IoTの本質とデザイン手法 <IoTプロトタイピングツール>
このところの投稿で「IoT」という言葉を安易に使ってしまっており、自分の勉強のために少し整理しておこうと思います。
IoTは「Internet of Things(モノのインターネット)」の略で、モノがインターネットにつながるという意味で使われる言葉ですが、IoTだけではそこから何が起きるのか分かりません。
モノがインターネットにつながった後をどうするのか? 何のためにインターネットにつなげるのかということが抜け落ちてしまっています。
政府資料によるIoTの未来
何年か前に、総務省が「Society 5.0」といコンセプトを提示しました。ここにはIoTを利用して目指すべき社会の姿が描かれています。といっても、Society5.0は連携の枠組みや技術的な例しか書かれていません。
サイバー空間とフィジカル空間の情報が独立した2つの世界から、融合した1つの世界になることで、サイバー空間は飛躍的に成長し、その結果フィジカル空間がインテリジェントなものになっていくというシナリオになっています。
そこでもう一つの資料が参考になります。同じく総務省が取りまとめをしていた「AIネットワーク化が拓く智連社会(WINSウインズ)―第四次産業革命を超えた社会に向けて―」です。これにはもう少し具体的な社会やコミュニティが目指すべき姿が描かれています。
ネットワーク社会によって知識・知能を融合していくことで人類の智慧を作り出すという構想で、その智慧とは、個人の個別最適ではなく全体最適によって結果的に個人もより幸福になるという社会です。そのためには技術的にセキュリティの実現が基盤として大切で、ビッグデータの扱いや安全なAIの実現をどうするかという議論に展開されています。
これらの提言を読むことでIoTが実現する技術や社会のアウトラインが見えてきます。
ここから、医療、モビリティ、余暇、学習、生活、食といったそれぞれの分野に当てはめていくことで、さらに具体的な姿をイメージすることができるようになります。
重要なのは大きな実態を持ったシステム
ここで政治的な意図や国策ということではなく、IoTは本質的に他者とのつながりやシステムというものを前提としており、その単位の一つが自治体や国ということだということです。その規模では法律や行政、社会インフラの視点が不可欠となるため、個人、企業、自治体(国)が連携していかなければIoTが目指す社会は作れないのです。
バーチャルなサイバー空間だけであれば、GAFAと呼ばれる巨大IT企業が圧倒的な力を持っていますが、実体をもったフィジカルな物や空間、生物においては、法律を含めて現在の国や自治体という社会組織がコントロールしているのです。
デジタル技術で作られたサイバー情報空間が、今以上に成長するためには、手動で入力された情報の蓄積だけでは不十分で、フィジカル空間に存在する物事を情報化して、その情報を活用して物事を動かし、さらにそのフィードバックを情報化していく成長サイクルを実現しなければなりません。
これを実現するのがIoTということになります。
それを誰が望んでいるのかは別にして、そこに大きな付加価値があると多くの人たちが考えているのです。
では、これらのビジョン、コンセプト、イメージをどのように実現しデザインしていけば良いのか考えてみます。
大事なのは部分ではなく「全体」、過去ではなく「未来」
Webデザインや、情報機器のデザインは、それぞれ大変な仕事ですが、これまでのプロダクト開発の手法でどうにかデザインすることができています。
しかし実際には、未来につながり、多くのユーザーを惹きつける製品をデザインすることは容易ではありません。これまでの開発手法やプロセスでは十分ではなくなってきています。
多くの要素が緻密に連動し全体を作り出し、その全体が、運にも助けられながら、ユーザーに将来の価値を想像させ、具体的なアクションをおこしてもらう必要があるのです。
これまでの従来型の商品は、歴史的なブランド、品質の実績など過去を見た価値が中心でしたが、これから求められる商品は未来のビジョンを持ち、未来に価値が大きくなることを期待するものになってきています。
使い始めは、小さな機能や部分であっても、その先に広がりと可能性を感じることができなければ、アカウントを作ってくれないのです。
自社だけでは小さすぎる
そのような「全体」を実現するために、オープンイノベーションの旗のもと多くの会社が連携して、これまでよりも多くの価値要素を結び付けようとしています。
中には「自前主義の脱却」などと言って技術が不足や研究開発費の削減のために他社から持ってくるという、技術調達の視点でオープン化を考えているメーカーもあるようですが、それは論外だとしても、
問題は「全体」をデザインする手法が、まだはっきりとしていないことです。会社の上層部が企業間の契約を結んで共同開発することに決めたとしても、それは顧客やユーザーに届ける本当の価値がデザインできたということにはなりません。
企業文化の違う複数の会社が一つのテーブルで、共通の全体デザインをおこない、それに基づいて各社が役割を達成するプロセスが不可欠になります。
その手法の1つとして「IoTプロトタイピング」手法が有効だと考えています。
「IoTプロトタイピング」で全体をデザインし理解する
システムの関係図をパワーポイントでまとめ、各社に役割を分解して、それぞれの開発を開始しても、たぶん良い商品はでてこないと思います。
上流工程で、具体的な製品の姿をプロトタイピングし、体験することで、よりリアルな議論をおこなうことができるようになります。
これまでのプロトタイピングツールは、Webやアプリ、1つの工業製品を作るためのものでしたが、IoTプロトタイピングツールは複数の製品やシステム、サービスを結び付け、ユーザーや社会を含めた関係性と役割をデザインするためのものです。
特に、Society 5.0で重視しているサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)の融合を、どのようにデザインしていくのかがカギになります。
誰でも簡単に、IoTの世界を体験可能なプロトタイプにすることができるツールがあることが、最初の一歩だと考えています。
プロトタイプが目の前にあることで、具体的なコミュニケーションができるようになり、そこからコミュニティができ、より良いプロトタイプが生まれてくると考えていいるからです。
IoTプロトタイピングツールに求められるもの
上流で多くのアイデアを試し捨てていき、多くの経験を積みより精度の高いデザインを完成させていくためには、プロトタイピングツールに「簡単」「速い」「安い」が求められます。
現在、Webやアプリの世界のAdobeXDと電子工作やプログラミングの世界のmicro:bitを組み合わせて、「簡単」「速い」「安い」を特徴とするIoTプロトタイピングツールの構築を研究しています。
ちょうどサイバー空間とフィジカル空間の接続部分に相当するところをAdobeXDとmicro:bitが受け持ち、これからクラウドやAI、ロボットやセンサーに広がっていくように考えています。
融合と言うことでもう一つ大切だと思っているのが、技術を持った大人だけのものにしないことです。社会を構成する子どもからお年寄りまで、誰でもアイデアを形にできデザインに参加できるべきです。
イノベーションが多様性や非常識から生まれるのであれば、その事が最も重要なことかもしれません。
タンジブルとラディカル・アトムズ
私が尊敬しているMITメディアラボの石井裕さんは以前から、デジタル情報とフィジカルの融合をビジョンとして示されています。
インプットとアウトプット、センサーとアクチュエータが一体化したような存在となっていますが、感覚としてはアウトプットの比重が大きく感じます。言い換えれば装置が積極的にアウトプットすることで、人間とのインタラクションを生み出し、結果として人間側の行為をセンシングしている感じです。
IoTの本質は、iPodとiTunesの関係モデルのよう単純なものではなく、もっと魔法のような世界だと考えています。
あと数年たてば、トイストーリーのように人形がしゃべり出し、ラジコンに乗って移動するようになるでしょう。その時に私たちは彼らを何と呼び、どのように接することになるのでしょうか?
プロトタイピングをすることで何かが見えてくるはずです。
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