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1人目の客になれた話

涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人目の客になることです。

烏丸三条、
新風館が本日オープンすることは
きっとご存知の方が
多いことと思います。

11時のオープンに向けて、
生放送終わり10時過ぎ、
現地へと向かいましたが、
館自体の1人目の客になるのは
おそらく難しいだろうと
思っておりました。

案の定、
入口には既に
長蛇の列が
できあがっておりました。
11時から入場できる、
優先入場整理券を手に入れ、
最後尾に並びます。

わかりにくいかもしれませんが
最後尾は「やまや」の
向かいくらいでした。

フェースシールドをした
警備員さん、スタッフさんも
けっこうたくさんおられます。
いちばん下っ端と思われる
若者が繰り返し、
「ソーシャルディスタンスを
とっていただきますよう、
よろしくお願いします」と
声出ししております。

傘をさせば、
うまい具合に
距離が保てるのですが、
いまにも降りそうなのに
降らないため、
持っている傘は誰もさしません。

すでに私の後ろにも、
列ができておりますが、
私の前の人と距離をとろうと
後ろに下がると、
私の後ろの人との距離が近づき、
後ろの人の表情の
変化が気になります。

後ろに並んでいるのが、
女性だから余計に、
不審な前の男が、
私に近づいてきたわ。
距離を保てといわれているのに
イヤになっちゃう!
ぷんぷん!っていう気持ちが、
微かな表情の変化に顕れるのです。

こっちと離れたら、
こっちに近づき、
そっちには嫌がられ、
かといって、
じゃあ私は
どうすればいいのかしら。

アメリカと中国に挟まれて、
どうすればいいかわからない
小さな島国の気分なのです。

あ〜あ、
せっかくなら、
館内に入るのも、
1人目の客になりたかったな。
そうすれば、
後ろの人との距離だけを
考えておけば
いいじゃありませんか。

10時40分。
まもなく館内に案内しますと
拡声器にて案内がありました。
館内のお店が開くのは
11時だそうです。

なんとか目当てのお店に
1番目に辿り着かなくては。
ふと、
私の前後だけ、
やたらしっかりと、
ソーシャルディスタンスが
できあがっているのに気づき、
複雑な気持ちになりました。

順番に中に案内していただきます。
検温はなく、
整理券の確認があり、
消毒液を手に発射して館内へ。

入口近くで、
私の趣味に
理解を示してくださっている
知人に会い、
「がんばってください」と
声を掛けていただきました。
私は何を頑張るのだろうか。
しかし、嬉しいものです。

中はもう、
私の知っている新風館ではなく、
昔好きだった女の子に
久しぶりに会ったら、
雰囲気が随分と洗練されていて、
そのオーラに圧倒され、
声を掛けられなかったときのような
気持ちになりました。

どの店をとってみても、
私が1番目の客として、
想定されていないことは
間違いありません。

それでも私は、
その「洗練」に立ち向かい、
目当てのお店へ歩を進めました。
誰も並んでいません。
よし。

すぐ後ろには淑女お二人、
なんとまぁ、
上品なお二人がやってきて、
お店の方に声を掛けられています。

「2ヶ月待ったわ〜」
「ほんまに楽しみにしてたんよ」
「これはこれは、
ありがとうございます」
会話が弾んでおります。

「ご来店の方にお名前を
記入していただいていますので、
ご記入よろしいですか?」

うん?
こっちにいるぞ!
こっちに!
こっちに並んでるよ!?
僕だよ、僕!?
と、びびっておりますと、
淑女のうちの1人が、
「あちらの方が並んでおられます」
とおっしゃいました。

ああ、淑女というのは、
どこまでも淑女なのです!
スタッフの方もこちらを向き、
「それではこちら、
ご記入いただけますか?
1人目のところです」と、
言ったときの私の恍惚感ときたら!

1人目のところです・・
1人目のところです・・・
1人目のところです・・・・

久しぶりのこの感覚。
いざお店が開くと、
さきほど私が名前を記入した帳面を
携えた女性スタッフがやってきて、
私に恭しく礼をしました。

「ご来店ありがとうございます。
最初のお客様、ご案内いたします。」

最初のお客様・・
最初のお客様・・・
最初のお客様・・・・

ああ、この響きだけで
強くなれる気がしたよ。
ささやかな喜びを
つぶれるほど抱きしめながら
入店しました。

女性スタッフは
恭しいばかりか、
初々しくもあり、
想定していた感じの客では
なかったからかもしれませんが、
とても緊張されており、
そこには微笑ましさしか、
ありませんでした。

本日開館した新風館内の
「本と野菜 OyOy」の
1人目の客は私です。

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