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深夜ラジオのススメ

人とつながること。どこか遠く離れた人と偶然つながること。
それは、インターネットやSNSについての話題で語られることが多い。
しかし、私にとって、人とつながることをはじめて切実に感じたのは、中学2年生の時に最初に深夜ラジオを聴いた夜のことだ。

当時、スタバはおろかイオンすらない地方都市に住んでいた私は、世界から取り残されているような感覚の中にあった。テレビや雑誌で取り上げられる流行のスポットは東京にしかないし、クラスの中心のイケてるグループにも入れない。常に居心地が悪い感じがして、誰と話していても、間に薄い膜のようなものを感じていた。

そんな中学2年生のとある土曜日の23時ごろ、何となく寝るのが惜しくて、ベッド脇に置いてあったラジオの電源を入れてみた。技術家庭科の授業で、「はんだごてを使う」という単元の時に作った簡易的なラジオである。
持ち帰ったまましばらく放置していたのだが、その日はなぜか電源を入れてみようという気持ちになったのだ。家のすぐ近くに山があるためか、ほとんどはノイズしか聴こえない。でもこの物体には何かあるんじゃないかと諦めずにチューナーをカチカチ動かしていると、はっきりと聴こえる声があった。

聴いたことがある、艶のある低い声。福山雅治さんの声だった。
普段は国民的スターとして、かっこよくスポットライトを浴びる福山さんが、
まだ長崎にいた頃の、女の子にモテたかった時の話をしていた。
リスナーからのどうしようもなくくだらないメールで笑っていた。

「東京にいるスターも、こんなくだらないことを考えているんだ」
そんなことを頭で考えるよりも先にみぞおちが熱くなり、いつも心の底から湧き上がる寂しさみたいなものが溶けていくのを感じた。遥か遠く、東京の有楽町から届く福山さんの声が、ピンと張った糸のように私の方までまっすぐやってきて、心の膜を突き破ったのである。

なんて楽しいんだろう。なんて温かいんだろう。
ラジオを聴いている間、なんとも表現できない不思議な感覚に包まれた。
これこそ、私がはじめて「人とつながった」と感じた瞬間である。

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