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燈と宴と叫びと

行燈

前回の記事「街歩き」の続き。

ゲストハウス「燈屋」さんに着き、早速オーナーさんに挨拶をした。
オーナーさん以外にもすでに数人いたので、それぞれ自己紹介をした。

このイベント「行燈」は500円+1品持ち寄りで誰でも参加できるゆるいお食事会。
地元の人や僕やしょうゆちゃんの様なゲストハウスに宿泊する人達と誰でも参加できるものだった。

荷物を置いて、持ち寄りの1品と本泊するために購入した本を渡した。
宿の説明を受け、イベントの始まりに備えた。
ぽつぽつと人が集まり始め、ついにイベントが始まった。

合計8人いたため、半々で別れて、ご飯を食べながらみんなで話した。
その中で、本泊をするにあたってなぜこの本を選んだのかという話から話題を広げたり、それぞれの仕事やここに至るまでの経緯で盛り上がった。

この盛り上がりというのは、わいわいがやがやする類ではなく、各々の物語の糸がこの場所で網目のように交差する事により、ここでしか見れない模様が浮かび上がってくる様な盛り上がりだ。

決して関わるはずがなかった人たちとの交流。

ここで交わした会話はどれも興味深い物ばかりで、旅をする事はさることながら、このような交流こそが視野を広げるきっかけになるのだと痛切に感じながら過ごしていた。

燈屋さんには暖炉が設置されていて、暖炉の暖かさを感じながら話すというのも心がほぐれるまでの時間を短縮するのに一役買っていたと思う。
火ってやっぱりいいなとしみじみ。

一時間ほど経つと席替えを行い、メンバーを替えて同じように会話をした。

席替え後のメンバーでの会話は少し違った。
ここ最近自分が考えていたことがとても日に通った人たちがいた。

社会に向き合う時の姿勢、立ち位置、これからどう生きるか。
こういった内容で盛り上がった。

正直「これからどう生きるか」という点を僕はここ最近ずっと考えてきたけれど、なかなか見つけられる事ができていなかった。
だから、この時も僕は自分のもどかしさをただ提供しただけだった。

夜と絶叫

この日はキリストという人の誕生日が近かったので、暖炉の火で焼いたチキンやデザートにケーキが出てきた。そのあとおぜんざいも出てきて美味しく頂いた。

お腹も膨れてイベントも終わりに近づくと、燈屋さんで部屋を借りて暮らしている住人の頼みでみんなで仕事を少し手伝う事になった。

この住人の方、作曲を仕事にしていて、この時はゲーム音楽を制作していると事だった。
そして、群衆の叫び声を収録したいので手伝ってほしいという事だった。

部屋に上がると、六畳くらいの部屋に楽曲製作用のデスクトップやら機材が並んでいた。
その方がレコーディング用のマイクを設置すると「はい、じゃあ、叫んでください」と淡々と言った。

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みんなが戸惑い、そもそもどういう設定で、どんな叫び声をあげればいいのか、ボリュームや長さはどれくらいなのかをひとしきり打合せして、作曲家の住人からの合図で叫ぶことになった。

合図が出て5,6人でマイクに向かって思いっきり(本当に思いっきり)叫んだ。夜なのに。

「うおりゃあああああ」
「ごらぁああああああ」
「わぁあああああああ」
「どりゃああああああ」
「……カチカチ。はい、じゃあ、あと3パターンくらい」
「えーーーーーーー!」

こんな調子でレコーディングは続いた。外まで漏れた叫び声を酔っ払いがマネしているのが聞こえた。
そんなことは全く気にせず、作曲家は無茶ぶりや高度な内容を淡々と要望してくる。
その要望に対して説明が足りないとみんなからツッコミが入ると、毎回少しはにかんで説明をした。

半々に分かれて収録をする時の事。
僕がいるグループは後で収録するので、その場で待機していた。
前半組が叫び終わるとじっとモニターを見て、僕の方を指して言った。

「すいません、この方の声がよく通るみたいで、全体の7割を一人でカバーしている事が今分かりました。皆さん、もう少し頑張って声出して下さい」

皆「えーーーーーー(すでに全力なのにがっかり)」
僕「えーーーーーー(そんなに声通ってたのかよ)」

そんなこんなで収録が終わり、思いのほかしっかり疲れた収録メンバーは宿泊する僕としょうゆちゃんを残して帰っていった。
疲れたけど、意味わかんないけど、喉枯れたけど、とても楽しく貴重な体験だった。

ゲームの名前、聞いておけばよかったな。

行方

皆が帰った後、オーナー夫婦としょうゆちゃんと僕で少しゆっくり話をした。
収録の熱冷めやらぬまま、この夜がとても貴重で楽しい体験ばかりだったとオーナー夫婦に二人で伝えた。

それからここをどういった経緯でやる事になったのかなどを訊いたりもした。
そして、これからどこに旅するのか、何をするかなどの話になった。
しょうゆちゃんは次の日の朝に徳島から船で家に帰るという事だった。

僕はまだどこに行くかは決めていなかったが、何となく住み込みで野菜や果物の収穫系のバイトがあるのを少し前に聞いていて、農業とかに興味がある事を話した。

するとオーナーさんから一つの施設の名前が出た。
そこはオーナーさんの知り合いの方が福島県で経営しているところで、農業が体験できる場所だという事だった。
もしそっちの方に行くことがあれば紹介するので連絡くださいと言ってくれた。

施設の名前をメモして、オーナー夫婦は別の場所に住んでいるので、別れの挨拶をして、就寝に備えた。
イベントで作ったお手製の電気ランプの灯りが、ずっと興奮状態だった心を落ち着けてくれた。

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翌日、僕は岡山へ帰った。
さっそく、なタ書さんで買った本を読み始めた。会話を思い出した。
教えてもらった農業体験ができる施設を調べた。

すると、自分が何となく将来像として思い描いていたものが、まだくっきりとまではいかないがかなり輪郭が見えてきた。
頭の中に湧き出る想像は止まることなく、パズルをはめていくように全体像が見えてきた。

その中で自分がやりたいことをやる為には、自給自足が必要な気がした。
収穫のバイトなんかではなく、しっかりと農業を学びたい。
この時、パズルのピースが綺麗にはまったように次に行く場所が決まった。

もしかしたら、やりたい事がこれから経験していく中で変わる可能性がないわけではない。
しかしこのたった半日での高松の体験が、僕にとってが大きな意味を持つ時間となる事は間違いないだろう。

というわけで、4月から福島県で農業を学びに行きます。
本当は暖かいところに行きたかったんだけどなぁ。笑

最後まで読んで頂きありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです!

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