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ゴハンの味とフィルムシミュレーション

富士フイルムのフィルムシミュレーションは違いが微妙過ぎて一枚の作品を見ただけでは言い当てることは難しいのですが、同じシーンを撮影し比較するときちんと違いに気づくことができます。

これは何かに似ているなと思いました「ゴハン」です。コシヒカリやササニシキなど色々な地域で、その土地の風土や水だけでなく品種改良の結果できてきたお米ですが、美味しく炊かれたゴハンを食べて、明確に品種を言える人は少ないと思います。

何よりも味や食感はゴハンを炊く部分の影響が大きく、オコゲができたり、芯が残ってしまったり、べちゃべちゃになったりといった大きな失敗から、火加減ひとつ、蒸し時間一つが影響して変わってしまいます。

撮影に置き換えれば、露出やホワイトバランスの影響の方がよっぽど大きいのと同じです。

マイコンで制御された高性能な炊飯器が開発され、ゴハンの炊き方が安定してくると、こんどはお米の種類によって味わいが変わることが体験できるようになってきました。ちょっと贅沢なお米を買って炊けば、それに応じた味わいを感じることができるのです。

フィルムシミュレーションも、しっかりと露出やホワイトバランスを決めて、明暗のトーンを画面の中に配置することで初めて、その個性が見えてくるのと似ていいます。


デジタルカメラがフィルムの味わいを再認識させてくれる

ゴハンと同じように、私たちはデジタルカメラによって複数の画作り(フィルムシミュレーション)の違いを認識できる環境を手に入れました。

あからさまに比較することを撮影の目的にするのではなく、映像の空気感として自然に好きなフィルムに出会う体験にも意味があることですが、ワインや日本酒の利き酒のように、それを見つけ出す過程をデジタルならではの体験として楽しむことは価値のあることだと思っています。

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10/25に発売される富士フイルムのX-A7には、セパレーターをタッチ操作で左右に動かしながら2つのフィルムの比較ができるUIが搭載されており、これまでミラーレス機が撮影設定がファインダーにそのまま表示できるという特性をさらに一歩進めるものになっています。


微妙な違いこそ自己表現できる

赤か青か緑か、飛行機か自動車か鉄道かなど、はっきりとした違いを選択することは個性や自己表現というよりも、同類を見つけるための仲間探しのようなもので社会的な表現といえます。

それに対して、色やゴハンのわずかな違いを選択することは、社会的な仲間を作る行為ではなく、個人的な感性や他者との違いを認識するための個人的な表現です。

日本人はこのような微妙な違いに意識を向けてきました。それは島国ゆえに異文化との交流が穏やかになり、社会的な同一性を前提として個性の部分で自己表現と他者共感をしてきたからかもしれません。


一時期、外国の方が秋葉原で高額な炊飯器を爆買いする様子が報道されていましたが、世界が豊かになり文化が進んでいく中で、日本の細やかな味や表現が受け入れ初めているのかもしれないと考えたことがあります。

例えば海外の絵画は印象派とか様式そのものを作り出すことが表現になっているのに対して、日本では決まった様式の中で表現を先鋭化していくところがあって、どちらが良いということではありませんが、大胆に作風を切り替えるフィルター系の機能よりも、フィルムシミュレーション的な微細な違いにこだわる方がこれからは面白いんじゃないかと感じている訳です。

そんなこんなでカメラの絵作りの世界がこれからどのように進んでいくのか、また先に紹介したX-A7のフィルムシミュレータUIがどのように受け入れられていくのか興味深く見守っていきたいと思います。





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