見出し画像

キチガイ翻訳騒動(?)に対してスペイン語通訳経験者が思うこと

ワールドカップのアルゼンチンVSクロアチアの直後のインタビューで、通訳の方が「キチガイ」と翻訳したことが話題になっています。


キチガイと訳された問題の単語はスペイン語の "locura" です。ロクーラと発音し、その意味は「狂気、愚行、熱狂」となっています(クラウン西和辞典より)。英語のクレイジーに相当します。


キチガイという訳は間違いではありません。ですが、放送で使ってはいけないというルールがある以上、やっぱり使ってはいけません。通訳として失格です。


この「ロクーラ(Locura)」という単語自体は日常生活でよく使います。別にスペイン語の放送禁止用語というわけではありません。


ニュアンスとしては日本語の「普通じゃねぇ」、「ヤベェ」、「エグッ」みたいな感じです。良い意味でも悪い意味でも使われます。


通訳の方は「キチガイのような喜び」と直訳するのではなく、「とてつもない喜び」と訳すのが無難でした。僕ならそうやって訳したかなぁと思います。


キチガイと訳すのは通訳として失格ですが、そのように訳した気持ちはすっごく分かります。


同時通訳は2種類あります。1つは、資料があらかじめ用意されている同時通訳。もう1つは、本当に出たとこ勝負の同時通訳です。


たとえば、オリンピックのスピーチでの同時通訳は前者です。あれは事前にスピーチの原稿や資料が配られているので、それを翻訳したものをスピーチしている人のペースに合わせて読みます。厳密に言えば同時通訳ではありません。


後者は、今回のような試合後のインタビューです。事前に相手が何を言うのかまったく知らないし、どんな言葉が飛び出すのかも分かりません。マジもんの同時通訳です。


マジもんの同時通訳は本当に難しいし、焦ります。相手は試合後で興奮してるから早口だし、会話がどんどん次に進むから素早く訳さないといけない。


そうすると、頭にパッと浮かんだ直訳がそのまま口に出てしまうことがあります。「ロクーラって聞こえた ⇒ クレイジーの意味だ ⇒ よし、キチガイでいこう」という瞬時の神経伝達があったのでしょう。


僕にも似たような経験があります。とあるお堅い場での通訳で、集中力が甘くなって「非常にクソです」と口から出てしまったことがあります。「クソ?今こいつクソって言ったよな?」ってめっちゃ変な空気になりました。


キチガイという翻訳は良くないし、通訳として失格だけど、状況は理解できなくもないです。声を聴いたかぎりではご年配の通訳だったっぽいので、言葉に対するコンプラ意識も薄かったのではないでしょうか。


まぁ、珍プレーみたいなものです。どうせ3日後には世間から忘れられてます。大事なのは「人のふり見て我がふり直せ」です。この頃の言葉狩りは恐ろしいですから。


内容が面白かった・役に立ったという方は、ハートボタンのクリックや、SNSのフォロー、サポートなどをよろしくお願いします。活動のモチベーションにつながります。


木下 昂也(Koya Kinoshita)
Twitter : @koyakinoshita24
Instagram : @kinoshita_koya1024
Mail : kinoshita.koya1024@gmail.com
HP : https://www.keiba-latinamerica.com/

記事が気に入った・ためになったと思われた方は、ぜひサポートをしてくださるとありがたいです。執筆の励みになります。