見出し画像

読書の記録 筒井康隆『メタモルフォセス群島』

 あまりにも異常な事態をあまりにも正常な文体で描くこと。そこに筒井康隆の文学の秘密がある。しかもこのあまりにも異常な事態は、つねに、たった一人の世界が心的によじれることによってのみ成立するような異常事態なのだ。つまり、筒井康隆は、狂気の世界を正気の世界であるかのように描くのであり、それが奇妙な説得力をもつのは、人間の世界がもともとそういう構造を持っているからである。
 このことは、この短編集に収められたすべての作品にあてはまるのみならず、ほぼ筒井康隆の全作品にあてはまると考えてよい。

 以上が筒井康隆短編集『メタモルフォセス群島』巻末の三浦雅士さんによる解説からの引用です。もうこれで筒井さんの作品の紹介が簡潔に完結しています。

 筒井さんの描く「狂気の世界」は令和五年のいま、読んでみると狂気すぎるので読み終えるまでの間に何度も何度も「いまならアウト」が脳裏をよぎりました。こんなんを「いまならアウト」とか言うてしまう自分の事勿れ主義にまみれた似非常識人ぶりを嘆きたくなる。
 最近の芸大生は何か自身の作った作品をプレゼンする際、「この作品はかなり攻めてますので気分を害する方がおられるかもしれませんが」とエクスキューズを入れてから作品を発表するが、その多くは「たいして攻めてもいない」などと書いていたのはどこの芸大の何という教授だったか忘れましたが、そういう学生さんたちがこの短編集を読んだらどんなことを思うでしょう。私だって随分「不謹慎だ」とは思いましたから。
 少し前に猟銃を持った男が民家に立て篭もった事件がありましたが、そのタイミングでたまたま読み始めたのが『毟りあい』という短編でして、内容は是非読んでいただきたいんですが、「このタイミングでこれかい」と自分の「引き」の不謹慎さにも苦笑してしまいました。
 文学や芸術においてアウトとは?そういう根源的な問いのある短編集です。

#読書 #読書の記録
#筒井康隆 #メタモルフォセス群島
#令和5年読書の記録

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?