メディアの危機と置き去りにされる市民:クロ現「おわび」から1年経って思うこと
去年の9月6日、NHKは「クローズアップ現代」の中で、私に対する ”おわび” を流しました。その内容は後日、新聞記事やウェブ記事になりました。
でも、それ以上は報じられることがなく、事の真相を取材しようという媒体は現れませんでした。私は当時からnoteやTwitterをやってましたから、その気になればすぐに「クロ現に出たはむたさん」を見つけることができたはずですが。
結局のところ、NHKが番組内で謝罪した、という点だけがニュースバリューだったのです。だから中身はどうでもいいというか……。たしかに、これらの記事だけ読むと、深刻さが伝わってこないかもしれませんけどね。※捏造事件についての詳細は、こちらのまとめ記事をご覧ください。
NHKはこのような不祥事を起こすたびに、「再発防止に努めます」といいます。他局や他メディアもそうです。でも、しばらく経つと同じ過ちを繰り返すんですよ。まるで被害に遭った人たちや視聴者・読者をあざ笑うかのように。
実際、本心では反省などしていないから、効果的な再発防止策を立てられないのです。なぜ反省しないかといえば、虚偽・捏造したところでたいしたペナルティがないからでしょう。また、業界全体に虚偽捏造を容認する「ヤラセ」体質があり、メディア間でお互いに批判し合うことがほとんどないことも、再発防止策の効力のなさにつながっています。
どこかの局が捏造報道をやらかしたとき、その局が発する情報をそのまま他局や他メディアが報道するだけでは不十分です。私のように被害を受けた人に直接取材して、コメントの一つや二つ取ってくるべきです。メディアの問題を深く掘り下げ、再発防止を図るには、メディアによって被害を被った人たちから話を聞くことが欠かせません。
NHKがクロ現捏造事件について説明責任を果たさないのなら、他局・他メディアが取り上げて真相を明らかにしてもいいはずなのに、そういう動きはありませんでした。他メディアはNHKの後追いをして、「かわいそうな女性のひきこもり当事者」とか「ひきこもり女子会」などを扱った「エモい」記事(=感動ポルノ)を出すだけです。NHKと当事者会・支援団体の欺瞞をまとめて暴くような、クロ現捏造事件の真相には見向きもしない。こちらの方がずっと面白いのに……。
もちろん、メディアの「中の人たち」もこういった現状に手をこまねいているわけではありません。メディアが機能不全を起こしていること、メディア不信が深まっていることに強い危機感をもち、解決に向けて真摯に取り組む人たちもいます。
私は必要に迫られて(NHK批判・マスコミ批判をするためには、メディアについて知り、理解しなければならないと考えて)、関連する記事や書籍を読み漁り、研究会や学会にもぐりこみ、講演会やシンポジウムやウェブ会議を聴くなどしてきました。そこで交わされる議論は深い洞察に基づいた示唆に富むものばかりで、門外漢である私にとってどれほど勉強になったかわかりません。ただ、「重要なピースが欠けている感じ」を強く覚えるのです。
どうしてメディアの人たちはメディアの危機を語る場に、重要な関係者である視聴者・読者(=一般市民)を呼ばないのでしょうか。情報の受け手を抜きにして、情報の発信者だけで問題を解決できるとは、私には思えないのです。メディアの問題について知れば知るほど、その点が気になって仕方がない。これでははっきり言って片手落ちで、いつまでたっても問題は解決しないでしょう。重要なアクターがテーブルについていないのですから。
シンポジウムや講演会やウェブ会議をするのなら、試しに報道被害者を集めて語らせてみてはどうでしょうか。業界の方々には耳の痛い話ばかり出てくるでしょうが、そのぶんきわめて有益だと思います。そこまでいかなくても、一般の視聴者・読者を利害関係者として尊重し、公けの場で存分に語ってもらう試みがあってもいいと思うのですが、そういう話は聞いたことがありません。
業界内でいくら話し合っても、糸口は見えてこないでしょう。問題の解決方法は問題の外部にあるのです。僭越ながら私の目には、「重要なピースを欠いたままの議論」は堂々巡りにしか見えない。業界人だけでなく一般の市民も議論に加わってこそ、「マスメディアの危機」を乗り越える知恵が生まれてくると思います。誰もそういうことを言い出さないのが、不思議でなりません。
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