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短篇

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#小説

リチュアルホールケーキ

陽炎を見つめる。
キッチンから漏れる灯りと蝋燭の火が顔を照らし黒いテレビ画面に浮かび上がらせている。

昔の人はこの蝋燭の火で生活していたのかと思うと、『蛍雪の功』って本当か?満月の日以外暗すぎて見えないんじゃないか?と疑問を抱く。

蝋燭の火にしたってこれじゃ暗すぎる。
仏壇に添えるくらいのサイズは欲しい。

明るさだけを求めるなら、神社のお焚き上げとかキャンプファイヤーとか、おっきな炎が良い。

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11月1日午前0時01分

11月1日午前0時01分

「ユキヤから返信きた?」
軽く脱色したウルフカットの後ろ髪とスマホをいじりながらマナツが問いかけてきた。

俺はスマホに目を落としたまま答える。
「いやー、既読スルーだわ。アサミからは?」

「未読スルー」

「マジで二人でデートしてんじゃね?」

「あり得る〜」
気のない返事だ。

今日は本来、アサミ、ユキヤ、マナツ、俺の四人でハロウィンパーティっぽいものを俺の家で開催するつもりであった。
「2

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かあさんのいえ

かあさんのいえ

以下の記述は、当病院で入院治療を続けている男が看護師にしきりに話す夢の内容である。

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アラームが耳を突き抜ける。
ジリリでもなくピロピロでもなく何とも形容しがたい不思議な電子音なのがうちの目覚ましの特徴だ。非常に脳に響く。
鼓膜から伝わる振動を遮断しようとしたとき、
『起きなさい龍之介』

「母さん、もう5分寝かせてよ」

『いけません。準備、朝食の

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灼熱

灼熱

8月某日、気温37度、室温26度。

国から貰った金で買ったゲーミングチェアに浅く座りながら、次のオンライン会議で提案する17文字で済みそうな企画内容を原稿用紙4枚程度まで薄く薄く引き伸ばしていた。

インターホンが鳴り、そっけなさと愛想良さが半々くらいの返事で対応する。
明らかに困憊した配達員に感謝の言葉を述べ、配達してくれた昼食を食べることにした。
ポテトが若干萎びているじゃないか。

久しく

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ジル・バレンタイン

ジル・バレンタイン

 朝、鏡を見たらゾンビになっていた。

 …は?なんで?意味わかんない。バレンタインチョコ作るのに夜更かししたから?
 え、え、マジヤバいどうしよう、こんなんじゃ学校行けない。
休む?いや、折角作ったから渡したいし……。

顔の青さはメイクでどうにかなる。
だるいのはきっとゾンビになったせいだから体調不良じゃないはず。

……いや、体調不良か。腐ってるんだし。

え、まって、腐ってる?
くさい?く

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