降りて来るモノ

以前は心霊スポットマニアとそれなりに親交があった。
もう彼らとは疎遠になってしまっているが彼らに何度も同行したうえで
1つ分かった事がある。
それは、心霊スポットマニアと呼ばれる者達の殆どは、ほぼ霊感がゼロ
の者が多いのだという事だ。
つまり霊感がゼロならば実際に霊に遭遇することも無く雰囲気だけを楽しめる
のだろう。
いや、実際には霊に遭遇していてもそれに気付かない。
視えないのだから仕方ないのだが、逆に言えば実際に見てしまい恐ろしい目に遭った
としたら、二度と心霊スポットなどには近づかないだろう。
そんな中でもさすがに強力な霊がいる場合には霊感が有ろうが無かろうが
ある意味、関係無い。
否応なしに視えてしまうのだから・・・。
これから書くのはそんな危険極まりない霊に実際に遭遇し視てしまった心霊スポット
マニアから聞いた話になる。
彼が同じ趣味の友人2人とその廃墟を訪れたのはもうかなり前の事になる。
それまで彼らは色んな心霊スポットに行き変な音や声を聞いたり足音を聞いたり
した事はあったが実際にその眼で霊の姿を視た事は無かった。
だからこそ、そんな無謀な場所に行ったのだと思うのだが、彼らがその時
訪れたのは郊外に建つ廃病院だった。
色んな噂が流れている心霊スポットであり、行けば必ず霊を目撃してしまうと
噂されていた廃病院だ。
Aさんからも、よく
あそこには危ない霊が沢山いますから絶対に近寄ってはダメです。
と言われる程の場所だった。
5階建ての廃病院は、独特の雰囲気があり俺にしてみればAさんに言われなくても
頼まれたって近づきたくない場所の1つだった。
だから、もしかしたら彼らもそれなりに怖かったのかもしれない。
いつもならば心霊スポットに行くなら夜しかない、と豪語していた彼らが
その廃病院へ探索に入ったのは晴れた日の昼間だったのだから。
車を廃病院の前に停めた彼らは、そのままゆっくりと中へと入っていった。
入り口の自動ドアは既に破壊されており病院内へ入るのにそれ程苦労は無かった。
しかし、昼間だというのに病院の1階ロビーは異様なほど暗く感じた。
彼らは持ってきた懐中電灯を点けてそのまま歩を進める。
彼らが心霊スポットに行った時にはいつも最上階から探索するのが決まりになっていた。
だから、彼らは最上階を目指して受付横の階段を上っていった。
階段は更に暗く一層恐怖心を盛り立ててくれた。
自分達の足音だけが響く階段を彼らはふざけながら上っていく。
昼間だというのに病院の中は異様に寒かった。
いつもの心霊スポットとは違う感覚を彼らは感じていたそうだ。
そして5階まで上るとそのまま屋上へ出るドアを探した。
ドアはすぐに見つかった。
開いたままになっていたから。
彼らは勢いよく屋上へ出るとそのまま屋上の縁まで進んだ。
屋上には異様な高さのフェンスが設置されていた。
そして、3人の中の1人が口を開く。
知ってるか?
この病院って屋上からの飛び降り自殺が頻発したらしいぞ。
だから、こんなに高いフェンスを慌てて設置したって噂だ。
それでも、やっぱりフェンスを乗り越えて飛び降りる患者もいたらしいけどな、と。
その時、突然屋上に出るドアがドーンという音と共に閉まるのを彼らは見た。
え?
俺達の他にも誰かこの廃病院を探索してる奴がいるのかな?
だったら、そいつらと一緒に行動した方が面白そうだよな。
彼がそう言うと他の2人もそれに同意した。
普通ならば怪異と捉えるのが筋なのだろうがそれまで幾多の心霊スポットを回り
本当に怖い体験をして来なかった彼らにしてみればそう考えるのも何となく
理解出来るのだが。
それに、やはりその廃病院に昼間とは言え3人だけで来た事を彼らは
後悔していたのかもしれない。
だからこそ、一緒に行動する仲間が必要だった。
彼らは急いでドアに駆け寄るとそのまま5階の廊下へ出た。
きっとまだ5階にいる筈だよな・・・。
そんな事を言いながら彼らは先程ドアを閉めたであろう同業者を探し始めた。
しかし5階からは誰かの足音どころか気配さえも感じられず完全な静寂に
満ちた空間が広がっていた。
おい、どうする?
さっさと下の階へ降りてしまおうか?
そんな事を彼が言った時だった。
何かが動いている音が聞こえた。
ハッとして振り返るとそれはエレベータが下の階から上がってくる音だった。
どうしてエレベーターが動いてるんだ?
此処は廃墟になってからもう10年以上経ってるはずなのに・・・。
しかし、彼らはそれでもその状況を自分達に都合よく解釈してしまう。
もしかして、まだ電気が通っているのかもしれないな・・・。
管理会社の人達が点検しやすいように・・・。
そう言ってその場から逃げようとしなかった彼ら。
その間もエレベーターはゆっくりと上がってきていた。
その時、彼らの1人が不可思議な事に気付いたのだという。
エレベーターは動いているが運転中に転倒するはずのランプが点いてはいなかった。
彼らは次第に恐怖を感じ、一斉にその場所から走り出し階段を降りだした。
誰も口を開く者はいなかった。
とにかく一刻も早くその病院から外に出たかった。
その時、必死に階段を駆け下りる彼らの耳に自分達とは別の足音が聞こえたそうだ。
カツーン、カツーン、カツーン、カツーン・・・・。
それは固い靴底の靴でゆっくりと階段を降りている様な足音に聞こえた。
やっぱり誰かいるんだ・・・。
彼らは更にスピードを上げて階段を駆け下りるが何故かゆっくりと歩いている
その靴音は次第に彼らに近づいて来るのがはっきりと分かった。
もう誰も背後を振り返れなくなっていた。
それでも、何とか1階まで降り切った彼らはそのまま急いで玄関から外に
出ようとした。
その時だった。
突然、1階のエレベーターの扉が開く音が聞こえた。
本来ならば決して見てはいけなかったのだろう。
しかし、彼らは反射的にエレベーターの方を見てしまう。
彼らが見た時、看護師らしき女性が車椅子を押してエレベーターから出てくる
ところだった。
しかし、看護師はまるで骸骨の様な顔で笑っており車椅子には人間だったとは
思えない程崩壊した姿の何かが座っていたそうだ。
彼らは大きな悲鳴をあげながら玄関から外に出ると急いで車を発進させた。
そして、何とか無事に家まで帰った彼らだったがその晩から全員が原因不明の
高熱で意識を失い、それから意識が戻るまでに3か月以上かかった。
そして、彼ともう一人は無事に退院できたが、もう一人の友人は
精神を病んでしまいそのまま精神病院へと移送され半年後には亡くなった
そうである。
彼はその事がきっかけできっぱりと心霊スポットには近づかなくなった。
そして、その廃病院も既に取り壊され更地になっている。
それでも、今でもその場所では怪異の目撃情報が絶えないそうだ。
俺が近づく事は絶対に有りえないが・・・。

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