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DIYキーボードは実質プロト”タイピング“である

文字打ちも製品開発もビジョンを外在化する行為、
どちらも”タイピング”が必要でしょう。

プロトタイピング研究を進めていく中で、社会の変化に合わせてプロトタイピングの領域や手法も変化していく必要があると改めて思うようになりました。

特にメーカーが開発中に作成するプロトタイプ以外にも「プロトタイピング的な行為」がたくさん見つけられるようになってきています。全てを含めて「プロトタイピング社会」として考えているところです。

その中で出会ったのが「自作(DIY)キーボード」の世界です。

各自が自分の必要としている道具を作り、それを使って何かを生み出すという流れは、作家のペンへのこだわりと言うよりも、職人の世界に近い気がします。

この記事のタイトルは、私が使わせてもらっているPRK Firmwareの作者である@hasumikinさんのプレゼンの中で「DIYキーボードは実質Ruby(@kakutaniさん)」というパワーワードを紹介されているのに刺激を受けて付けさせてもらいました。


民藝とアノニマス

ひとりの優れた作家の作品ではなく、多くの人の声と作業によって作り上げられたものの中に調和的な美があると言う民藝の考え方は、現在のオープンなソフトウェアコミュニティの中にも生きていると思います。機能性または安全性、継続性の点で絶えずブラッシュアップしていくことができるからです。

プロトタイピング研究で特に大きな変化を感じたのが、この社会全体の中でおこなわれるプロトタイピング的な最適化と改善活動です。

多くの個別要求を受け入れつつ、一つのスタイルができあがっていき民藝の美が作られているように、一人の作家の作品や1つのメーカーの製品では無いことは大きな意味があります。

もちろん一番初めに皆が改善していく気持ちになるだけの魅力的な原型が必要ですが、その後はコミュニティによって磨かれアノニマス(無名の)になっていきます。


作って、使って、改善する。

自作キーボードの中にこの民藝的な世界とオープンソースソフトウェアを合わせたような感じをもっています。

大きなメーカーが大量生産で製品を作った場合には、その後の修正コストは大きくなり、通常年単位の時間と多くの費用が必要です。

逆に考えると、改善に要するリードタイムを短くしていくためには、大量生産から少量生産に向かうのが一番です。その一つのビジネスモデルが民藝であり、究極のカタチがユーザー自身が作る自作キーボードなのではないでしょうか。

メーカーのプロトタイピングでは仮の利用状況で検証することが多く機能検証だけであれば有効だったのですが、ユーザーの体験を検証するためには実用と改善を繰り返すことができることが重要になってきています。


コミュニティとファームウェアが民藝的プロトタイピング環境を作る

これまで自分に合ったキーボードを作ると言っても、これまでは特別なエンジニア以外は現実的ではありませんでしたが、ここ数年の多くの方の貢献によって急激に誰でも自作キーボードが作れる環境ができてきました。

まだ新参者ですので全ての動きを把握できていませんが、GitHubにファームウェアが公開され、利用させてもらえるだけでなくコミュニティとの繋がりを持つことができるのが素晴らしいと思いました。

私が使わせてもらっているPRK Firmwarはマイコン上のRubyファイルを書き換えるだけでキーボードの設定が変更でき、何度でも直ぐに動作を確認できる素晴らしい環境です。

やり直しが速いだけでなく、PRK Firmwarは最初の準備も非常に簡単にです。

①ファームウェアの.uf2ファイルをエクスプローラーでRaspberryPi Picoのドライブにドロップ

②自動で再起動してPRK Firmwarの状態になったらkeymap.rbファイルを作ってドロップ

.rbファイルをメモ帳に紐づけており以降はRaspberryPi Pico内のファイルを直接編集しています

私はプログラミングのスキルが無くその面では貢献できないのですが、実際にキーボードを作ることとそれを伝えることをしていきたいと考えています。


プロトタイピングにDIYキーボード環境を使う

先日の記事にも書きましたが、AdobeXDを組み合わせることで物理的なキー操作やダイヤル操作でGUIをコントロールする製品のプロトタイプを簡単に作ることができます。

プロトタイピング的なDIYキーボードの技術を使って、いわゆるプロトタイピングをとてもスムーズにおこなうことができるのです。これはDIYキーボードの中にプロトタイピング的な本質が含まれている証拠になるものです。

簡単に速く作れることで、その後のデザインに時間を掛けることができるようになります。簡易的なプロトで30分、より製品に近いプロトでも1日で作れることができます。

参考として私の自作キーボードの簡易プロトの写真を載せておきます。作成方法がメソッド化されているため迷うことなく作れるようになっています。

表面からみた形状は下に写真があります

スチレンボードにΦ6.5mmドリルで穴をあけ、丸形スイッチを埋め込んで背面からZHコネクタを指すことで操作側は完成です。写真の例ではロータリーエンコーダーも取り付けてあります。

あとはRaspberryPi Picoに取り付けたピンヘッダに2.54mmのコネクタを指すだけです。30分でプロトタイピングができるのをイメージしてもらえたでしょうか。


AdobeXDのキーアサインはこれだけ

ハードウェア操作で直接機能するソフトウェアを作っても良いのですが、ソフトウェアのプロトタイプもAdobeXDを使えば簡単にDIYキーボードと連携させることができます。

AdobeXDのキーアサインの設定はインタラクションのトリガーで「キーゲームパッド」を選び、その下で実際に操作するキーを押せば登録されます。


タッチ操作に負けないぞ! キーボード愛

これらのプロトタイピング技術はこれからも重要なものとなっていきます。

世の中はタッチ操作が大きな勢力になっていますが、ちょっと周りを見渡せば様々なフィジカルUIデバイスが活躍しています。自動車の例で見てみましょう。

完全自動運転までの過渡期として、通常の運転操作に加えてクルマとのコミュニケーションが増えています。それをコントロールするのにVoiceUIなどが研究されていますが、キーとダイヤルを使ったマルチコントローラーも重要なデバイスになっています。

自動車と同じように、現場での活動中の操作ではこれからもこのような操作デバイスの研究がおこなわれ、特にAIとの協調による電動化ではユーザーの要求を機器に伝える手段が必要です。

PCキーボードとキー操作デバイスを大切にして、より良い世界を作っていきましょう!


まずはプロトタイピング

いろいろ語ってしまいましたが、実践も忘れてはいません。

さっそく自作キーボードのプロトタイプを作りました。一つはスマホ用の小型キーボードで、もう一つはタブレットPCでイラストアプリをコントロールするためのマクロボードです。

マクロボードの方はこのままでも実際に動作させることができます。動作を確認して良さそうなので、次は最終形態に近づけるために3Dプリンターで造形していきます。

時間を見つけては3Dプリンターでパーツを作成中です。じっくり楽しみたい気持ちと、早く完成させて使ってみたい気持ちが入り混じっていますが、また完成したら自作キーボードコミュニティに投稿したいと思います。

スマホ用ミニキーボードはキーアサインをいろいろ設定するのが楽しそうなので、まずは基板を組んだ
事前に動作確認ができているので安心してタブレットへの取り付けギミックなどに凝れる


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