山の中に浮かぶ明かり

北出さんは20代の頃、心霊スポットに行くのが週末のルーティンになっていた。
同じ高校を卒業した友人達と廃屋や廃村、心霊スポットと呼ばれる場所に
数えきれないほど行ったそうだ。
しかし、彼らが行くのはいつも昼間。
理由は単純で夜に行くのは怖すぎるから。
夜だけでなくたとえ昼間だったとしても、暗くどんよりとした天気の日には行くのを
迷ったというのだからなかなか興味深い。
そんな彼らだったからそれまで一度も危険な目には遭わなかった。
ごく稀に、変な声が聞こえた気がすると大騒ぎしたりという事もあったらしいが、
本来、心霊スポットなどというところは当時の彼らの様に、雰囲気を楽しめれば十分な遊び(趣味)で良いのかもしれない。
そんなある日、北出さんが不思議なものを見た。
彼の家は郊外の住宅地の2階にあるそうだが、その2階の窓からふと山の方を見ると
家らしき明かりがぼんやりと浮かんでいた。
彼の部屋の窓からはいつもその方角の景色が見えていたが、その方角に在るのは
山だけであり当然明かりが点いているのも見た事が無かった。
そしてその週末に彼らはその明かりが点いていた地点を探して車を走らせた。
大体の位置は把握できていたし其処が山の中だという事も分かっていた。
だから途中までは車で進み其処からは徒歩で山の中を探し回った。
しかし、家があるどころか、その辺りには道らしきものも無く在るのは単なる
獣道だけ。
そんな中を体中傷だらけにしながら4時間ほど探し回ったが結局何も見つけられずに
山を下りる事になった。
おかしいな・・・。
位置は合ってると思うんだけどな・・・。
そう思いながらその日の夜、窓からその方角を見ると、やはり家らしき明かりが
ぼんやりと浮かび上がっていた。
その時、彼はこう思ったという。
昼間に見つけられないとしても夜ならばあの明かりを目指していけば見つけられるんじゃないか?と。
それを友人達に話すと意外にも賛成してくれた。
そろそろ昼間の心霊探索にも飽きてきてたんだ・・・。
それに誰も知らないスポットを見つけられたら案外凄い事なんじゃないか・・・と。
そうして彼らは翌週の土曜日の夜に彼の家に集まった。
しっかりと明かりが点いているのを確認してから出かける為に・・・。
彼の部屋の窓から山に明かりが点いているのを確認した彼らすぐに車でその山へと
向かった。
昼間しか行かないくせに廃墟探索用のライトなどはいつも用意してあったから
全く不安は無かった。
それに前回その山に登った事で携帯の電波がしっかり届いている事も確認済み
だったから、いざとなれば山から助けを呼べばいい・・・。
そんな軽いノリだったそうだ。
彼らの作戦は的を得ていた。
昼間にはあれ程探しても見つからなかった山の中の明かりを目指して進んでいった。
車で途中まで進み道が無くなった時点で徒歩に切り替えようと思っていた彼らだったが
その明かりを手掛かりにして進んでいくと前回は途中で途切れていた道がそのまま
山の奥まで続いており結局車に乗ったまま明かりが点いている場所の手前まで
簡単に来ることが出来た。
ただ反面、彼らは少しがっかりしていたという。
道がしっかり続いておりこれだけ簡単に辿り着けるのならきっと目の前に在るのは
心霊スポットなどではなく、ごく普通の集落なのではないか?
そう思ったという。
それならば行く必要も無い・・・。
敷地には行った事で警察沙汰になるのも御免だった。
しかし、彼らは少し不可思議な事に気付いた。
彼らの目の前には少し開けた場所が広がっており其処には合わせて5軒ほどの
家々が建ち並んでいた。
しかし、その家はどれも古く老朽化が進んでいた。
確かに家の窓からは明かりが漏れていたが、もしも明かりが点いていなかった
としたら誰が見ても廃墟群にしか見えない様な状態だった。
本当にこんな家に人が住んでるのかな?
明かりが点いてるんだから住んでるんだろ・・・人が。
で、どうする?
車から降りて一応観察するか?
それともこのまま引き返すか?
そんな事を話していた時だった。
突然目の前が真っ暗になった。
彼らの車は念の為、ライトを消していたのだが、それまで点いていた家々の明かりが
一斉に消えてしまった。
彼らは何が起こったのか理解出来ず頭の中はパニック状態になっていた。
何しろ今まで灯っていた家の明かりが寸分のずれも無く一斉に消え辺りが真っ暗に
なってしまったのだから。
その時彼らの中の1人がこう言った。
もしかしたら俺達の事がバレたんじゃないのか?
不審者が来た・・・・みたいな感じで。
それにこんな山奥の集落っていうのも結束力が半端ないから俺達を捕まえようとして
いるのかもしれないぞ。
それに警察を呼ばれても面倒な事になる・・・。
さっさと此処から逃げようぜ・・・と。
その意見には他のメンバーも同意見だった。
すぐにライトを点けて今来た道を戻ろうとした。
そして彼らは愕然とした。
帰り道が消えていた・・・。
いや、もっと正確に言えば、彼らの車の回りに在るのは深い森だけ。
先程の開けた場所も家々も消えており彼らの車は深い森の中に取り残されていた。
なんでだよ?
さっき此処に来るまで通ってきた道は何処に消えたんだよ?
俺達はどこを通ってこんな森の中に来たんだ?
そう言い合いながら恐怖と闘っていた彼らだったが次の瞬間、車のエンジンが停止し
それと同時に車のライトも消えてしまい完全なる闇の中へと突き落とされた。
なんなんだよ・・・・これ!
やっぱりこんな所に夜に来るべきじゃなかったんだよ!
そんな文句を言いながらも彼らは冷静に車のドアをロックした。
それはある意味では彼らの生存本能がこれから起こる事を予感していたのかもしれない。
そして、その予感が的中した事を彼らはすぐに自覚する事になった。
カサカサと何かが動き回る音・・・。
そして近づいてくる呻き声・・・。
それらを耳にした彼らは恐怖に耐えかねて両耳を塞ぎ目を瞑った。
その直後、ドン!という音とともにゆっくりと車が揺れ始める。
そして、その揺れはどんどん大きくなっていき彼らは車がひっくり返される様な
恐怖すら感じたという。
彼らが記憶しているのはそこまで・・・。
その後意識を失った彼らは朝になって眼が覚めた。
夢だと思いたかった。
しかし、車の中はひっくり返された様に色んなものが散乱していた。
そして車内から外を見た時、やはり昨夜の出来事は夢などではなかったのだ、
という事を思い知らされた。
彼らの車の回りには昨夜同様、大きな木々が隙間なく立ち並んでいた。
その時点で彼らは覚悟を決めた。
車から外に出て一気に山から下りなければいけない・・・と。
彼らは合図の後、一斉に車から飛び出してその場から走り出した。
その際、車の外装がかなり汚れているのが分かったらしいがそんな事を気にして
いる余裕は無かったという。
歩きずらい山の中をそれでも必死に走り続けた。
そのうちに木々の陰から沢山の人外のモノが彼らをじっと見ているのが分かった。
それこそ数えきれないほどの人外のモノが・・・。
それでも彼らは止まる事無く死に物狂いで走り続けかなり山を下りた所で
林業関係者に助けられた。
警察に通報してもらい彼らが夜を過ごした場所を探したが結局彼らの車が
見つかる事は無かった。
全ては幻覚として処理され事件性は無いという結論に達した。
しかし、それから数か月後、彼らが乗っていた車は、その山の麓にあるゴミ処理場に
置かれているのが発見されたが、その車は車名の見分けがつかない程圧し潰され
車内は腐乱した小動物の死骸で満たされていた。
ナンバーから彼らに連絡が入ったという事なのだが、彼らにすればあの車がいたのは
完全なる森の中。
道も無く木々が生い茂っており、其処から車を運び出すのは絶対に無理があった。
そんな場所から一体誰がどうやって車を運び出したのか?
いや、そもそもあの夜の出来事は一体何だったのか?
全ては説明がつかなかったが、それ以来、彼らは夜だけでなく昼間の廃墟探索
も全て止めてしまったそうだ。

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