!?」

互いの勘違いに気付いた愛子は、
さらに顔を紅潮させていく。

【愛子】
「健康かどうか心配してくれた翔ちゃんに向かって……
それじゃああたし、ただの変態だよぉ……」

【翔太】
「変態は悪いことじゃない。
自信を持てば、それでいいさ」

【愛子】
「よくなーい!」

と、すったもんだあったが……。

ともかく、やはり朝のドリンクを一口飲んだ程度では
何の効果もないということか。

そんなことを考えていると、本当の事件が起きた。

【先生】
//表記【女の子】
「はーいみなさーん。かえりのほーむるーむはじめますよー」

【先生】
//表記【女の子】
「ほらー、せきつきなさい」

小さな女の子が、教室に入ってきたかと思うと
その場をまとめるように声かけをしている。

【愛子】
「キミ、どうしたの? 迷子? お母さんは?」

【先生】
//表記【女の子】
「あまみやさん? なにをいってるの?」

【愛子】
「どうしてあたしの名前を!?」

【先生】
//表記【女の子】
「どうしてって……」

//SE:【ガヤガヤ】

ふたりして戸惑っているその様子に、だんだん教室がざわつき出す。

【綾小路】
//表記【???】
「みなさん、静粛に」

と、その一声でまわりが静まる。

声の主は、綾小路絵麗奈(あやのこうじ えれいな)。
このクラスの風紀委員にして、大手メーカーの社長令嬢である。

何の会社かまでは、忘れてしまったが。

【綾小路】
「先生、まずはこちらを」

そう言って女の子に化粧用鏡を向ける。

【先生】
//表記【女の子】
「ええええ!?
…………なるほど、そういうことね……なるほど……」

やがて落ち着きを取り戻した女の子は、教壇へ上がった。
顔だけが、教卓からぴょこっと飛び出ている。

【先生】
//表記【女の子】
「こほん、みなさんおちついてください。
せんせいはせんせいです」

【先生】
「ひびのあんちえいじんぐがみをむすびすぎて、ここまで
わかくなりましたが、こころはいつものせんせいとおんなじです」

【先生】
「みなさんはみためでひとをはんだんするのですか? いいえ、
こころのめをひらければ、おのずとこたえはみえてくるはずです」

【綾小路】
「その通り! さすがわたくしたちの先生ですわ!」

【先生】
「あやのこうじさん! わかってくれるのね!」

【綾小路】
「当然ですわ! 先生の思い、しかと受け止めましたの!」

綾小路さんが、全員に向き直る。

【綾小路】
「みなさん! 先生がどんなお姿であろうと、
わたくしたちの尊敬するお方であることに変わりはありません! ですから–—」

その後、風紀委員のムダに高らかな演説がしばらく続いたのだった。

//ボランティア部・部室(昼)

【愛子】
「って感じで、めちゃめちゃだったんですから!」

【まゆり】
「あらあら〜、それは災難だったわねぇ」

【美晴】
「まとめるというより捻じ伏せる、か。
風紀委員会の名折れだな……」

僕と愛子の所属するボランティア部で、彼女の話を聞くのは
部長の渡会まゆり(わたらい まゆり)先輩。

そして副部長の武美晴(たけ みはる)だ。

【まゆり】
「それじゃ、ちょっと失礼♪」

【愛子】
「ちょっと、先輩!? やぁっ、あん」

//SE:【ふにふに】

【愛子】
「む、胸のことはいいですからあ! ひゃぅ」

【まゆり】
「大丈夫よ、気にするほどじゃないわ」

【愛子】
「それは、先輩から見ればそうでしょうけど……!」

愛子がまゆり先輩を羨まし……もとい、恨めしそうに見つめる。

【美晴】
「で、その女の子は何者だったんだ?」

【愛子】
「わからない……あの後綾小路さんが取りまとめちゃって」

というよりも、
埒が明かずホームルームは強制解散という感じだったが。

【美晴】
「ふむ……関連性があればと思ったのだが、
しばらく様子見が必要か」

【翔太】
「美晴、関連性……それに様子見って?」

【まゆり】
「実はねえ、ボラ部のHPにある依頼フォームに
不思議なメールが殺到してるの」

【愛子】
「え、なんですか? それ」

美晴がノートPCを見せながら答える。
受信フォルダは今日来たメールでいっぱいだ。

【美晴】
「身長や胸囲に著しく変化があったから原因を調べてほしいとか、
その解消によく効く健康法を教えてほしいとか、そういった類いだ」

【美晴】
「どれも女子学生からの依頼だな。天宮や例の女の子の話と、
無関係には思えない」

【翔太】
「それにしても、うちの部を何だと思ってるんだ……」

【美晴】
「それは同感だが、他に持ちかけられるような組織がないのも
確かだし、そこに我々が目をつけている点も否めない」

【美晴】
「清濁併せ吞むことができなければ、
私たちが学園で活動を続けることもままならないんだ」

このボランティア部、普段は資源回収や児童館での読み聞かせなど
至って真っ当な活動をしているが、それだけではない。

図書だよりのゴーストライターや、舞台公演のサクラなど、
あまり大っぴらにはできない依頼も請け負っている。

つまりボランティア活動の名の下、密かに多方面へ恩を売ることで
廃部の話に目をつむらせているのだ。

そもそも部員があと一人いれば、こんなことをせずに済むのだが。

【美晴】
「何にせよ依頼者が多い以上、ボラ部の地位を確立する
またとない機会にできる。乗らない理由はないだろう」

【まゆり】
「それに面白そうだものね。いいんじゃないかしら?」

この部は、まゆり先輩の明るく前向きな人柄と
美晴の頭の回転の速さでうまく回っていると、つくづく思う。

さしずめボランティア部の心臓と頭脳といったところか。

【美晴】
「さて、ふたりはどうだ?」

【愛子】
「学園で起きたことだもん、ほっとけないよ」

【翔太】
「そうだな。見事解決とまではいかなくとも、
明らかにできることがあれば、みんなの役には立てる」

【まゆり】
「わたしたちひとりの力は小さくても、協力すればきっと前進できるわ。
『だからみんなでやってみよう』よね?」

ボラ部の部訓となっているフレーズを口にするまゆり先輩に、
3人で頷く。

とりあえず、明日から各クラスの女子学生たちの様子を観察する。
そう方針を定め、その日は解散した。

//BG:教室(昼)

次の日。
2年C組から、ほとんどの女子学生が消えた。

いや、正確に言えば、彼女らの席には小さな女の子が座っている。
どこから来たのだろう、これを学生と呼んでよいものだろうか。

ガヤガヤとおしゃべりしている子どもたちを見かねた愛子が
声を荒らげる。

【愛子】
「ちょっと君たち! ここは小学校じゃないの!
ふざけてないで、帰ってちょうだい!」

//SE:【ドア】

【先生】
「あまみやさん、いまのはききずてならないわ。
せんせいがきのうはなしたことをわすれたの?」

【愛子】
「あ! 昨日の子!」

【綾小路】
「先生の言う通りですわ!
あなた、クラスの仲間に対して失礼でなくって!?」

【愛子】
「綾小路さんまで……!」

//SE:【ガヤガヤ】

“小学生ってひどくない?”
“いつの間にか縮んでただけなのに”
周りからも声が上がり出し、ますます収拾がつかなくなる。

【翔太】
「っていうか、何で綾小路さんに限って居るんだ?」

【先生】
「もういいから、にっちょくさんあいさつして。
あまみやさんはせきにもどる」

【愛子】
「しょ、翔ちゃん……」

追い返された愛子が助けを求めてくる。

【翔太】
「僕が愛子だったら同じことをしているよ。間違っちゃいないさ」

【愛子】
「そっか……ありがとね」

【翔太】
「それにそのおかげで、ひとつの可能性が見えた。
女の子がたくさん増えた理由のね」

【愛子】
「翔ちゃん、なにかわかったの?」

【翔太】
「可能性だけど。
先輩たちにも共有したい、昼休みに一度集まろう」

//BG:黒

昼休み、ボラ部のメンバーを部室に集めた。

//スチル:『部室で会議』(机に座り向き合う4人のカット)

【美晴】
「緊急会議と呼ばれてやって来たが、話とはなんだ?」

【翔太】
「ああ。先輩たちも食事をしながらでいいので、聞いてください。
実は昨日からの件について、僕なりの仮説を立ててみたんです」

【まゆり】
「あらあら〜、愛子ちゃんのお弁当、彩りがとっても素敵ねぇ」

【愛子】
「先輩のはすっごく美味しそうです! おかず交換しませんか?」

【美晴】
「……必要とあらば私が後でまとめよう。続けてくれ」

【翔太】
「まず着目したのは、昨朝に駅前で配られた試供品です」

僕の考えとしてはこうだ。

缶飲料が配られたのも、ボラ部に依頼を寄越してきたのも、
2年C組で異変があったのも、全て女子生学生。

あの『プリンセス・ティニィ』とかいうドリンクが彼女らの身体に
影響を及ぼしたのではないか。

【まゆり】
「その影響、って?」

【翔太】
「ずばり、『幼女化』です」

【美晴】
「けほっ!」

美晴がむせた。
笑わせるつもりはなかったので恥ずかしい。

【美晴】
「近堂! 他に言い方はないのか!」

【翔太】
「その、別に大した意味は……」

【まゆり】
「でも、そんなことが可能なのかしら?」

【まゆり】
「突然身体が小さくなるなんて、
どこかの推理小説みたい」

【翔太】
「先輩、あれは漫画です」

どこか抜けてるのは、まゆり先輩らしいけど。

【美晴】
「あの試供品だが、製造販売しているのは製薬会社なのだろう?
どんな効果や作用があるのか見当もつかないが、科学の発達はすさまじいからな」

【愛子】
「じゃあ、ありえない話じゃない……のかな」

【まゆり】
「『幼女化』ねぇ。でも、それなら話のつじつまが合うわ」

依頼にあった、身長などに急な変化が見られたというのは、
幼女化が進行していたため。

クラスにいた女の子も、全てドリンクを飲んだクラスメートたち。
先生に関しては飲み過ぎで即日に効果が出たのだろう。

【美晴】
「ふむ、やはりそう考えるほかないか」

【翔太】
「やはり、って?」

【美晴】
「いやなに、今朝から各クラスを回って見ていたのだが、
どこも似たような状況だった。うちの2年A組も含めてな」

【美晴】
「その試供品によって体が小さくなったのだろう……」

さすがの行動力だ。おかげで仮説の信憑性も高まった。

【愛子】
「あっ、あの……あたしも少し飲んじゃったけど……どうなるのかな」

昨日、愛子が一口飲んでいた光景を思い出す。

【翔太】
「……0.5センチか」

【愛子】
「じろり」

しまった。

【愛子】
「……っこのー! バカ翔ちゃーん!」

愛子が水筒をこちらへ振りかぶっている……!
あんなステンレスで殴られてはひとたまりもない!

【翔太】
「わわっ! 違うんだ!
愛子に大きな異変がなくてよかったと思って!」

【愛子】
「ふん! どーせ縮んでもわかんないですよーだ!」

【翔太】
「いやいや、愛子を心配したんだって!
ごめんよ、帰りにクレープおごるから!」

【愛子】
「ん……そんなに言うなら、食べてあげてもいいけど……」

助かった……。スイーツの力は偉大だ。

【美晴】
「……何をやっとるんだか」

【まゆり】
「さながら夫婦漫才ね〜」

【愛子】
「えっ、あたしと翔ちゃんが夫婦……?」

また収集がつかなくなりそうなので、慌てて本題に戻す。

【翔太】
「と、ところで先輩は、ドリンクもらわなかったんですか?」

【まゆり】
「昨日は、朝にシャワーを浴びていたら少し遅れちゃって……
あ、チャイムには間に合ったわよ」

【まゆり】
「慌てて走ってきたから、ちょっと汗かいちゃったけど。
せっかく綺麗にしたのにね」

シャワー後の髪を濡らし、なおかつ汗をわずかに滴らせ、
愛子も羨ましがるほどの身体を揺らしながら走る姿を想像する……。

【翔太】
「み、美晴はどうだった?」

【美晴】
「何を動揺している……。
私が来た時間には、まだ配っていなかったぞ」

部長と副部長、両極端なツートップだ。

【美晴】
「ともかく、まずは仮説の検証が必要だな」

【まゆり】
「小さくなった女の子たちに試供品をもらったか尋ねて回るのね」

【美晴】
「いえ、最初は逆から行きましょう。その方が効率的です」

【翔太】
「ドリンクを飲んでいない人、イコール異変のない人を
当たっていくわけだ」

【美晴】
「ああ、手始めにC組の綾小路はどうだろう。
話を聞くに、天宮への態度が実にいけ好かない」

【愛子】
「美晴ちゃん! ケンカしに行くんじゃないよ!?」

【美晴】
「わかっている、半分冗談だよ。
同学年だから話も聞きやすいだろうってだけだ」

残り5割が本気って結構危ないぞ。

【翔太】
「それじゃあ早速行こう。まだ教室にいるはずだ」

【美晴】
「いや。訳あって、直接乗り込もうと思う。いいだろうか」

【愛子】
「乗り込むって、おうちにお邪魔するってこと?」

【まゆり】
「見たことあるわ、立派なお宅よねえ」

【愛子】
「美晴ちゃん、あたしのことはほんとに大丈夫だからね」

【美晴】
「ケンカはしないと言った通りだ。
だからふたりは、それまで彼女に迂闊な行動を見せないでおいてほしい」

美晴の言う『訳』とやらが気になるが、何か目的があってのことだろう。
彼女を信頼できる以上、異論はない。

それは愛子もまゆり先輩も同じのようだ。

【美晴】
「部長もありがとうございます。では近堂、締めてくれ」

そうか、3人を招集したのは自分だった。

【翔太】
「では放課後、部室に集合。そこから全員で現地へ向かいます。
質問がなければ、これで解散です」

【愛子】
「翔ちゃん、お弁当食べた?」

【翔太】
「あっ」

その後、教室で小さくなったクラスメートに笑われながら、
授業の合間に慌ててかき込んだ。

//BG:綾小路家・門あり(夕方)

というわけで、ボラ部全員で綾小路さんの邸宅へやって来た。
門の奥には広い庭とお屋敷が見える。

【愛子】
「おっきいねー。あたしこういうおうち初めて見たよ」

【翔太】
「ええと、チャイムチャイム……」

そもそも、呼び鈴とかあるのか? まずあるよなあ。

【綾小路】
//表記【???】
「あら、ボランティア部のみなさん。いかがなさいましたの?」

突然、上方から声がする。門の上に付いているスピーカーからだ。
声の主は、綾小路さんで間違いないだろう。

まゆり先輩が、挨拶に出る。

【まゆり】
「こんにちは、ボランティア部部長の渡会です。
2年C組の……ええと、袋小路さん……だったかしら」

【綾小路】
「綾小路ですわ! そこで間違えますこと!?」

らしいと言えばらしいのだが、わざとじゃないからその実タチは悪い。

【まゆり】
「えっと、ごめんなさい!? 少し、お訊きしたいことがあって」

【綾小路】
「まあいいですわ……。この綾小路絵麗奈、
みなさまを歓迎いたします。どうぞ、お入りあそばせ」

//SE:【門開閉音】

彼女がそう言うと、重い音を鳴らしながら、門が開いた。

//BG:綾小路家・門なし差分(夕方)

門をくぐり庭を進むと、お屋敷の中から綾小路さんが現れた。

【綾小路】
「ごきげんよう。それで、本日はどのように?」

【美晴】
「出迎えご苦労。ボランティア部で2年A組の武だ。
早速で悪いが、こいつについて訊きたいことがある」

そう言って、美晴は空き缶を取り出す。
昨日駅前で配られていた試供品だ。

【美晴】
「たまたまゴミ箱から見つけたんだがな、ここの『製造者』にある
AK製薬ってのは、君のお父上の会社か」

【翔太】
「……思い出した。綾小路さんの家こそAK製薬だったんだ」

美晴の質問を受け、綾小路さんの目の色が変わる。

【綾小路】
「ふふ……ふふふふ」

【綾小路】
「おーっほっほっほ! おーっほっほっほっほ!!
さすがよ、さすがでしてよボランティア部!」

【綾小路】
「それ、わたくしがお父様に頼んで作ってもらいましたの。
『プリンセス・ティニィ』気に入っていただけました?」

【翔太】
「そんな! まさか綾小路さんが事件の黒幕だったなんて……!」

【愛子】
「もしかして美晴ちゃん、このことに気づいていたから……」

【美晴】
「え? いや……AK製薬の社長に直接話を聞けたらと思ってな、
調査のついでに取り計らってもらおうと考えただけなんだが……」

【美晴】
「綾小路、お前がやったのか?」

【綾小路】
「へ?」

//SE:【木魚とお鈴】

……………………。

【綾小路】
「ばれてしまっては仕方ありませんわ!
あなた方を生きて帰すわけにはまいりません!」

//SE:【バリケード】

突然、背後から地響きとともにガシャンという音がした。
見ると、鉄の壁が門の前に立ち塞がっている。

自白しておいてなんて仕打ちだ。

【美晴】
「お、おい! どういうつもりだ!」

【綾小路】
「わめいたってムダですわ。
あのバリケードは、ハムスター1匹逃がしませんことよ」

綾小路さんに視線を戻すと、いつの間にか銃を手にしている。

【翔太】
「あれは……ビームガン?」

【綾小路】
「ではまず、クラスメートのよしみで
あなたから狙って差し上げますわ」

銃口が愛子へと向けられる。

【美晴】
「待て! 早まるな! 綾小路!」

//SE:【ビームガン】

僕らに庇う隙も与えず、銃のトリガーが引かれた。

【愛子】
「きゃあああああああ!?」

次の瞬間、僕らはそこに愛子の姿を見ることはなく——

【美晴】
「綾小路! 貴様なんてことを…………おや?」

//愛子立ち絵 幼女差分

代わりに小さな女の子の姿が見られた。

が、よく見れば愛子だよな……小さくなった……。
前に見せてもらったアルバムの中の少女そのものだ。

【愛子】
「あれ? あたし、しんでない……」

【愛子】
「あ! ひょっとして…………またちぢんでる〜!」

【美晴】
「もう一度問う、どういうつもりだ……」

【綾小路】
「おーっほっほっほ! これぞ研究に研究を重ねて生み出された
ローレウスA−07の威力ですわ! お味はいかが?」

あのドリンクの成分を凝縮しているようだ。
とんでもないバイオ兵器じゃないか。

【まゆり】
「あらいいわねぇ! 可愛いわよ愛子ちゃん」

【翔太】
「先輩?」

【愛子】
「せんぱーい、どうしよう~」

【まゆり】
「心配ないわ、わたしが面倒見てあげる。
一緒におゆうぎしましょう?」

やはりマイペースだ。
何事にも動じない強みは、諸刃の剣となるのだと知った。

【綾小路】
「そんなに一緒がいいのなら……
次は、あなたにいたしますわよ」

綾小路さんがビームガンをまゆり先輩に向ける。

【美晴】
「部長! 危ないっ!」

//SE:【ビームガン】

光線が放たれた瞬間、とっさに美晴が盾となった。

そして——

【美晴】
「こ、これは……」

いつもの美晴だ。効き目に個人差があるのか?

【綾小路】
「威力が足りませんわね。心身ともに老けていらっしゃるのかしら」

【美晴】
「なんだとー! んなわけあるかー!」

気にしてたのか……。

【美晴】
「もう一度やってみろ」

【綾小路】
「いいですわよ」

//SE:【ビームガン】

そう言って、長めに光線を浴びる美晴。
世も末だ……。

//SE:【ファンファーレ】

【美晴】
「どうだあやのこうじ! まだまだわたしもげんえきだ!」

【まゆり】
「まあ、可愛い美晴ちゃん。よしよ〜し」

愛子を抱いたまゆり先輩が、美晴少女の頭をなでる。

【美晴】
「ぶ、ぶちょうっ! そうやさしくふれられると……
いやがおうでも……ねむって…………むにゃむにゃ」

我が陣の砦が決壊した。

本丸のまゆり先輩は言わずもがな。
となると、もう僕しか残されていない……!

【綾小路】
「さあ、あとはあなただけですわね」

ビームガンを構えながら、綾小路さんは言い放った。

【翔太】
「綾小路さん……どうしてこんなことを……!」

【綾小路】
「……いいでしょう。冥土の土産に教えて差し上げますわ」

殺されるとまでは思っていないが、聞こう。

【綾小路】
「これは、わたくしからこの世界への復讐なのですわ」

「……復讐?」

【綾小路】
「人はみな、歳を重ねれば身も心も成熟し、魅力的な大人になれる。
ずっとそう思っていましたし、それに憧れておりましたわ」

【綾小路】
「けれど世界は、わたくしが大人になることを許さなかった。
周りの女の子が女性になってゆくのを、眺めているだけでした」

【綾小路】
「そのせいで思いを寄せる殿方にまで無下にされる始末。
わたくしの心を届けることすら、ままならなかったのです」

…………なるほど。

【翔太】
「えーと……要は童顔なのがコンプレックスと」

【綾小路】
「わたくしの苦悩を要約しないでくださる!?」

【翔太】
「うーん、可愛らしいと思うんだけどなぁ」

【綾小路】
「はっ、箱入りだからって、からかわないでちょうだい!」

本音なのだけれど。

【綾小路】
「で、ですから! この世界の全ての女性に
わたくしと同じ苦しみを味わっていただきますの!」

【翔太】
「だから、女子学生に狙いを定め、
あのドリンクを配っていたということか」

【綾小路】
「ええ。そしてわたくしが世界一オトナな女になってみせるのですわ!」

とどのつまり、全世界の幼女化……。
一部賛同の声も聞こえそうだが、なんて企みだ。

【翔太】
「……そんなの違う」

【綾小路】
「ふん! あなたが何をおっしゃってもムダですわよ?」

【翔太】
「違う……そんなの君のやり方じゃない」

【綾小路】
「なんですって……?」

【翔太】
「自分から行動を起こせるのが、君の取り柄なのに。
他人を変えて満足するなんて、らしくないよ!」

【翔太】
「今朝や昨日のHRだって、率先してクラスをまとめようと
していたじゃないか! 自ら進んで!」

【綾小路】
「あれは……騒ぎを起こされては面倒でしたから……」

そんなこと、わかっている。
でも、クラスメートとして綾小路さんが普段から頑張っていることだって知っている。

【翔太】
「本当に大人になりたければ、自分から変わろうとしなきゃ!
綾小路さんなら、それができるはずだ!」

【綾小路】
「も、もちろん努力はしましたわ!
でもわたくしには無理でしたの……」

【綾小路】
「今回だって、お父様のお力がなければ……何も……
所詮わたくしひとりでは、何もできませんわ……」

【翔太】
「君はひとりじゃない! 僕らがついているから!」

【綾小路】
「近堂、さん……?」

【翔太】
「困っている人を助けるのが、僕らボランティア部の役目だ」

【翔太】
「ひとりの力は小さくても、協力すればきっとできる。
『だからみんなでやってみよう』これがボランティア部なんだ」

【翔太】
「みんなで変わろう! そして本当の大人になろうよ!」

【綾小路】
「近堂さん、それにみなさん……!」

綾小路さんが遠くを見つめる。
その視線の先には——

【まゆり】
「むーすーんーでー、ひーらーいーてー」

【愛子】
「てーをーうってー、むーすんでー」

【美晴】
「すぅ……すぅ……」

【翔太】
「聞けええええ!!」

【まゆり】
「近堂くん! めっ。
美晴ちゃんが起きちゃうでしょ」

【翔太】
「人が懸命に説得してるんです! そこは見守ってください!」

【綾小路】
「ふふ……わたくしをこうも蔑ろにできるとは……もう結構でしてよ」

【翔太】
「ちっ、違うんだ! これはボラ部の雰囲気を知ってもらう上での」

【綾小路】
「もう心は揺らぎませんわ! 近堂さん、ここでお果てなさい!」

【翔太】
「頼む! 僕はどうなってもいい! だから——」

//SE:【ビームガン】

言い終わらないうちに、眩しい光に包まれる。

僕は、ここで終わってしまうのか……。
短くも、楽しい人生だった……。

……たぶん死なないけど。

//演出:白フラッシュ

……………………。

……? ん?

ここは、さきほどまでいたばしょだ。

なにがおこったんだ? いまいちおもいだせない。

みると、あやのこうじさんがこちらをみて
くちをぽかーんとあけている。

そうだった、こうしちゃいられない。

【翔太】
「あやのこうじさん! ぼくはどうなってもいい!
だから、みんなをもとにもどしてくれ!」

【綾小路】
「な、なんて尊き姿……」

【翔太】
「たのむ! ぼくからのおねがいだ!」

【綾小路】
「……きゅん。……きゅんきゅん」

【翔太】
「えれいなっ!」

【綾小路】
「はい……、仰せのままに……」

「よかった、とにかくせっとくをきいてくれたみたいだ」

【まゆり】
「あらあら。心揺らいで、ここにあらずって感じね。
これも説得の形、なのかしら」

まゆりせんぱいが、となりにかがんでそういった。

……かがむ?

……そうか、そういう。

たしかにどうなってもいいとはいったけど……。
こまったな。

【まゆり】
「でも、ひとまずは一件落着よ。翔太くん♪」

【まゆり】
「だいじょうぶ。子どもは成長するもの、すぐに戻るわ。
それとも、このままがいいかしら?」

そういって、ぼくをだきかかえる。

【翔太】
「わっ、せんぱい……」

こどものほんのうか、せんぱいのうでのなかにうずまり、
そのままみをゆだねてしまった。

【まゆり】
「うふふっ、可愛い」

せんぱいのぬくもりとやわらかさをじかにかんじていると
このままでももわるくないな、そうおもえるのだった……。

//BG:黒

あの一件から一週間が過ぎた。
効き目は一日で切れ、全員元の姿に戻ったのはともかく–—

//BG:ボランティア部・部室(昼)
//SE:【ドア】

【綾小路】
「あらお二人とも、遅かったのね」

ボランティア部に新入部員が増えた。いや、侵入部員か。

【愛子】
「絵麗奈さん、早くない!? 同じクラスだよね」

【綾小路】
「時間前の集合など“大人として”当然のマナーでしてよ?」

しかも随分と張り切っている。

僕らがついているとは言ったが、こう解釈したらしい。
廃部を免れたからよしとするか。もうきな臭い仕事をせずに済む。

【翔太】
「大人として、か。ところで綾小路さん」

【翔太】
「大人になるって決めたきっかけになった男性って、
どんな人だったの?」

【愛子】
「なになに? 絵麗奈さんの恋愛談!?」

【綾小路】
「まぁ、わたくしに興味を持っていただけるなんて」

【翔太】
「あれは昨年のこと……学園附属の幼稚園、
園庭でサッカーをする青色帽の彼……」

【愛子】
「え、それって……」

【翔太】
「ちなみにだけど、その子に無下にされたのは……?」

【綾小路】
「園内へお邪魔し、告白しましたが、それよりサッカーに夢中。
初心で未熟なわたくしは、取り付く島もありませんでしたわ」

【愛子】
「……」

それは、無下にされたというべきなのだろうか。
まさか相手は恋愛感情も知らない幼稚園児だったとは。

【綾小路】
「ですが構いませんの、わたくしには
新たな君がおりますもの」

【綾小路】
「というわけでさあ近堂さん! 早速これをお飲みなさい」

あれは確か、プリンセス・ティニィ。
もう止めると約束したはず……。

【翔太】
「……というわけでって、そういうこと?」

【愛子】
「だめっ、翔ちゃん、それ飲んじゃだめ!
ぬけがけなんて、認めないよ……!」

【綾小路】
「おどきなさい、無垢な少年の美しさを捨て置くことなんて、
誰にも許されなくってよ!?」

//SE:【ドア】

【美晴】
「おいおい、やけに楽しそうだなぁ。
私たちも混ぜてもらおうか、なあ綾小路?」

と、そこに美晴が現れる。後ろにはまゆり先輩も。

【綾小路】
「あ、あら武さん! ごごっ、ごきげんよう」

【美晴】
「やあ、ごきげんよう。また何か企んでいるんじゃないだろうな」

【綾小路】
「とんでもございません!
わたくし、みなさんと早く馴染みたいだけでしてよっ」

【まゆり】
「ふふ、またにぎやかになったわね。
綾小路さんがうちに来てくれてよかったわ」

【まゆり】
「じゃあ、始めるわね。今週末の市民球技大会での
運営補助についてだけど――」

今回の一件を通して、いつもの日常が少し賑やかなものになる。
そして、それもやがて、いつもの日常の中に溶け込んでいく。

僕には、仲間とのそんな日々がたまらなく愛おしい。
愛子と、美晴と、まゆり先輩と、それに絵麗奈との時間が。

【愛子】
「翔ちゃん」

【愛子】
「今度はどんなことが起こるのかな? ワクワクするね」

僕らの思い出を彩る日々は、まだまだ終わらない――

//END

ありがとうございます、おいしいチーズを買います。