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「唐揚げ戦争」を横目に、生活に寄り添う惣菜業態をつくってみた

唐揚げ&フライドチキンで攻勢をかけるワタミ

街に「唐揚げ専門店」が続々と増えています。

例えば、ワタミが展開する「から揚げの天才」。唐揚げがひとつ99円(税込106円)、そしてイチオシのお弁当は、唐揚げ3個と玉子焼きがついて498円(税込537円)という価格設定です。「唐揚げ1個99円」という手頃な値段は、生活者に魅力的に映っていることでしょう。2018年11月に1号店をオープンさせてから2年半で、公式サイトによれば現在98店舗まで増えました。

また、いわゆる「唐揚げ」とは違うものの、ワタミはフライドチキンでも攻めようとしています。韓国発のフライドチキンのブランドに「bb.qオリーブチキンカフェ」というものがありますが、世界25か国で2,500店舗も展開しているそうです。ワタミは2016年にフランチャイズ契約を締結して、少しずつ店舗を増やしており、まもなく10店舗に達します。

上記の記事によれば、ワタミはこの2ブランドにかなり力を注いでいくようです。

ワタミは22年3月期にフライドチキン店「bb.qオリーブチキンカフェ」を80店、唐揚げ店「から揚げの天才」を200店、それぞれ新規出店する。23年3月期にはさらにフライドチキン店100店を新規出店し、非居酒屋の売上高比率を全体の5割以上に引き上げる計画だ。

大量出店によって、2023年3月時点で「から揚げの天才」は300店、「bb.qオリーブチキンカフェ」は200店という状況を目指すということです。チキン業態で合計500店舗体制ということですが、ケンタッキーフライドチキンが現在1140店舗ほどですから、単純にその半数近い規模を目標とすることになるわけです。

ちなみにワタミと言えば、コロナ禍で320店舗ある居酒屋のうち、80店を焼肉店に転換するという計画で話題を呼びました。同社としては言うまでもなく、「脱居酒屋」「脱アルコール」が大きなテーマですが、焼肉と並行して唐揚げ店への注力を進めているのです。

一大勢力である「から好し」とは何者か

皆さんは「から好し」という唐揚げ店をご存知でしょうか。店舗数が700近い、唐揚げ界の一大勢力です。おそらく多くの人は、「え、700店舗も?そんなブランド、あったっけ…」と感じるでしょうが、無理もありません。

経営するのは、すかいらーくグループ。元々は単独の唐揚げ専門店としてスタートしており、現在約90店舗存在します。しかし、そこからの展開戦略はとてもユニークです。コロナ禍で外食企業は食事業態の強化、そしてテイクアウト需要の獲得が大きなテーマとなりました。

そこで、すかいらーくは、すでにあるファミリーレストランの「ガスト」の資産を活用することにしたのです。新規に出店するのではなく、ガストのキッチンを使って調理して、ガストの客席で提供すればいいじゃないか、という考えです。もちろんテイクアウトにも対応しています。

要するに、から好しを店舗ではなく「メニューブランド」として位置づけたわけですが、これによって急速な展開が可能になりました。2020年7月にスタートしたこの併設作戦(寄生とも言える?)ですが、半年後の2021年1月にあっという間に600店舗を突破しました。理屈上は、1300以上あるすべてのガストの店舗、さらには、すかいらーくグループの店舗に同居することが可能ですので、業績次第ではもっと増えていくかもしれません。

最近増えている「ゴーストレストラン」(実際の店舗を持たずに、キッチンで料理をつくってデリバリーする形態)の課題のひとつは、リアル拠点がないことによる信頼感の乏しさです。「から好し」はある種のゴーストレストラン戦略ではあるのですが、すでにあるガストという店舗を活用することで、その課題を解決しているのです。

唐揚げに潜むチャンスと落とし穴

各社がこぞって唐揚げ業態に参入する理由は何でしょうか。

・鶏肉は原価そして売価が比較的低く抑えやすい。
・唐揚げという商品自体が万人受けする人気アイテムである。
・冷めても品質の劣化度合いが少ないメニューである。
・最終的にはフライヤーで揚げるだけなので、調理技術を問われにくい。
・フライヤーをはじめ最低限の設備で開業できるので、初期投資が低い。
・店舗サイズも小さく抑えられるので、家賃や人件費も少なくて済む。

などなど、唐揚げ業態の強みはたくさん存在しており、逆にこれまで大手の参入が少なかったこと自体が意外とも言えます。

ちなみに韓国ドラマでは、しばしば「チキン店」が登場しますし、韓国の経済や社会情勢を語るうえでも頻出するテーマです。ただし、その語られ方は「やむなくチキン店を開業→熾烈な競争の中で倒産」のようなパターンが多く、それくらいレッドオーシャンの市場になっているのです。なお、こちらのCOMEMOの投稿では、中国における唐揚げビジネスについて紹介されています。

日本でもこの数年、一気に「唐揚げ戦争」が激化しています。ただでさえ、唐揚げはスーパーのお惣菜では定番ですし、コンビニのホットコーナーにも欠かすことのできないアイテムです。そこに、一気に専門店が増えているわけですから、今後は価格競争が激しくなり、将来的には淘汰や再編も進むことでしょう。

「唐揚げ専門」ではなく「総合お惣菜店」

当社で最近立ち上げのお手伝いをした店舗に、お持ち帰りの惣菜店「デリカのサカイ」というものがあります。母体となっているのは「大金星」という居酒屋を数店舗運営する外食企業です。居酒屋が打撃を受ける中、同社としても中食事業に進出したいという希望がありました。

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そして実は居酒屋の大金星では、名物料理のひとつが唐揚げだったのです。ですから、単純に考えればその名物を切り出して、唐揚げ専門店をつくるのが一番の近道でした。けれども、私たちは議論の結果、その道は選びませんでした。理由はすでに触れた通りです。

確かに唐揚げは人気だし、短期的には収益を上げやすいかもしれません。けれども、商品やブランドの差異化が難しく、結果的に価格競争に陥りやすいのも事実です。さらには、繁華街ではなく住宅立地で商売をするうえでは、単品よりも何度もリピートしてもらえる業態のほうが強いのではないかと考えました。

その結果、唐揚げ専門店ではなく、各種揚げ物やおばんざいを取り揃えた「総合お惣菜店」にすることにしたのです。モチーフとしたのは「おばんざいが充実した肉屋さん」のようなたたずまい、そしてキャッチフレーズは「街のお惣菜スタンド」です。そして店名については、あえてレトロ感のある「デリカテッセン」という言葉から持ってきました。

こうして、唐揚げ・コロッケ・メンチカツ・ヒレカツなどの揚げ物、ポテトサラダ・五目ひじき・サバの味噌煮などのおばんざい、さらには居酒屋で磨いてきた焼そばやシュウマイなどのおかずを、幅広く取り揃えたお店が出来上がりました。ちなみにこれだけの品揃えをするためには、調理のオペレーションや商品管理は複雑化しますが、逆に言えば、それが参入障壁になるとも言えます。

小田急線の経堂駅の駅前に出店したのですが、開業からたくさんのお客さまに来ていただいています。決して唐揚げ専門店が悪いわけではありませんが、近隣住民の生活に寄り添って、ある程度品揃えを充実させるのも、住宅立地においてはひとつの効果的な戦略だと思っています。これからもしばらくはこうした持ち帰りの「中食市場」は変化の大きい領域になることは間違いありませんので、ぜひ注目をしてみてください。

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