プロトタイピング界隈として、あの「失敗」について言っておきたいこと
JAXAのH3ロケットの打ち上げが延期になった件で、あらゆる界隈がザワザワしていますが、「意図的に失敗する」ための活動であるプロトタイピング関係者は失敗談義をニヤニヤしながら見ていると思うのでちょっとまとめてみます。(かつてこんなに「失敗」という言葉が話題になったことがあったでしょうか!)
・・・
今回のH3の内容は「延期する条件を事前に設定していて、その条件に合致したため延期した」ということのようです。事故では無いという認識は共通のようですが、特定の条件に合わせることができなかったという点で失敗ではないかと指摘が有った訳です。
延期条件には、気象のように自然に対するものと、ロケットや発射設備のように人工物があり、今回は人工物だったため「どうにかできたはず」ということから特に失敗の印象をもった人がいたということになります。
人工物だからコントロールできるという考えは金槌くらい単純なものにしか当てはまらず、ちょっとした工業製品でも微妙なすり合わせが必要ですし、プログラムのように複雑なものであればバグを完全に排除することは難しくなります。
また完全に独立した人工物は存在せず、気象(気温)の影響や生物としての人間の影響を受けています。だからこそクリーンルームで無人可動する工場をわざわざ作る必要も出てきます。
ちなみに私は、複雑なシステムが好きなので、今回はそのシステムが上手く動いたということで「成功だった(事故を防いだ)」という感覚で見ています。
スマート社会という調和システム
電力のスマートグリッドなど、独立した個別システムがSystem of Systems(SoS:システムの連携システム)で連携する場合には、今回のH3のように状況に対応した調整がおこなわれます。
どこかが破綻しそうになったときに、全体でそれをカバーする仕組みです。そのようなお互い様の社会を作っていこうというのがスマート社会の基本的な考え方になります。各システムが上手く動いているときはSoSはそれほど必要ではないのかもしれませんが、社会のリスクを減らしていくためにはとても重要なものになってきます。
一つのシステムだけで見れば計画通りに動いていなくても、より大きなシステムで見ると上手く動いているのです。このスマート社会の価値観を持つことができなければ地球環境の持続も含めた社会を実現できません。そういう意味で今回の延期を評価しています。
失敗を「織り込み済み」の行為とは
何を失敗とするかは非常に難しい問題です。世の中には思い通りにいかないことが沢山あります。
先ず宝くじや競馬が当たらなかった場合に失敗と言うのか考えてみます。当たったら何を買おうか想像している時点で本人は当たることを期待しているため外れたら相当ガッカリします。客観的に考えれば外れるのが確率的に普通なので一般には失敗ではなく「残念」ということになります。これは想定された失敗と言えます。
ちょっとシリアスな事例ですが、医療はどうでしょうか。お医者さんは全力で病気を治そうとしてくれていますが残念ながら全ての患者を完治させることはできません。これを失敗と表現してしまうと医者になる人がいなくなってしまいます。
このように社会に共有された織り込み済みの失敗があるように、ロケットの延期も「残念」くらいにしておくのが良いのではないでしょうか。
プロトタイピングの先祖としての「失敗学」
失敗学は実際の事故(失敗)から学んで、それを繰り返さないようにすることに主眼を置いており、反面教師として現実の痛手を無駄にしないという考え方を含んでいます。
さらに失敗学では、ヒヤリハットの時点で将来の大きな事故を予測し、改善につなげることに重きを置いていて、いづれも実際の現場の中で可能な限り事故を減らしていこうというギリギリの活動になっています。
一方でプロトタイピングは、意図的に失敗を作り出し対応策を講じていくため余裕を持った改善が可能です。どちらも失敗から価値を生み出そうとしている点でプロトタイピングは失敗学の一部と考えられるのです。
プロトタイピングは意図的に失敗すること
何か大きな事故が起きると「想定外のことが・・・」という説明がでてきます。どこまで想定できていたのか
ワーストケースを再現しておくことが重要です。非常に稀な条件を設定したり、事故が起きる設定をすることで、結果も含めて想定内にしていきます。
現在でも宇宙に行くという行為は一発勝負的な部分があり、だからこそそれまでにあらゆる事態を想定し対応を決めておきます。その時になって人間が判断すれば良いという考えはありません。徹底的に想定しマニュアル化していきます。
「宇宙兄弟」には、想定による訓練の様子が沢山でてくるので、あらゆる人に参考になると思います。
ロケットほどでは無くても、クルマの運転や製品の販売でもリスクがありますのでしっかり想定して、事前にできる修正や、何かが起きたときの対応方法を計画しておく方が良いのです。
その活動がプロトタイピングです。本番前に通常状態を確認しておくだけでなく、意図的に条件に幅を持たせて失敗しておくことが重要になります。
・・・
いかがでしたか? 「失敗」に対する考えが変わったでしょうか。しっかりと想定しておくことが少しでも評価される世の中になるように、「想定外」という無責任な言い訳がなくなるように、想定していたことは失敗では無いと言ってくれる人が増えれば良いなと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?