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小説『国語がお得意な秋津ゆきこ、彼女小6の日記』4月12日(火)

4月12日(火)

 ユーチューブが嫌いなわけじゃないし、お笑いとか見たりもするけどあたしはそれを頭を休ませるために見てるって感じがあるからずっとそればっかりだと罪悪感がふつふつと沸きおこってくるからほどほどにしてるって話、坂口さんと田村さんはわかってくれてるからいいんだけど他の友達っていうか級友っていうか友達でもないクラスメイトってどう言えばいいんかってそうか、クラスメイトでいいのか。あの人たちに説明するのがめんどくさい。

 父親はそれこそ休みの日は動画配信ばっかり見てるんだけどそれはあの人が仕事してるあいだずっと頭が休まらないからそうしているんだろうって思ってる。ずっと前にお母さんの前で父親のことをあの人呼ばわりしたら父親がいじけてしまったことがあった。お母さんがそんな言い方せずにしっかりお父さんって呼ぼうねって言ったのは覚えてるけどそのあとあたしは父親をお父さんと呼び直したか覚えていない。父親の洗濯物と一緒にあたしのは洗ってほしくないとか臭いとかそういうのは無いんだけど昔っから父親のことがどうしても好きになれない。父親は昔っから同じことばかり言う。

 ゆきちゃんくらいの年はスポンジみたいなもんやから吸収したもん全部吸い込むねん。現にお父ちゃんは小学生の頃に覚えた三国志のことをだいたい覚えてるわ。ただ残念なんはそれが所詮横山光輝の漫画の情報でしかないっていうことでな。そやからゆきちゃんは今のうちになんでも吸収しときいな。

 お酒が入るとだいたい上記を繰り返す。「ほんとの話がな」と言いながら3回くらい繰り返してこっちの反応が曖昧だと突然声を大きくして「おい、聞いてるんか」と怒鳴ってくる。おかげさまでこうして日記にほぼ一言一句違わず書き記せるくらいには、同じことを延々聞かされ続けてまいりました。本当に無駄遣いだ。横山光輝三国志のあらすじや登場人物をインプットするほうが百倍有益だ。自分ができなかったことをあたしに託すくらいなら、どうして自分でいまからでも学び直しをしないのだろうか。ユーチューバーの中身の薄い動画配信を見ては新しい知見を得た気になって自分しか知らない情報であるかのようにお母さんにその情報を披露する。お母さんはわきまえたもので「あらそうなんですか」「ほんまに〜」と感心したように相槌を打つ。その選択肢以外を選ぶとめんどくさくなるのを知っているのだ。

「それ、◯◯のユーチューブのやつでしょ、見た見た。」
「知ってる知ってる、それ、面白いよね」

 これらは自分より先に知ってしまったお母さんに腹を立てて不機嫌になるからアウトだ。自分は一歩先を行き、先導しなければ気が済まない。本当にしょうもないと思う。本当は何も言わずにいなしてるお母さんにも腹は立っているんだけど、不機嫌が空気を支配するのを水際で止めてくれているのも事実だからやめなよとは言えない。

#小説  #日記 
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#ジャミロワクイ

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