図解で見るカメラの設計コンセプト
カメラという製品は大きければ高性能なものになるという法則があります。
巨大な天体望遠鏡によって遠くの宇宙をみることができることと同じ法則が働いています。
特に光学的な部分では、映像にとって重要な「色」が波長という物理的な世界に支配されているため、微小領域ではさまざまな制約があるからです。
つまり最近のフルサイズ機への流れのように、撮像素子サイズ中心の「大きい方が良い」という価値基準は、ある意味では正しいと言えます。
しかしカメラというものは撮像素子の性能だけで語ることはできません。
むしろ画素密度が十分に上がり、感度特性も上がったことで、撮像素子以外の性能がユーザーの使い勝手にとってより重要になってきます。
人間の手の大きさに適したカメラのサイズがあり、一日写真を撮り続けるために許容できる重さがあります。その上限の中でどのようなバランスで各ユニットを設計するのかが「カメラの設計コンセプト」です。
この記事では、カメラの設計コンセプトを図解し、各カメラのバランスをみていきたいと思います。
カメラの3つの領域
撮像ユニット、コアユニット、UIユニットの3つの領域に分けその「大きさの比率」によってカメラのコンセプトを説明していきます。
まずはバランスの基準としてフルサイズミラーレスの王者α7IIIから、各社のカメラを比較していきたいと思います。
SONY α7III
フルサイズミラーレス旋風を巻き起こしたα7の3世代目のカメラです。
大きい撮像ユニットに対してUIユニットギリギリまでコアユニットを使うことで「高性能であるが小型」というソニーらしいコンセプトを実現しています。
撮像素子の高感度特性を利用して、高速シャッターを切ることを前提とすることで、手振れに対してだけでなく、被写体ぶれを最小にした撮影を実現することができます。
撮像素子のトップメーカーとして、今後も撮像素子の進化がカメラの進化になるという自信を感じることができます。
Panasonic Lumix S1(開発発表済みのフルサイズ機)
ソニーのα7IIIに対して、UIユニット部分を大きくし防塵防滴や放熱性能を強化することでプロフェッショナルモデルとしての信頼性を上げようというコンセプトが見えてきます。
パナソニックはカメラに対する勉強を良くしているメーカーで、これまでニコン/キヤノンの一眼レフが持っていたバランスをミラーレスに展開しようとしているようです。下の図解を見ても大変バランスが良いという印象を受けるのではないでしょうか。
OLYMPUS OM-D E-M1X
小型のマイクロフォーサーズでは、撮像ユニットとコアユニットの体積比/重量比が大きくなり、強力な手振れ補正や手持ちハイレゾショットなどを実現することができます。
一眼レフのフラッグシップ機に近いUIユニットサイズを持つことで、バッテリーと画像処理エンジンを2個づつにし、高度な演算処理をリアルタイムでおこなう「インテリジェント被写体認識AF」やストレスフリーな撮影を実現しています。
カメラのクラスに対して撮像素子の小ささが良く指摘されますが、このバランスによって、小型でF値が明るいレンズや、感度を上げずに手振れ補正で長秒撮影を実現することで撮影領域を広げています。
Panasonic Lumix DMC-GM1SK
E-M1Xと全く逆のコンセプトで設計されたのが、こちらの非常に小型の機種になります。
小さな撮像素子に手振れ補正などの特別な機構を持たせずに構成することで小型軽量のコンセプトを実現しています。
マイクロフォーサーズではこのようなカメラを作ることができますが、高感度特性に不利な状況で手振れ補正を省いてしまうことで、誰にでもお勧めできるバランスの良い一眼カメラとは言えなくなっています。
ただ大きさが近いコンパクトカメラと比較した場合には、大きな撮像素子となるため高感度特性も上となり、十分な差別化をすることができます。
OLYMPUS PEN E-PL9
Lumix DMC-GM1SKがコンパクトカメラとの比較で優位性をコンセプトにしていたのに対して、E-PL9は手振れ補正やダストリダクションなどを搭載することで、APS-Cクラスの一眼カメラと対等の使い勝手を実現しています。
各社のカメラ設計技術には大きな違いはなく、開発者のレベル、開発ツール、生産設備は似たようなものです。カメラの大きさの違いは、カメラの設計コンセプトの違いであるということが上手く伝わったでしょうか?
モヤモヤと思っていた各社のカメラの違いについて、3つの四角を書くことで表してみました。
来月にはCP+が横浜で開催されます。各社のカメラを直接手に持って比較することができますので、ぜひ今回の記事の視点で体験してみてください。
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