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「あんぎお日記」(1991年12月16日)

十二月十六日(月)
 II嬢より小包が届く。スイスからの日本語の本。
『飛ぶ夢をしばらくみない』(山田太一)
『ピカソ 偽りの伝説』(A・S・ハリフィントン)
彼女と私の継続する共犯関係。

午前中の二、三時間で『飛ぶ夢~』を読了。山田太一面白かった。すべての年代の女性を具現する一個の身体であるK嬢のことを考える。私にはコントロール不能な(彼女の? 私たちの?)運命の力は自分の意志の連続性をずたずたに切り裂く。
 原形を想像させない乱れきったかたちの唇。
 刻々と正常な比率【プロポーション】を目指す私の顔。昨日今日と鼻の中に詰められたガーゼを減らしてはいない。明日になれば左の鼻の穴に詰められているバルーンは取れるという。
 手術から帰るとこの日記を書くのに使っている筆ペンの先がバラバラになっている。私の状態を反映したかのように。
 N兄からの荷物も届く。尾崎放哉やイゾワール。

紫陽花色の
空にまみれて
寝ている
点滴のつづく

 九時半から五時半までかかった手術。時間だけみれば公務員的な八時間労働というわけだ。
一週間歯を磨かない実験。


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