見出し画像

UXデザインのためのモデルベース開発ツール

ユーザー体験(UX)を含んだ大きくてフクザツなシステムを設計するために必要なツールについてずっと考えています。

デザイナーの使うツールと言えば、プロダクトデザインの3D-CAD以外ではAdobeのIllustratorやPhotoshop、近年ではFigmaやAdobeXDなどWebやアプリのGUIプロトタイピングツールも使われるようになってきています。しかしいずれもビジネススケールのフクザツなシステム全体をデザインできるツールではありません。

この記事では初めに「フクザツなUXデザインの重要性」についてまとめ、後半に「そのフクザツさを扱うためのツール」について考えていきます。


UXデザインは単なるキャッチコピーではない

製品デザインの上流では、これまでもコンセプトデザインやアイディエーションがおこなわれてきましたが、いづれも短い言葉やサムネールスケッチのようなシンプルなものでした。その結果コンセプトを一言で表したり、A4一枚にまとめることが良いとされたこともありました。

フクザツなシステムの概要を抽象化して製品デザインのためのコンセプトや「ワクワクするゲーム体験!」のようなキャッチコピーとしてシンプルに扱うことはコミュニケーションの手段として必要ですが、設計に重要なのはフクザツなシステムの中身なのです。概要だけのUXデザインから製品やサービスを作ってしまうと後から様々な問題が出てきてしまいます。

近年では製品と作る前に、ユーザーや社会に届ける「価値」、どんな課題を解決するのかといった「問いのデザイン」が重要視されるようになってきました。そして体験やそれを生み出す環境や仕組みを設計する中身のあるUXデザインが求められるようになってきています。


フクザツなUXデザインの必要性

「シンプル・イズ・ベスト」何かに集中しシンプルに物事を進めることが良いという考え方がありますが、さまざまな関係性の中で機能し存在している現在のデザイン対象に対して、それらを無視してシンプルであることは不誠実で無責任なことになってしまいます。

その中でも持続可能性を持つことは、個人や社会が成長していく前提となるもので特に重要です。一夜にしてシステムが使えなくなれば多くの混乱が生まれます。そのためには新しい製品を作る時にはユーザーの受容性だけでなく、適切なシステム関係を持つことを確認しておかなければなりません。

従来のモノ作りで注目されていたのは製品そのものについて深く作り上げていくフクザツさでしたが、UXデザインでは連携するさまざまな要素についてのフクザツさが重要になってきます。

製品やサービスを出した後でフクザツな関連性が発覚すると大きなリスクとなります。自動車や医療機器ではリスクが重大な事故に繋がり、建築物では容易に建て替えや改修ができず不満が長期間に渡って続くことになります。

事前にシステムとの関連性を把握し適切にデザインしておけば、リスクを減らせるだけでなくその関連性を使って製品をスムーズに導入する道筋にすることができます。


フクザツなUXを扱うツール

UXデザインの主な手法には「ペルソナ・シナリオ」や「ジャーニーマップ」などがあり、WordやPowerPoint、Illustratorを使って文章や表を作ることが多かったと思います。

その一方で多くの部品から構成される多くのユニットを組み合わせ、空間配置、空気・廃熱、電磁波シールドなど相互関係の中で、フクザツな製品システムを設計していくツールとして3D-CADが開発現場で活用されています。

3D-CADは単なる形状のスケッチツールでは無く、部品間や形状間の関係性を構造としてデータ化することが重要な役割になっています。

これと同じように多くの出来事から構成される多くのデバイスや人を組み合わせたUXシステムをデザインしていくためには、フクザツさを構造的に扱えるデータ化ツールが必要になってきています。

これまで製品デザインをおこなう3D-CADは会社からの投資も大きくしっかりと整備されてきましたが、UXデザインについては社内のさまざまな部門がバラバラのフォーマットでユーザー要求や利用環境の情報をまとめてしまっており、それらを統合し、後工程である製品設計へ直接つなげることができていません。

デザイン経営には、顧客やユーザーの課題を解決するためのUXデザインが重要になってくるため、これからそれらを扱うツールへの投資が進んでいくと予測しています。


モデルベース開発に使われるツール

要求仕様を考え製品設計へインプットするツールとして、価値の実現や課題の解決に最適な仕様を設計するモデルベース開発ツールが登場しています。

自動車業界ではSimulink(MathWorks社)が良く使われているようですし、電気業界にいた人からはSimulationX(ESI ITIGmbH社)を紹介してもらいました。どちらもモデルベース開発(MBD)/1Dシミュレーション(1D-CAE)のための総合環境を提供しています。


自動車はメカトロニクスとエレクトロニクスの高度な融合体でしたが、現在開発が進む自動運転車では外部との通信やAIなどのサービスやソフトウェアが重要な役割を持つようになっています。そのため上流工程でフクザツな全体構造を設計するツールとしてモデルベース開発ツールが早くから導入されてきました。

この流れは医療機器や建設などでも同様でありデジタルトランスフォーメーション(DX)の主要なツールとなってきています。


モデルベース開発ツールをUXデザインに使う方法

導入が進むモデルベース開発ツールでUXデザインを扱うことができればスムーズに製品開発につなげることができるだけでなく、社内の各部門の情報が統合され繋がりが強くなるはずです。

ツールの中でUXデザインをどのように扱うのか想像してみましょう。

まずユーザーをオブジェクトとして扱います。そのオブジェクトにペルソナ手法のように名前と写真付け、知識や能力、身体的なパラメータをインプットしていきます。

さらに時間軸に動機や行動をシナリオ手法のようにインプットしていき、感情や満足度を持つようにします。その他に、利用状況としてさまざまな環境をオブジェクトとして定義していきます。

大切なのは物理的な出来事だけでなくジャーニーマップのように感情的な状態と時間軸での変化を扱えるようにし、シーンを描きながらストーリーを組み立て、それらの因果関係を構造化できるようにしていくことです。


構造化したUXデータをプロトタイピングに活用する

構造化したUXデータから、設計したシーンを映画のように見ることできたり、スマホやPCを仮の装置のように動作させたり、まだ設計のできていない装置の簡易的な3Dプリントデータを自動で用意するなどプロトタイピング活動を支援することが期待できます。

最初はデジタルツールの中だけで確認をし、その後VRなどを使って自分自身で体験できるようにし、最終的に実際の空間でリアルな体験できるようにプロセスを進めていくことで上流工程でのUXデザインを効率的に進めていくことが出来るようになります。

プロトタイピングを通してUXデザインをブラッシュアップしていき、いくつものシナリオを製品デザインを始める前に十分に検討することがツール導入の最終的な目的になっていきます。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?