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第2章 「マンション管理人をスタート」

かつてメジャー誌で連載、数本テレビドラマ化もされ、
人気漫画家だったわたしTもいつしか仕事が途絶えて流浪のバイト生活に。
やがて辿りついたのはマンション管理人のアルバイト
「人間の裏側が見える仕事」といわれるマンション管理人の日常とは?
赤裸々にマンション管理人の日常を描いた実録日記─。
連載第2回目です。

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 その日は平成26年3月下旬の晴れた穏やかな日であった。約束の時間に現場に行くと戸数は40戸弱という規模としてはさほど大きくはないそのマンションに一人のロマンスグレーの背筋の伸びた老人(というには若々しいが)が待っていた。見た目はちょっと厳しそうな感じだったので少し緊張した私に

「Tさん? よろしく。清掃担当の野山です。今日から数日私が付いて仕事を少しずつ覚えてもらうね、まあ焦らずひとつひとつ覚えてもらえばいいよ、あとで物担の荒木も来るから」

と見た目に反しソフトな物腰で話しかけられ、私の緊張も少しやわらいだ。《ここで物担とは清掃作業担当の人間とは別に建物や住民の様々な問題やトラブル等に対応してくれる人間をさす》建物はモノトーンの新築でキレイである。まだあちこちに養生が張ってあるし、建築会社の営業の人間ももうしばらく陣取って入居者の募集をしたりするらしい。引っ越し業者も出たり入ったりするだろう。エントランス入ったすぐ右に管理人室があって(大きさとしては縦長の四畳半くらいか、トイレも空調もついている。空調のない現場もあるようだからラッキーではある)機械警備になっているので出入りの際はその操作が必要である。まずは指タッチ、カードタッチというその方法とメールボックスからの取り出し方、閉め方をしっかり頭にたたき込んだ。その後清掃用具の説明を受けたり館内を見て回ったり日誌の書き方を教わったりと…初日はそんな具合であった。因みに物担の荒木氏は湘南方面に自宅のあるなかなかハンサムな独身青年であった。

 そして2日目。野山氏に仕事の大部分を占める清掃作業の基本に付いて具体的に教えていただいた。‘拾い掃き’などを行う箒2本(毛の柔かな座敷箒と毛の硬いシダ箒)、広い面積と細かいチリまで集められる自在箒の使い方、そしてエントランスや各通路などを拭くモップの糸のつけ方、スクイザーによる絞り方からその後の手絞り、拭き方など基本中の基本を教わり、その他その他。この時、仕事は丁寧に、しかし自分のペースで(今日出来なかった事は明日やれば良い…というような)適度の休憩を取りつつ長く続けられるような指導をしてくれたおかげで、その後6年間も続けることが出来たのではないかと思う。現在清掃担当は(物担も)3人目に代わっていてどの方もよくしてくれるが、結局はその時の実践と心の持ち様両面の指導のおかげで今があると思っている。皿洗いで経験した研修とは真逆の研修体験であった。やはりどんな仕事でも基本にあるのは人でありお互いの信頼関係なのだとつくづく思った。数日の研修が終わって私が初めて一人で仕事をする日が来た! 毎日単純な仕事の繰り返しではあるが、そんな中にも色々な問題が手を替え品を替え起こってくるのであった。

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ゴミ出し作業にいそしむある日


 最初の1ヶ月くらいは日曜も出てくれないか?(仕事を早く覚える意味と住民に顔を覚えてもらう両方の意味があった)と会社から言われていたので日曜も勤務に入った。とりあえず周辺と館内の拾い掃きとモップがけをエントランス(まだ養生が敷いてあったので空いた部分)から14F、13Fと済ませた私は特にダンボールの多さに目を回した。(入居時期なので特に多い!)ヒモで縛ってくれる人も何故か少なくバラで出す人が多いので、業務用のヒモで括らなくてはならない。私は学生の頃少しの期間くだもの屋でバイトをした経験があり、ダンボールをまとめるのは慣れていたので、この時はその経験が役に立った。因みに私がくだもの屋のバイトを辞めたのは一緒に働いていたオバさんが、私が身に覚えのない事を陰で店主に言いふらしていたのを偶然耳にしたからで、世の中にはこういう裏表のある人がいるのだと社会勉強にはなった。日曜は雨だったし業者や建設会社営業の出入りも多かったので、特にゴミ置場の作業に専念した。

 燃えないゴミ出しがある第2、第4の水曜以外の水曜日は何故か夜の勤務なので、夕方から仕事を始めた。PM5時に建物内の照明が点灯し始めるので、まず点灯切れがないか(新築マンションなので当分はないだろうと思ったが、各階のホースの収納庫にあるナツメ管は結構よく切れる)を確認する必要があった。それも含めて館内の簡単な清掃、巡回などを終えた19時頃突然エレベーターの非常音が鳴り出した。エレベーターを確認したが異常なかったので管理人室にある、エレベーターとつながっている電話の受話器を取り、すぐに戻すと非常音が消えた。その後警備会社にどうやら誰かが非常ボタンに触れたらしいことを説明し事なきを得た。どうも、誤押しから短時間なら通報する必要はないらしいのだがそれはともかく、この非常ボタンは3ヶ所あり身障者のことも考慮しかなり低い位置に2ヶ所設置してあるので、イタズラでなくても誰かが誤って触れて鳴らせてしまう事も多々あるだろうな、とその時思った。実際、上階に陣取る建設会社営業の一人も、誤押ししてあわてて警備会社に電話をしてあやまっていたし、私のいない時間に非常ボタンの誤押しがあり警備会社が出勤、翌朝管理人室にその報告書が置いてあることもたびたびあった。そんな管理人生活に少しずつ慣れてきた頃、それ以来6年間も苦しむことになるとは想像しなかった、あのにっくき‘ゴミ野郎’が出現したのであった!


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