UX/UIガイドラインを書き続けて思うこと
私が勤めている会社には、いくつかの製品分野があり、オフィシャルな活動のものや提案型のものも含め、全ての分野のUX/UIガイドラインを書いた経験があります。
システマチックなデザインが好きで、個々のルール、アーキテクチャ、フレームワーク、10年後50年後のビジョン(ロードマップ)という視点で書いてきました。
私は一応デザイナーですが、ビジュアルや形状的なものではなく、目に見えないものを中心にデザインしてきたと思います。「ガイドライン」は私のメインのデザインアウトプットだと言えます。
そのため主なデザインツールは、昔からイラレやフォトショではなく、パワーポイントやワードでした。
ガイドラインとの出会い
UIガイドラインで有名なのは、80年代に作られたAppleの「Human Interface Guidelines」です。私も日本語化されたものを若い時に読みました。
その後、TRONのガイドラインや Windowsのガイドライン的なものも比較して読みました。
この辺りが、私の原点になっています。
このころは、アップデートの頻度は低かったですが、書籍の形でありましたので、それほど意識しなくてもガイドラインを体系的に学びやすかったと思います。
最近のガイドライン
ガイドラインの書籍時代の後、しばらく静かな時代が続きましたが、WindowsXPが出たタイミングで、Microsoftが最初の「UXデザイン」ガイドラインを出してきました。私はこのときにUXという言葉を少し違和感を持って読みました。(それまではUIデザインの中にUXの考えが含まれていると思っていたからです) このタイミングから再び各社のガイドライン作成が活発になったように記憶しています。
特にiOSやAndroid、Windows8/10の時代になると、PDFやHTMLでガイドラインアップデートが容易になり、また一般のプログラマーにもアプリを作成してもらうことが重要になってきたことから、再びUIガイドラインが話題になるようになってきました。
最新のWindowsUXデザインガイドラインは現在、何冊かに分かれていて、内容が重なる部分があったりして、少し整理できていないようですが、Windows8以降の「新しいPCオペレーションを生み出そう」というチャレンジが垣間見えて刺激的なものになっています。
WindowsXPと同じころにmacOS Xが発表され、こちらも見た目だけでなく、新しいオペレーション体系となり、ガイドラインが更新されました。
Appleの最新のHuman Interface Guidelinesは、一つのフォーマットで、macOSからiOS、watchOS、tvOSを体系的に見ることができるので、マルチディスプレー時代のガイドラインとして非常に良くまとまっているものになっています。
最近はAppleのライバルはMicrosoft(Windows)ではなく、Google(Android)ということになっているようで、AndroidとくにMaterial Designが盛り上がっていると感じます。
Material Designは「動的」なデザインを主体としたもので、HTMLベースのガイドラインが最大限に活かされていると思いました。これで書籍によるガイドラインに戻ることはもうなくなったのではないでしょうか。
またガイドラインだけでなく、デザインツールもイラレやフォトショップから、動きを主体としたものへと移行してきていますが、Material Designの影響が小さくなかったのではないでしょうか。(私もデザインツール/プロトタイピングツールの選定で苦労しています)
薄いガイドライン、厚いガイドライン
大好きなガイドラインの紹介ですっかり前置きが長くなってしまいましたが、最近私が感じているガイドラインについて書いてみます。
企業内で使われるガイドラインには、AppleのHuman Interface Guidelinesのように原型となるものが無いため、何を書くべきなのかということが大きな問題になります。
細かいルールを作ると、デザインの自由度が無くなってしまう。という意見や、内容が多くなり誰も読んでくれない。という意見がある一方で、
しっかりと考え方からルール、参考情報までを網羅しておけば、同じテーマについて2重3重の繰り返しデザインやデザインの差異を最小にすることができ、システムのデザイン統一や効率的なデザインに有利であるという意見があり、
ガイドラインを「薄くするのか厚くするのか」で、難しい判断をしなければならなくなっています。
(薄いものから始めて徐々に内容を増やして厚くしていくというのではなく、最終ゴールとして「薄さ」を求める声があるのです)
特定製品分野のUX/UIガイドライン
具体的に、私が考えている特定製品分野の「厚い」ガイドラインがどんなものかを紹介します。
「製品分野」とは、医療機器とか顕微鏡とかカメラといった目的を中心としたものや製品を中心にしたものを指します。これはガイドラインの考え方というよりも、会社の事業の考え方に基づく分野分類です。
始めに「システムの範囲」を書きます。大きなタスク(手術とか、細胞研究とか、撮影旅行とか)や場所(手術室、研究室、撮影スタジオ)を規定します。
次に、そのシステムの中で登場する人物(ユーザー)と装置を書き出します。ユーザーは役割の名称(医師、看護師、研究者、撮影者)で書きます。装置は連動して使われるもの、関連して使われるもの、同じユーザーが別の並行して使うものなどが、UXから見たシステム範囲に入ります。
舞台(システム範囲)と役者(人物、装置)が揃ったところで、時間軸にそってどのように情報が移動し、役割をはたし、関係性がつくられるのかについて大きな流れを書いていきます。(ユーザーワークフロー、ストーリーボード、ジャーニーマップとか)
大きな流れを、小さく分解していきながら、その中で要求されるUIの役割について書き出します。(UIがシステムに対して提供しなければならない価値)
この役割も小さく分解していくと、各画面の役割や、その中のメッセージがどうなっているべきか、ボタンコントロールや様々なビューがどうなっているべきかが明確になってきます。
最後に、役割を実現するためのテンプレートとして、共通カラーやコントロールのデザイン、フォント、レイアウトルールなど、デザインのトーン&マナーが製品ごとにバラバラにならないように規定を設けます。
ここまでやっておくと、その製品分野のデザインはとても速いスピードで一旦デザインできるようになります。
その上でガイドラインをここまで作る本当の狙いは、既存機能部分は効率的に進めておき、新機能の部分に対してしっかりとユーザー観察、プロトタイプによる検証をおこないながらデザインすることです。また既存機能部分に対しても一旦できたものを再検証することもできるようになります。
文章で簡単に書きましたが、実際にガイドラインを作るためには、過去の製品の実績をまとめるだけではなく、仮想製品を作り、いくつかのデザイン案を検証する必要があります。
しっかりとした活動がなければ、複数の製品に影響を与えるガイドラインの品質を保つことができません。実際に「よく考えていないルール」によって、複数の製品で大混乱が起きる事例を沢山みてきました。
だからと言って「薄いガイドラインの方が良い」ということにはなりません。UXは必ずシステムによって生み出されます。システムデザインをおこなうためには厚いガイドラインが必要なのです。
未来につながるガイドライン
医療機器のように複数の機器が同じ場所で接続されて使われるだけでなく、全ての機器がデジタルで繋がっているIoT時代には、一連のUXが単独の機器やサービスだけで完結することはなく、製品間の一貫性や連続性がとても大切になっています。
UX/UIガイドラインも、当然それらの要求を満たすために役割を変えていかなけらばなりません。
これまでの企業内のガイドラインは、どちらかと言うと製品が世代を重ねていくときに、ブランド投資を無駄にしないために、一定のガイドラインを設けておくというものだったと思います。先輩から後輩へのよく分からないプレゼントみたいなものです。
薄いガイドラインには、デザイン「ポエム※」が書いてあるに過ぎません。ポエムに感動して皆が同じ思いを持つことは、ガイドラインの一つの役割ですが、IoT時代に対応することはできません。
※正式にはフィロソフィー(思想)と言われています
いまは単独のプロダクトデザインから、サービスとプロダクトの連携を含めた「システムデザイン」が求められており、それに対応するためにシステマチックなガイドラインが必要なのです。
未来のガイドライン
「読み物」としてのガイドラインは近い将来無くなることになります。
日々のディスカッションをSlackなどのツール上でおこなうことで、ルールやノウハウが蓄積され共有されるようになります。
そして、あるテーマについてディスカッションをしていると、AIボットが会話に入ってきてガイドラインについて、情報を与えてくれるようになります。
その時に薄いガイドラインのような会話しかしていない企業は、AIボットにデザインポエムを聞かされることになるのです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?