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書籍「運は遺伝する」(橘玲&安藤寿康著/NHK出版新書)

科学技術の発達によって遺伝子の研究が進むにつれ、知力、能力、性格、さらには環境や運まで、人間社会のあらゆる面を「遺伝の影」が覆っており、それから誰も逃れられないことが明らかになってきています。
この本は、そういう行動遺伝学に関する最新の科学的事実を対談形式で説明している本です。

これまでは、遺伝子の影響を大きく認めることは、人間を峻別したり、人間の努力を無にするような方向を持つため、「タブー」(言ってはいけないこと)とされてきました。
しかし、上記のような事実が明らかになってくるに従い、今後、人間の社会は大きく変わってくると思われます。
例えば、これまでの学校教育は、遺伝の影響を無視して「誰もが教育を受けて頑張って勉強すれば学力が上がる」という考えに基づいて行われてきましたが、これは全くの幻想(教育幻想)で、全面的な見直しが必要になってくるというわけです。

遺伝子は様々なので、人間の得意分野、不得意分野、能力、性格なども様々です。
要するに「人間はみんな違っている」というわけです。
だからこの本は、これまで日本で美徳とされてきた「置かれた場所で咲きなさい」(与えられた環境で頑張れば報われる)という言葉に象徴される考え方も否定して、新たに「自分に適した場所で咲きなさい」(自分の遺伝的適正に合った場所を探して動くべき)という考え方を提言しています(もちろん「動くことが一番難しい」という現実も踏まえた上での提言です)。


以下、印象に残った部分を抜粋します。
★★以下抜粋★★

<橘>
 精神障害や犯罪性向も遺伝的な影響が大きいことが分かっていますが、日本の精神医学界はほとんど認めようとしませんよね。
 昔『言ってはいけない』という本で行動遺伝学の知見を紹介したときも、ある編集者から「そんなことを書いたら大変なことになる」と忠告されました。でも現実には、本が出ると「救われた」という反響がたくさんあった。自閉症のような発達障害の子どもを抱えた親は、これまで「子育てが悪い」「虐待でもしたんじゃないか」という心無い視線や批判に苦しんできた。
 遺伝の影響を否定すれば、残るのは環境(子育て)しかないのだから、批判が親に向かうのは当たり前です。でも「人権」を重視するリベラルは、環境決定論の「きれいごと」がどれほど残酷なのか、これまで全く考えようとしなかった。
<安藤>
 そうなんですよね。教育の世界も同じです。遺伝と言ってしまうと生徒が救われないから、遺伝ではないというストーリーにしたいのです。その結果、勉強ができないのはすべて子どもの努力不足か先生の指導力不足のせいにさせられています。本人もそう思い込んで、とことん努力するか、努力できずに敗北感を覚える。先生も自分からどんどん仕事を増やして疲弊していく。

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