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金麦がビールと同じ価格になった時、あなたはどちらを選びますか?

コロナがビール業界に与えた影響

コロナの影響はあらゆる産業に広がっていますが、ビール市場にも相当のインパクトを与えています。

日本のビール市場には、「ビール」「発泡酒」「新ジャンル(第三のビール)」という3つのカテゴリーが存在します。商品名は知っていても、それがどのカテゴリーに当てはまるのかは、なかなか把握しきれないと思いますので、各メーカーの代表ブランドを以下に整理しておきます。

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価格については基本的に「ビール>発泡酒>新ジャンル」という並びです。ビール類全体において、価格の安い新ジャンルが占める比率は年々上昇してはいましたが、今年の上期に、ついに新ジャンルがビールを抜いたのです。

前年同期との比率変化を見ると、ビールは46%→38%、新ジャンルは41%→49%です。市場の8%分がそのままビールから新ジャンルへと移動し、市場のほぼ半分を新ジャンルが占めることになりました。原因は明快で、記事にもある通り、「新型コロナウイルス禍で飲食店が休業。景気低迷で節約志向が強まり、消費者が割安な第三のビールを自宅で飲んだため」です。

この傾向は当面続くと思われますが、それでは日本ではこのまま新ジャンルがビールを駆逐し、ビール界を席巻していくのでしょうか。ところが単純にそうとは言えなそうです。それどころかむしろ、これから「ビールの大逆襲」が始まるのです。ここでポイントになるのは「酒税の改定」です。

ビールを取り巻く酒税が大きく変わる

ビールは1缶あたり200円前後、新ジャンルは100円台の前半で売られていることが多く、1缶あたりで実に80円程度の価格差が存在しています。ご存知の方も多いと思いますが、その差は主に酒税に由来しています。現在、350mlに対する酒税は、ビールが77円、新ジャンルは28円であり、ここに約50円の違いがあります。

各メーカーは、消費者に安くておいしいビール類を届けるために、酒税負担の少ない発泡酒や新ジャンルの開発にしのぎを削ってきました。結果、多くのファンを獲得するようになったわけです。しかし、今後その酒税が段階的に変わっていきます。それを図にして示したのが以下です。

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簡単に言えば、「段階的にビールの酒税を下げ、発泡酒・新ジャンルの酒税は上げる。そして2026年にはすべてのビール類の酒税を一本化する」ということになっています。つまり、6年後には今のビール・発泡酒・新ジャンルという区分け自体が、少なくとも酒税という面においてはまったく意味を持たないものになるわけです。

第一弾として、今年の10月に最初の改定が行われます。1缶あたりビールが7円安くなり、新ジャンルは約10円あがります。おそらくこの変化分はそのまま販売価格に反映されるでしょう。多少の影響はあるでしょうが、ビールと新ジャンルではまだそれなりの価格差がありますから、実売にはさほど影響は与えないかもしれません。

しかし、酒税が統一されて、理屈上はブランド間の価格差がなくなるであろう6年後に、市場はどうなるでしょう?普通に考えれば「ビールも新ジャンルも同じ酒税で、同程度の販売価格になるならば、みんなビールを飲むんじゃないの?」となりそうなものです。僕自身もそんな未来をぼんやりとイメージしていました。糖質オフなど機能性に強みを持つ商品を除くと、新ジャンルや発泡酒はすべて淘汰され、正真正銘のビール同士による戦いに収斂していくのでしょうか?

新ジャンルのファンはそう簡単にスイッチしない?

とあるビールメーカーの方に予測を聞いたところ、意外な答えが返ってきました。

ビールブランド同士による戦いが主軸になるでしょうが、新ジャンルはビールの少し下の価格帯において、ある程度残るのではないかと思っています。

その理由は、大きく3つあります。

1. 新ジャンルのユーザーは、ビールの代替ではなく、ビールの苦味が嫌いで選んでいる人が多いようです。あくまで味への嗜好なので、価格が一緒でもビールに移行することはそれほどないかもしれません。
2. 今の30代前半から下の世代は、ネイティブの新ジャンルユーザーです。飲み始めからあったそれらのブランドへの愛着があり、ビールに対する憧れのようなものはありません。
3. 発泡酒や新ジャンルで強いブランドを持つメーカーは、それらを残して価格戦略を取る可能性が高いと思われます。

この指摘には非常に納得しました。僕自身はビールユーザーなので、その心理を十分に理解できていないのだと思いますが、新ジャンルユーザーの多くは決して価格だけが理由で、妥協や我慢をしてそちらを選んでいるわけではありません。味を含めたブランドを愛しているのだとすれば、そんなに単純にビールに移行することはないのかもしれません。

そして、そうしたファンを獲得している新ジャンル商品を持つメーカーも、容易にそのブランドを諦めるはずがありません。とはいえ、ビールと全く同じ価格では選ばれにくいのも正直なところでしょう。となると、仮に酒税が同じだったとしても、多少の価格差をつけて、「少しお手軽なビール」というポジションを取りに行く可能性は十分にありえます。

酒税改定という強烈な外部変化が起きていく中、各メーカーはどのブランドを選択して(裏返せば、どのブランドを捨てて)、そこに価格を含めてどのような戦略を描くのか。そして消費者はそれにどう反応するのか。これはかなり面白いマーケティングのケースになるのではないかと思いますので、ぜひ今後の動向に注目してみてください。



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