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VRプロトタイピングを考える

視覚のほとんどをある世界にすると人間の脳はその空間にいるように感じるということは、大きな絵画を描くこと、カメラのファインダー、大型スクリーンの映画やTV、プラネタリウムなどで「没入感」として認識されてきました。

その流れの中で出てきたのが「VRゴーグル」です。完全に視覚を特定の世界にしてしまうことで究極の没入感を作り出そうという発想です。脳に直接情報を送り込む技術が登場するまでは有効な手段の一つとして残りそうです。

モノクロよりカラー、静止画より動画、2Dより3D、さらに視線移動追従や身体刺激のようなインタラクションが加わることで没入感が増していき、実体験と同じ満足感や恐怖感を得られます。

VRゴーグル自体はかなり前からありましたので、この10年は、様々な身体刺激との組合せが技術的な課題の中心だったと思います。身体刺激の一つとしてHololensのように実像と虚像をミックスした空間体験の登場も身体刺激を組み合わせる一つの方法だと言えます。



VRをプロトタイピングに使う

VRが「実体験」に近いところまで来たことで、体験設計のためのプロトタイピングに活用できるようになってきました。

これまでも視覚的な体験を使った設計検証やビジュアルの検証には活用されてきましたが、これからはフィジカルな体験とミックスし、さらに広い範囲のプロトタイピングが可能になります。

具体的に起きている変化として、これまでのVRそのものの研究ではなく建設、医療、自動車、エンターテインメントなどそれぞれの分野の専門家によって業務プロセスの中に導入が始まり、技術の応用(実用)フェーズに入ってきたと言えます。



VRプロトのメリット

物理的に何かを作る時にもCADを利用するようになってからは、データをそのままVRの中で確認できれば加工する費用が掛からないだけでなく、修正時間が短縮できたり一度に多くのバリエーションを検証することもできスピードが速まります。

また、これまでプロトタイプを作ることが難しかった都市や建築のような大きなスケールのものでも作ることができるだけでなく、スケールを現実と変えることで宇宙スケールからミクロスケールまで手元で扱うことができるようになります。この変化は400年前に望遠鏡と顕微鏡が発明され人間に与えた変化と同じような意味があるものです。

スケールを自在に扱えることで、1つの製品だけでなくその製品の周辺の製品や環境をまとめて体験できシステムデザインのプロトタイピングができるようになります。この「規模」の拡大はとりわけ人間を含めたシステムのデザインにとって重要なものになってくると思います。

空間デザインにMRを活用


VRプロトの問題点

最近の製品はデジタル技術でコントロールされ、画面やスピーカーを通してデジタルの世界にアクセスする作りになっています。

この製品をVRの中で体験すると少しややこしいことになります。例えばVRプロトの中で新しいVRゴーグルの体験をしてみる場合には、ユーザーはちゃんとそのデジタルーデジタル階層を理解することができるかという問題です。

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VRプロトの中でミラーレスカメラのファインダーを覗くような場合には、ファインダー内の暗空間の存在やカメラを下すことで見ている対象の識別ができそうですが、VRゴーグルの体験はちょっと難しそうです。


フィジカルプロトタイプとの融合

VRプロトの問題点を解決する方法として、フィジカルな体験の基本部分をフィジカルなプロトタイプとして、VRプロトと融合した状況を作り出す方法があります。

製品を模した、例えば四角い箱や板、丸い棒などを実際に持ち、その上にVRの世界をトラッキングしながら投影することで身体的な感覚をリアルにしながら機器のデジタル部分の動作をVRによって実現することができます。

物理的な操作感を得るためボタンやレバーを作り込むフィジカルプロトから、クリック音や疑似的なフィードバックによって操作感を実現する簡易的案フィジカルプロトまで、フィジカルとバーチャル融合割合は複数が考えられ、これからいくつもの提案が出てくることになるはずです。

ただし既に指先のトラッキング技術はある程度のところまできていますので、これまでハードウェアのマイコンキットなどを利用して検討していた部分もVRの領域に含まれてくる可能性は大きいと思います。


VR(MR)製品のプロトタイピング

当然ですがVRやMRのツールが開発プロセスの中で使い易くなるのと同時に、エンドユーザーのツールとしても使われるようになります。

つまりVR(MR)の製品・サービスをデザインしていくという状況が生まれます。こうなってくると代替え手段としてのVRプロトではなく、デザイン対象としてのVRプロトになります。

実際VRプロトとVR製品に技術の違いはありません。エンドユーザーがVRを活用する理由の一つに行為の事前練習やリアルタイムサポートのような、失敗する前にそれを予防するプロトタイピング的な価値を得ることが含まれているからです。

VRプロトタイピングの技術はエンドユーザーにも共有され一体となっていく


VRプロトでデジタルオフィス/デジタルスタジオを実現

従来の時間と費用をかけた試作品ではなく、もっと早い段階で、もっとシステム全体として、もっと何度もプトロタイピングを繰り返していくアジャイル業務ができる「プロトタイピング・オフィス」という考え方が重要になってきます。

さらにグローバル開発やさまざまなステークホルダとの協業などを推進していくためには、1社のオフィスにメンバーが集まって何かを開発することが難しくなってきており、デジタルツールを活用することでサイバー空間にバーチャルなオフィスを構築しその中でコミュケーションを取りながらVRプロトタイピングを活用して進めていくことになるはずです。

まずオフィスがデジタルに移行していき、その延長としてスタジオ/ラボラトリーがデジタル化していくのではないでしょうか。




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